第109話 帰って来たのは『誰』だ?
【ホマレ視点】
スキル騒動の後、俺は家にやってきた連絡隊員からの要請を受けて急遽現場へ直行する事となった。
何でも大きな事故があって他の隊員たちはそっちの対応を任されている関係で人手が足りないらしい。
ノースベリアーノのルドウェラ地区にある廃墟となった建物で肝試しをしていた連中が死体を発見して事件性があるかもしれないとの事だ。
こっちの世界でもいるんだよな、そういうバカな事するやつ。
しかもこっちの流行じゃ『冬』にするんだよな。何故かって言えば『冬の方が震えるから』らしい。
違う!それ寒いだけだからな?
そもそも肝試しって建造物侵入だし下手したらガチもののゴーストモンスターが生息していたりするのでかなり危ない。
毎年、この時期に何人もしょっぴく羽目になるんだよなぁ。
「それで、事件性のあるご遺体って何処だい?」
廃墟の奥までやってきたがそれっぽいものは見当たらない。
こういう場合、ウチではバレッタ隊長が現場入りして待ち受けている事が圧倒的に多いのだがその気配も無い。
まあ、先に言われた大きな事故の方へ駆り出されているのかもしれない、か。
「あんたさ、名前は何て言ったっけ?」
案内してくれた連絡隊員に名を尋ねる。
「え?はあ、セルモと言いますが?」
「あのさ、『青ゲットの男』って知ってるかい?」
「はぁ……知りませんけど。いきなり何ですか?」
「いや、ものすごく昔に本で読んだ事件をちょっと思い出してね。まあ、何ていうか……」
俺は素早く剣を抜いて振り向くとセルモによる短剣の一撃を受け止める。
「な!?」
「こんな感じの事件?ちょっと違うけどさ?」
地球の明治時代に日本で起きたという未解決殺人事件。
雪の夜に『病人が出た』と尋ねてきた謎の男に連れ出され家族3人が犠牲になったという。
「それで、何で連絡隊員って偽装してまでこんな面倒な真似するのさ。まあ、仕事柄犯罪者に恨まれたりはしてるだろうけど、手が込んでるよな?」
とりあえずこいつは大した使い手じゃない感じだな。
さっさと叩きのめしてしょっぴかせてもらうとしようか。
「手が込んでるだろう?それでもまんまと引っかかってくれて助かったよ」
背後に気配を感じそちらへ向かって剣を振るう。
難なく剣を掴んで受け止めたのは髑髏の面を被った黒いフードの人物。
こいつ、確かアトムとキララがおふくろを襲った時に現れた奴か!?
「へぇ、青ゲットならぬ黒フードか。お前、何者だ?」
「邪審の祭壇、5つ目の災厄……名は『セルフ』!!」
災厄。確かアトムの情報によると幹部に与えられた階級だったか。
「お前を許さない。俺から『全て』を奪ったお前を許すわけにはいかない!お前が俺から奪ったものを返してもらう時が来たのだよ」
またそれか。
俺がチートスキルでイキってた頃に恨みを買った奴の可能性だってあるな。
あの頃の俺をグーで殴ってやりたい。
「悪いけど心当たりが無いな。一体お前はどこの誰だって言うんだッ!!」
仮面へ手を伸ばし引きはがす。
その下にあった顔は……
「お前……嘘だろ?」
【フリーダ視点】
「ふふっ、『オーラマイスター』ですよ?『聖女』ですよー?ふふふ」
数時間前まで落ち込んでいたのが嘘の様に浮かれているセシルがちょとウザイ。
わたしの息子なんて生後半年でエロガキ確定したっていうのにいい気なものだ。
いや、今からしっかりと教育してやればエロながらも立派な大人に育ってくれるか。
ただ悔しい事にわたしは学が無いからなぁ。
読み書きは大分出来る様になってるけど他の3人に比べれば圧倒的に教養が足りないからなぁ。
「こうなると次はクリスの子どもがどうなるか楽しみですよね」
「あ……でも私は……」
ナギと家事をしていたクリスがうつむく。
クリスは『まだ』だからなぁ。まずはそこからだ。
「あれ、クリスってば『カップル宿』いかなかったんですか?勿体ない」
セシルの言葉にクリスが真っ赤になる。
「また何か変な事言ったの、セティ?」
「変な事言ってませんよ。二人で出かけるついでに一発キメてきたらどうかって……痛ぁっ!ちょっとフリーダ、何で『でこチョップ』食らわすんですか!?ジェス君より痛い!!」
わたしのでこチョップにセシルが抗議の声をあげた。
ホマレのやつ、何だかんだで手加減してたんだな。
「当り前だ!何つーアドバイスだ!!」
「えー、でもでも~」
「今のはセティが悪い。そもそも自分が初めての時に『あたし、一人で大丈夫ですもん』って言って大変なことになったの忘れた?」
「あ、忘れてました」
いい性格だよ、まったく。
ホマレは時々変なスイッチ入るからなぁ。
「それにしてもホマ、遅いね」
仕事柄仕方ないけどこんな風に休日でも出て行かなきゃいけない事があるんだよな。
警備隊なんか辞めてお義父さんみたいに冒険者一本でやって行ってもいいだろうに。
その方が稼げるけどあいつが言うには『決して高給取りじゃ無いけど安定してそれなりの収入』があり『仕事が家族を守る事に繋がる』から辞める気は無いらしい。
まあ、そうなんだけどさ。
「ただいまー」
そんな事を考えているとホマレが帰ってきた。
「あ、おかえり。事件、大丈夫だったか?」
「ああ。ただの『いたずら』だったよ。本当に困ったもんだ」
コートを脱ぎながらホマレはぼやく。
アルがそんな父親の脚にしがみついていた。
「ははっ、ただいま。悪いな、パパちょっと疲れててさ」
アルを引き剥がしてわたしの膝でうとうとしているホクトの頭を撫で、更にはベビーベッドのユズカの顔を覗き、テーブルにつく。
ん?いつもなら子どもを抱きあげて頬ずりするよな?
生まれたばかりのユズカの傍なんか10分は離れないから誰かが『そろそろ』って言わなきゃいけないくらいなのに……
何か子どもに対する反応がやけに薄いぞ?
「はぁ、腹減ったよ……今日の晩飯は何?」
ホマレの言葉に皆が一瞬止まる。
「えーと………今日は『キウス』だよ?」
野菜をくりぬいて中に挽肉やらを入れて焼き上げた料理名を告げるとホマレは満面の笑みを浮かべる。
「へぇ、美味そうだな。楽しみだよ」
いや、あんた今朝に仕込み手伝ってたよな?
結局不器用過ぎて途中から子どもの世話に追いやられてたけどさ。
わたしはセシルに目配せをする。
「ジェス君、ユズカなんですけどね?今日『聖女』の力があるってわかったじゃないですか。これは早い段階から修道院に入れたら将来的には立派に『3』位の聖女になれると思いません!?」
「そうだな。でも俺達の娘なんだし1位だって夢じゃないと思うぞ?」
「えー、1位とか夢見すぎですよ?もっと謙虚に生きないと」
セシルは苦笑した。
ナギが眉をひそめたがすぐにいつもの表情に戻った。
やっぱりおかしい。ホマレはシスコンだが『親バカ』でもある。
セシルが娘を修道院に入れるなんて言ったら断固拒否するはず。
ましてセシルの『3』に対する執念を知っているなら今の言葉が出るわけない。
「ホマレさん。ご飯なんですけどまだ出来てないからもうちょっと待ってもらうことになるんですけど…」
クリスの言葉にホマレは顔をしかめた。
「え、そうなのか?うーん、それじゃあちょっとおふくろのトコでも行ってこようかな」
やっぱり、これは………
「帰って来るまでにはご飯出せるようにしとくねー」
「ああ。でももしかしたらおふくろのトコで食べてくるかもしれないから遅かったら先に食べててくれよ」
「えー、またぁ。仕方ないなぁ」
苦笑するナギを見て確信した。
間違いない、こいつは………『ホマレじゃない』。
だってホマレは『余所で食べてくる』なんて絶対に言わないやつだ。
食べてきたとしても私達が作ったものは必ず食べる様な男なんだ。
「それじゃあ行ってくるよ」
ホマレの姿をした何者かはコートを羽織ると出かけていった。
「みんな……」
わたしの言葉にナギ、セシル、クリスが頷く。
あれがホマレでないとしたら本物は何処に?
「それをあなた達が知る必要は無いわ」
庭から声がする。
視線をやると見覚えのある魔導士風の女が立っていた。
「あんたは確か……キュレネ!?」
わたし達の前に幾度となく現れた魔女の姿がそこにあった。
イリス王国の戦いで倒されたはずだったがまだ生きていたのか。
「あら、あたし達がジェス君の偽物に違和感持ったのバレちゃいましたか」
もうちょっと本物を研究して化けろってくらい違和感あったからなぁ、あいつ。
「あの方はあなた達に対してあまり思う所が無かったようですね。好きにしていいとのことです。特別な力を持っているようですし捕えて実験台にしてもいいかもしれないわね」
言いながらキュレネは長く鋭い爪を持ったネズミの様な姿の魔神へと変身していく。
「キミさ、しつこいのは女でも嫌われるよー?それに、ナギ達にぼろ負けしてるじゃん。いちおー、ナギ達あの頃よりも強くなってるよ?」
2回目のゴーレムを使って来た時は逃亡する途中でナギに撃ち落されてたもんな。
「ふふっ、でも子ども達が後ろにいる状態で思うように戦えるかしら?私はそういう配慮は一切しない女なの。ゾルデ、バルクス!!」
キュレネの周りに蛇の顔をした女性魔人、全身各部に棘を生やした男性魔人が出現した。
「流石にこれだけの魔神が暴れたら子ども達も無事じゃ済まないでしょうね。赤ちゃんなんてひとたまりも無い。子どもの命が惜しければ素直に降参した方が身の為よ」
やれやれ、卑怯な連中だな。
まあ、こういう連中が絡んでくる可能性もしっかり理解した上でホマレと一緒になったんだし仕方無いか。
「さて、敵さんはこう言ってるけどみんなはどうだ?」
「ナギ、こーゆーの信じないタチなんだよね。ほら、『何もしないから』とか何かする率高いんだよねー」
「あたしは子どもを人質に取ろうとしているこの女にかなりムカついてるんですけど?」
「私もこういう人達の言いなりになるのは嫌いですね。虫唾が走ります」
まあ、そういうわけだよな。
「あらあら、随分とお馬鹿さんが揃っているのね。それじゃあ遠慮なく……」
「あれぇ?何か今日はパーティーでもあるのかなぁ」
抜いた刀を肩に置きながらゆっくりと庭を歩いてくる人影があった。
ああ、どうやら『間に合って』くれたようだ。
「何だ貴様は!?」
蛇顔の魔人が人影目掛け伸縮する腕を伸ばすが腕は届くことなく宙を舞った。
「なっ!?」
「いやぁ、久々にこのコ使うから腕が鈍ってないか心配だったけど大丈夫っぽいね」
刀を振るった人影の正体はアリス義姉さんだった。
「とは言え久々の戦闘なのでお気をつけください、お姉様」
更にその隣にはリム義姉さんも立っていた。
「うぇへへへ、大丈夫だって。それじゃあ、ボクらの義妹達を傷つけようとしてる連中にお仕置きしないとね!!」
「ええ。ウチの家族に手を出した事を後悔するくらい粉々に砕いて差し上げましょう!!」