第108話 子ども達のスキル
【ホマレ視点】
アトムとの話を終えて合流。
皆で帰る途中、ナギが眉を顰めた。
「ホマ、何かセティがパニックになってるっぽいよ」
どうやらナギが『みんなで帰るねー』とセシルに『声』を飛ばしたところ彼女の様子が変な事に気づいた様だ。
何事かと慌てて帰るやいなやセシルが飛びついて来た。
「ジェス君、どうしよう。ユズカがおかしいんです!!」
「ユズカが!?」
慌てて娘が寝ているベビーベッドに近づくと身体の周りには透明に光る小さな結晶がたくさん散らばっていた。
「何か変なものがユズカの周りにあるんです。掃除してもすぐ出て来るし、抱き上げたらボロボロ零れるし」
何だこれは!?
俺は恐る恐る白い結晶を指に乗せて舐めてみた。
「おい!ホマレ、あんた何をやって……」
「これ……『塩』だ」
俺の言葉に妻達が『へ?』と反応した。
「ジェス君、『塩』ってあれですよね。お料理に使うあの」
「ああ。『塩』だ。間違いなく」
慌ててセシルも結晶を舐めてみる。
「ホントだ、これ『塩』です。え?でも何でこんな……」
とりあえず強烈なパニックは収まったがそれでも皆困惑していた。
「もしかしてユズカ、何か『スキル』に目覚めたんじゃないのか?ほら、さっきだって」
「あー、そう言えばホクトがね……」
フリーダとナギによると先ほど外でホクトが『身代わりの術』を発動したらしい。
俺の子どもたちは皆、転生者ハーフで高いスペックと固有の能力を持つ。
姉さん達がそうであったように何かしらら特殊なスキルに目覚めていてもおかしくはない。
ちなみにケイト姉さんは『サブ属性の極み』、リリィ姉さんが『創造錬成』、アリス姉さんが『断刃』と我が家はそりゃもうスキルのデパート状態だ。
「つまりユズカのこれも何らかのスキルってわけか」
「塩を身体から出す能力が!?ちょっとかわいそうですよ。お料理の時とか便利ですけど」
だよなぁ。
ちなみにケイト姉さんは魔法使いの娘でありながら基本属性が『全く使えない』事に結構コンプレックスを持っている。
姉さんの魔力量で基本属性が使えればまた今とは違う人生を歩んでいただろうに。
「何にせよ、気になるな。『鑑定』してもらった方がいいな。とは言え、俺の子どもだと並の鑑定士だと鑑定しきれない可能性があるしなぁ」
簡易鑑定ならともかく、詳細な鑑定は結構値が張る。
この街で公認の鑑定士だと高いところでは1回につき50万くらい取られる。
子どもの為ならそれくらい痛くないがそれだけしても『よくわかりません』って言われる可能性があるからな。
ケイト姉さん達が正にそれだっただけに鑑定士はあまり信用できない。
「そうだ、あの人なら……マリエルさんなら」
親父の知り合いでエルフの賢者『マリエル』が浮かんだ。
姉さん達の鑑定も彼に頼んだのだ。
イリス王国の政変事件でも援軍として駆けつけてくれていたんだよな。
「でもあの人、何処にいるかわからないからな。親父に連絡取れないか聞いてみるか」
何せ基本人間嫌いのエルフだからな。
どこかの森の奥でひっそり暮らしているんじゃないだろうか。
下手したら国内にいない可能性もあるし……
すると妻達が変な顔をした。
「えーとホマが言ってるのってエルフのマリさんかな?」
「ああ、そうだよ。ナギもこの世界に来た時スキル鑑定してもらったんだっけ?あの人の鑑定は超一流だから信頼できるんだ。今どこにいるんだろうなぁ……」
フリーダが苦い顔をしてクリスと一緒に出て行った。
そして5分ほどして……
「やれやれ、いきなり尋ねてきて娘を鑑定して欲しいとはよ。便利屋と勘違いしてんじゃねぇNo!」
とんがり耳に女性のような美しい顔立ちをした『モヒカンヘア』のエルフが我が家にやってきた。
そう、この奇抜な髪をした彼がマリエルさんだ。
「え?マリさんどこに居たんだ!?」
「ホマ、何言ってるの。お隣さんだよ?」
「何だと!?」
まさかのお隣さん!?
「え?人間嫌いのエルフだよな?森とかに住んでるんじゃ」
「俺ちゃんって虫とか嫌いでSa。それに森の中より都会の方が色々と便利なんだよNe!あんなトコ好き好んでいるのマジで変態じゃん?」
エルフの伝統否定しちゃったよ。
何か親父の知り合いってこういう変な人多いよな。
「ホマレさん、ご近所づきあいしてなさすぎですよ」
「確かにホマ、引っ越しの日に挨拶とかせず仕事行っちゃってたねー。近所づきあいは大切だよ?」
いや、あれは急な仕事が入って仕方なく出たんだよ。
「で、でもナギだってそういうの嫌いだろ?」
ナギは何だかんだで結構閉鎖的な所がある。
元々地球では人間関係のいざこざで色々苦しんでいたからな。
「そうだけどさ。必要ならナギは近所づきあい出来るの」
「ナギはあんたと違って大人だからな」
ぐっ、腹が立つが言い返せない。
挨拶だって後日改めてしに行けば良かったわけだし俺の不徳の結果だ。
「あの、マリさん。娘の身体から塩が出るんです。変なスキル持ちなんじゃないかって……」
いつもの元気な様子からは想像できないくらいセシルはテンパっていた。
「ほう、これはこれは…………やっべ」
おいおい、『やっべ』だけ急に野太い声で言わないでくれ。怖いぞ。
「マリさん。その、ユズカはどんなスキルを持ってるんだ!?」
「落ち着きなって。そうだねぇ、簡潔に言えば…………『塩使い』ってやつ?。自分の中にある『気』つまり『オーラ』を変質させて『塩』に変えちゃってるんだよね。もしかしてママちゃんとかそういう性質持ってたりするんじゃないKai?」
「あたし、『気』で自分の身体を刃に変質させることのできる能力者です!」
「つまり、おんなじ系統ってワケ。性質の遺伝。この子は『塩』を生み出せるのさ。病気とかじゃないから心配いらNeeee!!今は目覚めたばかりだからきちんと制御できていないだけってわけSa」
やっぱりスキルか。病気でないということは一安心だ。
だがセシルはユズカの頬を撫でてうなだれる。
「ごめんねユズカ。お母さんのせいで『しょっぱい女』になっちゃって」
「いや、セシル。そんな落ち込むなよ。塩だってその……凄いぞ?」
フリーダが励ますがセシルはベッドから離れると膝を抱え壁に向かって座り込んでしまった。
「慰めなくていいんです。あたしは娘を『しょっぱい女』にしてしまったんです……」
やべぇ。底抜けに明るいこいつが落ち込むなんてめったにない事だ。
どう慰めればいいんだ?家の空気全体がどんよりしてきたぞ。
「Hey、落ち込む必要は無いZe。『塩』はあくまでこの子の能力の一端ってやつよ」
「へ?」
セシルがマリさんの顔を見る。
「ママちゃん、料理得意なんだろ?お腹の中に居る時に聞こえてきたママちゃんが料理する音とか色々影響して、まずは『塩』に目覚めたんだYo」
「ちょっと待ってください。次はまさか『ソース』に目覚めたりするんですか!?」
「落ち着けってママちゃん。この子はさ、『オーラマイスター』なのさ!」
聞き慣れないスキル名に皆首を傾げた。
「自分のオーラを様々な形に変化させることが出来るのさ。訓練すれば『塩』以外にも色々な能力を開花させることが出来る、才能の塊ってやつさ。ヒュゥッ!パパちゃんも『闘気』使えるだろ?それも影響してるねぇ」
「才能の……塊!?この子が……」
「しかも、ママちゃんが持ってる癒しの力もこの子から感じるよ」
つまりそれってユズカには……
「この子に、『聖女の力』が?」
その言葉をセシルは何度も反芻。
そして……
「うはははは、ジェス君聞きました?あたし達の娘、『才能の塊』ですよ?聖女の才能有りですよ!?きっとあたしみたく『3番目』に強い聖女になりますよ!!」
いつもの元気なセシルに戻っていた。
いや、娘にまで『3』を押し付けるな。
というかイリス王国にはやらんぞ。聖女になんてさせないからな!!
その様子を見てマリさんも小さく息をつく。
「ついでに息子ちゃん達も鑑定してあげようKa。まず、長男ちゃん。パパちゃんと同じ『光の力』とナギちゃんに似た『声』の能力に目覚めてるZe!!」
「やっぱりかー。時々離れててもアルの『声』聞こえる時あるんだよねー」
ナギの場合、そんなにアルから離れることがない気もするが確かにそれは俺にもある。
仕事の時なんか家から少し離れた所で『パパー』って聞こえる気がする時があるからな。
あれ、やっぱり本当に聞こえてたんだ。やべぇ、ちょっと嬉しいぞ。
「そして次男ちゃんだけど……………ワオ!」
マリさんは驚きの声をあげた。
「色々なスキルを持ってじゃん。『胸のサイズを即座に鑑定する能力』とか『お尻のサイズを把握する能力』とか『性別を見抜くスキル』……」
「ちょっ、ほぼエロ関係のスキルじゃないか!?」
フリーダが悲鳴に近い声をあげた。
「この子の並々ならぬ異性への興味が目覚めさせたスキルとういわけだね。スゲーなオイ!!」
「生後半年なのにもうそんな……あぁ、先が思いやられる……」
流石転生者ハーフ。
何というか色々と早熟だな。
「あれ?でもこんな段階からエロに目覚めてるってもしかして………」
もしかしてホクトは俺と同じ『転生者』だったりするのか?
つまり見た目は生後半年だが魂はオッサンみたいな感じの……
「安心しNa。この子はエロいけど、転生者ってわけじゃない。つまりエロいのは……単純にホマレちゃんからの遺伝ってわけさ。ヒュゥ!!」
そうか、純粋に俺からの遺伝か………っておい!!
妻達の視線が俺に集中する。
「待て!俺のせいか!?俺が悪いのか!?あーいや……………俺のせいか」
だって俺からの遺伝だもんな。
中身がオッサンとかじゃなくて父親に似たのか。
そうかぁ。いや、俺ってガキの頃そんなエロかったか?
「ああ、きっとこの子も将来女の子をたくさん連れてくるんだろうなぁ」
「えーと、フリーダ。考えようによっては賑やかで楽しいかもしれませんし、ほら、元気出してください。ね?」
今度はフリーダが膝を抱え壁に向かって座り込んでしまった。
そしてそんな彼女を励ますセシルであった。