第103話 星空の下で
遂に4人目!
【ホマレ視点】
マリクワを連行して報告書を提出するとバレッタ隊長から『お休みなのに仕事熱心ですね』と感心された。
いやだって、捕まえちゃったからなぁ。
一通りの作業を終え、冒険者ギルドにクリスを迎えに行く。
ケイト姉さんが何やら言いたそうな表情だったがまあ、色々とごめんなさいだな。
「始末書なんか書いたの初めてでした。意外と楽しいですね。癖になりそうです」
俺の隣を歩くクリスは笑っていた。馬車に無賃乗車した件だな。
いや、始末書なんぞ癖になっちゃダメだろ。
外はすっかり暗くなっていた。
さっさと帰ろうと思っていたらナギから『きっちりやる事は終わらせて来るように』と釘を刺す声が飛んで来た。
うーん、まだケイト姉さんに許可とかもらってないわけだしどうしたものか……
「あの、ホマレさん。ちょっと付き合って欲しい所があるんですけど」
「え?あ、ああ……」
□
クリスに連れて来られたのはノースベリアーノの展望公園だ。
「うーん、やっぱりここからの景色はいつ見ても綺麗ですね。覚えてますか?私が孤児院に居た時、ホマレさんが塞ぎ込んでいた私をこっそり連れ出してここに連れて来てくれた事」
「ああ。裏からこっそり入ってお前を抱えて連れて出たんだよな」
冷静に考えればただの幼女誘拐だ。
よく捕まらなかったものだ。
「あの頃は私の事、男の子だと思ってたんですよね?」
「うっ、それは何か色々と済まない」
「しかも『ちょっとそこで小便して来るわ』って木にしてましたよね。『一緒にするか』とかもうセクハラですね」
何やってんだろうな、過去の俺。
思いっきり殴ってやりたい。
「それが丁度あのあたりで……あっ」
俺が小便をした木は枯れていた。
「ホマレさん。何か変なもの出しました?自然破壊ですね」
「ち、違う!そんなわけない!というかそもそもあの木じゃないかもしれないし」
「いえ、あの木でした。記憶力には自信があるんです。あなたからかけてもらった言葉だって一言一句漏らさず記憶していますよ?」
マジかよ。
道理で史上最年少で受付嬢に合格しただけの事はあるな。
という事は俺がしたであろうセクハラ発言も全部記憶しているわけか。
法廷に持ち込まれたら負ける奴じゃん。
「ホマレさん。あなたは家族を亡くしてひとりぼっちになった私を助けてくれました。その温かさに励まされて、あなたの事をひとりの男性として慕うようになったんです」
あれ?
ちょっと待って。これなんか始まってない?
いやいや、何かあるとは思ったけど俺の中では想定外の事態だぞ!?
俺はとしてはクリスの気持ちについて軽く触れて少しずつ進めて行かないかと提案するつもりだったんだけど!?
「あの……クリスちゃん?」
「最初、フリーダさんを連れて来た時はショックでした。そこに重ねて次はセシルさんが一緒で、しかも3人と結婚していると聞いてかなり傷つきました。しかもあの期に及んで男と思われているっていうのも」
「うぐっ」
「でも、改めて理解しました。それでも私はこの人が好きなんだなって。そしてそれは今も変わる事無い気持ちです。だから」
俺の傍まで来たクリスが懐から何かを取り出し俺の掌に載せた。
「これを、受け取ってください」
ちょっと待てぇぇぇぇ!?
嘘、いきなり詰めてきた!?
だってこの感触ってあれだよな?
あの指に嵌める丸いわっか。指輪じゃ無いか!?
「既にあなたについている3つの指輪。今更そこにひとつくらい追加されても問題は無いでしょ?」
問題だよ!
いや、確かに最終的にはそのつもりだったけどさ。
何か今日のクリスは攻めすぎてないか!?
「まさかあいつら、ナギの『声』を使って裏でアドバイスを……」
「ナギさん達からのアドバイスはあなたと合流する直前が最後です。その後は私のアドリブです。最近気づいたんですけど、私ってちょっと欲深い所があるんですよ。だから本気で欲しいと思ったら躊躇しない事にしました。それで、どうしますか?勿論受け取ってくれますよね?」
やべぇ。完全にクリスに主導権を握られているぞ。
落ち着け。素数を数えればいいんだ。年上男性として俺がすべきことは…………
「クリス。本当にいいのか?お前はまだ若いんだ。それに、俺と結婚したら受付嬢としてのキャリアは……」
基本的に結婚した受付嬢は引退するか事務所内部での仕事に回される。
窓口に立っているのは基本的に独身の受付嬢だ。
「別にちやほやされたくて受付嬢になったわけではありません。それに優秀なら結婚しようが出世とかは出来ますよ?」
それは暗に『私は優秀な受付嬢です』と言っているよな。
まあ、実際に優秀だとは思うけど。
「そもそもですが私、もう子どもじゃないんで。だからボスにはきっちり私の気持ちをお話しました。許可は頂いていますよ?」
優秀なのも困りものだな。
これはもう外堀も埋められちゃっている状態じゃないか。
仕方ない。
「後悔は無いな?」
「くどいです。後悔なんか毛の先ほど無いですよ?」
こいつの胆の据わり方、下手したら他の3人より上かもしれん。
「それじゃあ……」
俺は3人分の指輪が合体している指へ4つ目の指輪を嵌めた。
すると指輪が軽く光を放ち融合した。神様ってのはあんまり好きじゃないがどうやら天に認められたようだな。
「クリス、改めて。俺と……」
油断していた。
俺からのプロポーズを遮る様に飛びついて来たクリスが俺の唇を奪っていたからだ。
嘘だろ。こいつ大人しく見えて誰よりも粋なナダ女子やってるぞ!?
もう『男からのプロポーズは許しません』を徹底している。
「安心してください。一番年下なのは理解しています。立場だってわきまえてますよ?何せ」
「子どもじゃないんで、だな?」
先に言われてクリスは頬を膨らませた。
やっぱり子どもっぽい所もあるじゃないか。
「クリス。これからもよろしくな」
「勿論ですよ。私、子どもじゃないですから」
星空の下、俺達は『家族』の待つ家へと歩みを勧めた。
レム・クリスティーナ
旧姓:クレイン
年齢;17歳
肩書:冒険者ギルド二等受付嬢
ナギによるあだ名;リスティ
能力:ポメちゃん
次章は少し長くなる予定です。