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第101話 クリス、開き直る

相変わらず歩みの遅い姉の恋愛が少し。

今回も出番が少ない主人公。

【ケイト視点】


 ここはサウスベリアーノの冒険者ギルド内にある執務室。


「え、『スピリット系モンスター』ですか?」


 魚を炙りながらトム君がこちらを向く。

 何だろう、職場でしかも執務室で魚炙るの止めてもらえないかなぁ……あーでも、美味しそうだしなぁ。

 とりあえず……黙認しよう。


「絶滅して尚も魂として彷徨い続けるモンスターの総称。『ゴースト』とはまた違う概念の存在よ。あたし達とは互いに干渉しあう事は無い。だけど極稀に干渉し使役が出来る『精霊獣召喚士』が居る」


「もしかしてクリスがそうだったりするんですか?」


「似ているようで少し違う。クリスはあたしやフリーダちゃんと同じく『ココの民』の血が流れている。恐らくあれは『心のカタチ』ね」


 二人分の飲み物を淹れる。

 彼は『自分がするのに』と言うけどこれくらいはしないとね。


「ココの民にとって特に重要なのはこれ」


 胸を指さす。


「え?む、胸ですか!?」


 顔を赤くするトム君に苦笑する。

 何か可愛いくらい初心な反応するわね。

 弟によると女たらしだったらしいけど……これも演技なのかしらね?


「違う。『心』よ。ココの民の能力は精神に大きく左右される。あたしの母親もそう。あの反則的なまでの強さは砕ける事のない金剛石の如き精神に起因しているの」


「なるほど」


 イリス王国へ嫁いだ妹にしてもそう。

 あの娘を最強の公爵夫人たらしめているのは『心』の強さ。

 まあ、全ての能力者が戦闘向きの能力というわけでは無いのだけれども……


 そんな事を考えているとトム君が炙った魚や野菜をパンにはさんでピックを指す。

 あら、美味しそう。


「出来ました。特製タタキサンドです」


 ふと、あたしと彼の関係って何だろうと考えてみる。

 監督している為、ほぼ毎日顔を合わせている。

 上司と部下だけど何故かこの頃自然とご飯を一緒に食べているし……客観的に見るとちょっとどうなのかなと思うところもある。

 まあ、それでも妙な安心感はあるし……

 

「うん。美味しそうじゃない。それじゃあ食べましょうか」


 とりあえずタタキサンドとやらが美味しそうだから気にするのは止めておこう。


  

【クリス視点】


 クチバシを回転させ滞空する謎の鳥。


「ポメちゃん、これは……」


 心臓が激しく脈を打ち呼吸が荒くなってくる。

 すると鳥はこちらに向かって迫り出して…………


「やばいぃっ!!」


 留まるのは危険。

 そう判断した私は駆け出した。

 突撃してきた鳥が脇を掠り荷物の弁当箱をズタズタに裂いた。

 ああっ、結構お気に入りだったのに!!


 でもとりあえず理解した。

 あれに当たるのはマズイ!!


「な、何で私が!ポメちゃん!!」


 肩に乗る相棒に助言を求めるけれど……


『ふれーっ!ふれーっ!ク・リ・スッ!ポメ!』


 うん。わかってた。

 この子いつだってそうだもんね!!

 

 とりあえずこの鳥から逃げないと!

 飛行能力を持っている以上、直線を逃げ続けるのは無理がある。

 それならば曲がったりを繰り返していけば時間は稼げるはず。

 

 周辺の地図は全て『記憶』している。

 そこから最短で冒険者ギルドまで行けば何とかなる。

 案の定、曲がるとすぐには対応できない様子で時間が稼げている。

 路地に入り込み一気に近道を図るが……


「嘘ッ!?」


 路地の出口に馬車が止まっており道を塞いでいた。

 しまった。これは想定外!!

 逃げ道は無い。仕方なく戻ろうと反転した瞬間、鳥がこちら目掛け突撃。

 体をよじるけど脇腹をかすめた。


「ああっ!」


 間違いなくあの鳥は私を狙っている。

 そして視界の先、路地の入口にはあの少女の姿が。

 まさかこの鳥も彼女が!?

 何で彼女はわたしを狙うの?私がいったい何を……


「!?」


 足元に奇妙なものがあった。

 紙を折って作られたカエルの様な物体。

 避けるのも間に合わず踏みつけてしまうと『ゲコッ』という声と共に私の身体がこれまで体験した事も無いくらい大きく跳ねあがった。


「ヤベッ、『調整』ミスったし!!」


 口元を抑えて焦る少女を飛び越えそのまま建物の傍に置かれた木箱に落下

 全身を痛みが駆け抜ける。骨は……良かった、折れていない。


「クリス、頑張るポメ!ファイトだポメ」


 ああもうっ、役立たず!!

 強く打った肩を抑えながら少女と鳥から離れるべく走り出す。

 息が苦しい。何処まで逃げればいいの!?

 今日は本当に何なのよ。何であたしがこんな目に。


 セシルさんに誘ってもらって、希望が見えてきた。

 頑張って勉強してギルドの受付嬢になって、あの人に振り向いてもらおうとずっと頑張ってきたのに。

 それなのに、こんな所で訳の分からないまま変な奴に殺されちゃうの?

 私の人生それじゃあまるで意味なんか……意味なんか……


『ふれーっ!ふれーっ!ク・リ・スッ!ポメ!』


「ああもうっ!腹が立ってきた!!」


 どんな理由があるか知らないけど知りもしない子に命を狙われて、こんな所で死んでしまってたまるもんか!!

 ホマレさんもあれだけアピールしてて気づかないなんていい加減にしてよ!

 あれだけやってたらそろそろ気づくでしょ!

 というか3人の許可は貰ってるんだしもう決めた!こっちから一気に攻めていってやる!

 絶対に生き延びてやる!! 

 

 感覚を研ぎ澄ませる。

 そして耳に聞こえたある音を確認するとそちら目掛けて走り出す。

 息苦しい?そんな甘えてられない!

 私は絶対、彼のお嫁さんになってやるんだから!!

 交差する通りを馬車が駆け抜けようとしていた。この場所では安全の為、わずかに速度が落ちる。


「行くよぉぉっ!!」


『クリス、やれるポメ!頑張るポメ!!』


「当たり前でしょ!!」


 加速したまま地を蹴り大きく跳びあがる。

 目一杯腕を伸ばし、走行する馬車の一部を掴む。

 脚を踏み場にかけ必死に身体を支える。落ちてたまるものか!


「ちょっ、お嬢さん!?」


 御者の人が驚き振り向く。


「そのまま走り続けて!お金なら後で払います!!」


「え?」 


「いいからっ!止まったら末代まで祟り続けますからッッ!!」


「ひっ!?」


 これ、後で始末書とかかもしれない。

 だけど必要なのは生存する事。いくらでも書いてやる!!

 とりあえず一時的に鳥と少女を撒けた。


 すべきことは呼吸を整え、そして考える事。

 何だか『覚悟』を決めた途端、急に頭が冴えてきた。

 落ち込んでなんかいらない。考えろ!


 走って逃げる際中、街の人々はあの鳥に気づいていない様子だった。

 つまり、『私』にしか見えていない。ポメちゃんと似たような存在?

 現状では答えが出ない。次!


 あの少女について。

 鳥はあの少女が使役している?召喚士?


「でも何かおかしい。ならあの『カエル』みたいなものは……それに『調整ミスった』?もしかしてあの娘と鳥は関係が無い?」


 思考をまとめていく中、不意に近くで気配がする。


「ど、どういうことよ!?」


 先ほどの鳥がすぐ近くを滞空していた。

 警戒はしていた。飛行しながら接近して来る様子はなかった。


「まさか『瞬間移動』!?」


 やはり普通の生物では無い。

 そして私を『追跡』している。

 

 数秒後には攻撃が始まるだろう。

 それまでに、と冷静に観察して気付く。 

 単眼と思っていたがこれは違う。

 本来ならある眼球の動きが見られない。

 これは即ち本物と見間違うほどに精巧な『模様』だ。

 つまり眼は退化している。

 私を追跡するにあたって『何か別のもの』を利用して追跡している。


「音?いや、違う。もっと何か別の……」


 そこで気づく。現生のモンスターにこんなものはいなかったが似たような形のモンスターは見た事がある。

 確か視力が低い代わりに獲物の吐く『息』を探知して追跡するモンスター。

 もしかしてこいつも似た特性を持っている?

 時間も無いがためらいだって無い。大きく息を吸い込み息を止めてみる。

 すると鳥は私を見失ったように滞空したまま馬車と共に飛行している。

 どういう原理かわからないがひとつ理解した。

 息さえ止めていればこいつは私を見失う。

 とは言えいつまでも息を止めるわけにはいかない。


 そんな中、気づく。

 まずい、ギルドから離れて行こうとしてる。

 降りなければいけないが悠長に説明している暇もない。


『クリス!ファイト、ポメ!きっと大丈夫だポメ』


 本当にこの能力は。

 ひたすらに『応援』するだけだっていうのに、力が湧いてくる!


「途中下車します!」


 そう告げ馬車が通りを曲がろうと減速したタイミングで飛び降りる。

 上手くすれば植え込みに着地できるけど思ったよりも速度があった。

 

「受け身を!!」


 骨の一本くらいイクかもしれないけど命に比べれば安い物。

 衝撃の覚悟を決めた瞬間、何かが視界に映り膨張。私の身体を受け止めた。


「これは………」


「『紙風船』が受け止めたよ!!」


 これは確か先ほどの少女の声と一致する。

 何処から?


「上ッ!?」


 見上げると何やら奇妙な乗り物に乗った少女が急降下してくる。

 あれは……見た事がある。ホマレさんが紙で作って飛ばしていた『謎の物体』。

 あの人は『紙ヒコーキ』とか言ってたけど……


「ボクに捕まって!」


 片手を差し伸べる少女。私は迷わずその手を……取った!!

 そして敵の攻撃を避けて紙ヒコーキは上昇していく。


□□


「まさかこの頃からランペイジな人だったとは思わなかったよ……」


 少女が苦笑する。つまりは『暴れん坊』といいたいのか……失礼な。

 とりあえず私としては空を飛んでいることに大きな驚きを覚えるんだけど。


「呼吸を整えるなら今の内だよ。多分、一定距離離れたら『リポップ』まで少し猶予がある」


 言われた通り呼吸を整える。

 やはりこの少女は鳥を使役してはいない。そしてよくわからないけれど『味方』だ。


「あなたは……」


「ボクは『ベル』。『折り紙』使いのベル。あなたの味方だよ?」


 『折り紙』……ホマレさんが遊んでいたのも確かそんな名前だった。

 そしてこの娘にあるものを感じていた。もしかしてこの娘は……

 

 だけどゆっくりと話をしている暇は無い。今はすべきことをしないと。

 私は息を止め懐から取り出したメモに文字を書く。


『あれを倒す方法は?』


「わお、闘る気満々だね。あれはスピリット系だから『闘気』を使える人。或いは『ココの民』の血が流れている人の覚醒した『攻撃』なら届く。ボクの身体にも流れているけどあれを撃破する力は無いんだ。後は使役者を倒すしか無いけど正体はわからないんだよね?」


 無言でうなずく。

 こうなると倒せる人の所へ行くのが一番だけどギルドからは離れてしまっている。

 そろそろ息を止めるのも限界だ。

 だが飛行しながら私は眼下にそれを『見つけた』。

 慌ててメモで会話する。


『ところでこの紙ヒコーキって。どうやって操作する?』


「え?えーとね、この部分に増設した取っ手を動かすんだけど上手く動かすには繊細な操作が必要で……」


 なるほど。ならば別に『墜落』させるだけなら繊細な操作は『不要』というわけね。


「ごめん。しっかり掴まってて!!」


 私はベルから操作用の取っ手を奪うとある方向へ思いっきり傾けた。


「ええっ!?ちょっと何を!?ウソでしょッ!?ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


『クリス、最高にファンキーだポメ!ヒーハー!!』


「目指すはあそこッッ!」


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁっ!こ、こんなのウソでしょぉぉぉぉ、おかあさぁぁぁぁん!!!?」


 そのまま紙ヒコーキは私が見つけたある人物目掛け『墜落』していた。


【ホマレ視点】


 くそっ、完全にミスった。

 俺に向けられる新たな愛って冷静に考えたら『クリス』の事じゃ無いか!

 クダンの予言は絶対に的中する。

 つまり、今あいつは危険に晒されているわけだ。

 フリーダと共にクリスを探すべく街を駆け抜けた。

 ナギに索敵とナビをしてもらいながら探す。

 どうも目まぐるしく動き回っているらしく何かから逃げているのは確実だ。

 何か無茶苦茶な動きなので『声』を飛ばすのも難しい状態らしい。


『クリスを再補足。そっちに近づいてる!!』


「よしっ!今度はどっちだ!?」


 ナギの声が届く。


『えーと……は?斜め上!?』


 は?な、斜め上って……


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁっ!こ、こんなのウソでしょぉぉぉぉ、おかあさぁぁぁぁん!!!?」


 声のする方に視線をやると……巨大な紙飛行機が俺達目掛け墜落して来ていた。

 乗っているのはクリスと奇抜な髪色の少女。


「うおぉぉぉっ、な、何だあれ!?」

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