第100話 何か来る!!
100話目達成!
そしてまさかのクリスに迫る危機です。
【クリス視点】
「ねぇねぇ、クリスちゃん。今度俺とご飯行こうよ。俺美味しいお店見つけたんだよ」
今日もサウスベリアーノ支部の常連、ニョッキさんがクエスト受注ついでに口説いてくる。
「ダメです。そういうのは禁止ですよ?」
正直うっとおしい。
こっちはホマレさんの事で色々な病んでいるっていうのに。
「わかってるけどさぁ。恋する心は止められないっていうじゃない?」
「なるほど。それは理解できます。たまにはいい事言いますね。ニョッキさん」
そうだ。恋する気持ちは止められない。
だからこそ私は『4人目』になる覚悟をしたんだ。
そして他の3人にも認めてもらっている。頑張らなくては……
「でしょ?それじゃあ」
「でもダメです」
「そんなぁ、俺これまで何回こうやって誘ったと思ってるの?」
「今ので私が着任してから555回目のお誘いです」
「つまりそれだけ本気なわけだよ!だからさ、ね?」
この前向きさは見習うべきところがあると思う。
だからといって彼になびくとかと言えばそうではない。
「ダメです」
「でもさぁ……」
「ニョッキさんそれくらいにした方がいいんじゃない?そろそろ奥からウチのボスが出てくるよ?」
先輩受付嬢が助け舟を出してくれた。
ボスの名前を出すとニョッキさんの顔色が変わる。
「今日のボス、何かすっごい顔してるから怒らせたらヤバいかもよ?」
「そ、そうかぁ。うーん、それじゃあ俺はクエストに行ってくるかなぁ。そ、それじゃあクリスちゃん、ありがとうね!!」
慌てて走り去るニョッキさんの背中を見送りながら先輩受付嬢であるマリクワさんに礼を言う。
マリクワさんは私の肩を叩きながら笑った。
「あいつ、これまでも何人もの受付嬢に声をかけてるんだよね。まあ、何だかんだで事件とかになってはいないから出禁にはなってないけどウザイよね?今日のボスなら『出禁』にしそうな感じだったんだけどなぁ」
「ボス、機嫌悪いんですか?」
「うーん、何かさぁ朝から凄く表情が暗いんだよね。『妹が……妹が……』ってうわ言みたいに呟いてて何か怖い」
妹……つまりそれはホマレさんの家族についての事だ。
困ったなぁ。私としてはそろそろ思い切ってボスに彼の事を相談しようと思っていたのだけれど。
「……何かトラブルがあったみたいだけど大丈夫?」
「うひゃっ!ボス!?」
そろりと忍び寄る洞窟内のスライムが如く背後に現れたボスの声にマリクワさんが飛び上がった。
ホントだ。何かこの世の終わりみたいな表情をしている。
「いつものニョッキさんです。お帰りいただいたんで大丈夫です。ボス、大丈夫ですか?」
「いつもの彼、か……いや、何ていうかその……」
ボスは目頭を押さえてうつむいている。
「末妹がね……結婚するって聞いてその……ダメよね。祝福してあげなきゃいけないのに何か色んな感情が渦巻いちゃって……」
うわぁ。気まずい。
こんな状態で言えない。『あなたの弟さんと結婚したいんですけど』なんて!!
「ところでクリス、最近弟の所から通ってるらしいけど……大丈夫?何もされてない?」
「へ?え、ええ……別に何も……」
本当に何もされていない。
ちょっとくらい進展が欲しいと思うのは贅沢だろうか?
「気をつけてね。あの子、手が早いから。まあ、子どもが生まれてるからそこまで馬鹿な真似はしないと思うけど、だけどなぁ……前例がなぁ」
フリーダさんの事だろう。
凄く煙たがっていたと思いきや気づいたら無理やりキスをしちゃったみたいで今やあの状態。
キスか……どんな感じなんだろう。頭の中で想像をして思わず沸騰しそうになる。
「はぁ、行き遅れてる。本気で行き遅れてる……」
ボスの足元から毒が少しずつ溢れてきている。
あっ、これヤバい奴だ。
「お疲れ様です。ケイトさん、黒雷スパークリングですよ?」
唐突に現れた売店のトムさんが飲み物をボスに勧めた。
「あら、ありがとう。このシュワっとしたのがいいのよね!!」
好物の炭酸を貰い、溢れかけていた毒が戻って行く。
「トム!いつもながらナイスだぁぁぁっ!!」
マリクワさんがこぶしを握り締め彼を称賛した。
危ない所だった。とりあえず彼のおかげでカウンターから避難する必要は無くなった。
彼はボスの『下僕』を自称している。ボスも彼の事は気に入っているようで時々二人でご飯を食べている姿を見かける。
これは『難攻不落のレム・ケイトリン陥落か』と囁かれたが今の所それ以上の進展は見られない。
結構お似合いだと思うんだけどなぁ。というかボスには幸せになって欲しい。
ふと、視線を感じてギルド内を見渡す。
入り口周辺の長椅子に腰掛ける少女の姿が目に入ってきた。
髪の色はピンク、パープル、ターコイズといった3色が混じり合った奇抜な色。染めているのだろう。
少女は私の方を見ながら笑みを浮かべており手元では小さな紙を器用に折って何かを作っていた。
その姿に目を奪われていた所……
「クリス、どったの?」
マリクワさんに声を掛けられ我に返る。
「あーいえ、ちょっとあそこの女の子が気になって……あれ?」
少し視線を外した隙に少女は消えていた。
何だったのだろう。夢でも見ていた?
【???視点】
薄暗い路地で全身黒い衣装に身を包み髪をカールさせた男性が立っていた。
彼の名はフーシェ。イリス王国の宮廷魔術師をしていた人物であり政変の首謀者。
闇に蠢き、暗躍し混乱を引き起こしていく獣である。
彼はポケットに手を突っ込みながら物陰に隠れている人物に声をかけた。
「おめでとう。それが君の『能力』だ。使いこなして君の欲望を叶えたまえ」
告げられた人物は静かに頷きその場を去って行く。
「人の欲望とは浅ましいものよな。だがそれこそ人の本能やもしれん。なぁ、『セルフ』よ?」
見上げた先、壁面に逆さでへばりつく仲間に声をかける。
フードで身を覆っている彼はかつてアトム、キララがホマレの実家を襲撃した際に現れた謎の人物。
『セルフ』と呼ばれた彼は怨嗟を吐いていた。
「お前は許さない。ホマレ、お前は俺から『全て』を奪った。絶対に許さない!俺が手にするはずだった幸せ、いつか返してもらうからな!!」
【ホマレ視点】
俺は市場で妻達に頼まれていた買い物をしていた。
ナギから『余計なものを買って来ちゃダメだよ』とか釘を刺されたが俺、そんな事するかな?
雑な親父ならまだしも俺はそんな余計なものは買わないぞ。俺は出来る旦那だからな!
あっ、あの花って確かリリィ姉さんの名前の由来にもなった『リリエンタール』だ。
イリス王国原産の花なんだよな。セシルが喜ぶかな?
あっちにあるお菓子はケイト姉さんが好きなんだよな。
お菓子程度で買収できるとは思わないけど投資と考えれば……
「きゃあっ!?」
女性の悲鳴が上がった。
おやおやトラブルかな?
「どうしました?」
悲鳴のする方向へ行くと卵売りの屋台で女性が口元を抑えていた。
無言で震えながら卵を指さす。
並べられている卵のひとつにひびが入り何かが覗いていた。
あー、有精卵が混じっていたか……ショッキングだよなぁ。
「!?」
そこで異常さに気づく。
卵から僅かに覗くのは『人の指』みたいな形。
俺の中で継承が鳴り続けている。やべぇ、この感覚は!!
やがて『それ』は姿を現した。
ニワトリのヒナなんてかわいいものじゃない。
醜く歪んだ人間の顔、そして胴体からは指が生えている異形の存在。
『予言する』
まずい、『クダン』だ。
しかも視線は俺に向けられている。
マジかよ。人生2度目とかある!?
『お前に向けられる新たな愛に危機が迫っている。迫っているぞぉぉ。Don't Breathe』
クダンはにやりと笑うと破裂した。
新たな愛……まさか俺の子ども達に!?
「まさか!?」
俺は家へ向かって駆け出していた。
【クリス視点】
「それじゃあ、休憩いただきます」
お弁当を持って休憩へ出かける。
今日は気分を変えて近くの公園で食べよう。
何せボスが陰鬱な空気を出していて気まずい。
新鮮な空気を吸いながらこれからの事を考えよう。
『クリス、昼からもファイトだポメ!』
肩に乗ったポメが声援を送ってくれる。
あーあ、私もみんなみたいに凄い能力が欲しかったなぁ。
どうしても見劣りしてしまう。ホマレさんも必要としてくれるか不安だ。
『大丈夫。クリスにしかできない事があるポメ!!』
「そうだといいんだけど……」
お弁当を食べているとまたポメの声が聞こえた。
『クリス、気を付けるポメ。危険が迫ってるポメ』
「え!?」
それはこれまで聞いたことが無い、『警告』。
どういうこと? 危険って……
ふと、公園に先ほどギルドで見かけた奇抜な髪色の少女が居るのが目に入った。
「な……『何か』ヤバイ。あの娘、何かを企んでいる!?ここから、ここから離れないと」
心臓の鼓動が早まる。
弁当を素早くしまいその場を離れる。どうすればいい?
「一番いいのは……ボスの所へ行く!」
そうすれば大抵の事は解決するはず。
とりあえず職場へ戻らなくては。
走る速度を上げていく中、『それ』は聞こえた。
『クワワワッ!!』
何かの『声』。これは……ポメの声じゃない。
ゆっくりと真横に目をやると……空中にひとつ目の小さな鳥が。
モンスター!?いや、こんなの知らない。日々情報は更新している。
ギルドで確認されているモンスターの姿かたちはほとんど記憶している。
謎の鳥はこちらに対し明らかな敵意を抱いていた。
やがて鳥のくちばしがゆっくりと回転を始める。、
「ヤバイ!こいつ私を狙ってる!?」
違うホマレ、そっちじゃない。
早く気付け!!