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第99話 勘違いディヴェルティメント

意外に妄想が捗る『4人目』クリスちゃんです。

ホマレって自制出来ている時は凄く紳士なんですよ。自制出来ている時はね……

【クリス視点】


 出勤の為に歩く新しい道で私はため息をついていた。

 あの人に女の子と認識して貰ってから1年経った。

 それを気にセシルさん達は私を受け入れる準備を少しずつしてくれた。

 ちょとずつ家の手伝いをするようになり、あの人達との時間も増えていった。


 仕事終わりに彼の家へ行き、アル君たちのお世話をしてあげてついでにそのまま泊った事もあった。

 休みの日にはみんなとお茶会をして色々聞かせて貰ったり今後の対策を練ったり。楽しい時間だった。

 だけどあの人は相変わらず子ども扱いしてくる。それでも『距離は縮まっている』とナギさんは言っていた。私が居ることが『普通』になりつつあると。

 

 そして、家を引っ越す際に無理やり理由をつけて私も同居することになった。

 こっそり夜這いをした前科がある人だとは聞いていたので正直、ドキドキしていた。

 しかも子どもが生まれた関係で色々とご無沙汰だったとかそういう情報も聞いていたのでこれは下手したら夜に忍び込んで来てメチャクチャにされてしまうかも、とか考えてしまっていた。


 引っ越しから1週間。

 そんな事は全然無かった。いつそうなってもいい様にと覚悟を決めていたが彼は紳士だった。

 自分の妄想が凄く恥ずかしい。


『大丈夫。勝負はまだ始まったばかりポメ!!3回の裏が終わった所ポメ』


 私の肩に乗った小さな犬が語り掛けてくる。3回の裏って何?

 この子の名前は『ポメ』。

 私にしか見えず、声も私にしか聞こえない存在。

 丁度、ホマレさんに女の子として認識して貰えた頃から出てくるようになった。

 頭がおかしくなったのかと最初は思って悩んだ末に思い切ってボスに相談してみた。


 するとポメは私の『心の形』が力を持って生まれたものだと教えてくれた。

 そういう能力を持つ民族が居て、今はほとんどがナダ人と同化しているらしい。

 稀に覚醒する人が居て、ボスがその末裔。

 後はフリーダさんなんかもそうではないかということだ。

 どうやら『共鳴』した結果覚醒したみたい。


 そうすると私にも彼女みたいにホマレさんの傍で戦えるような凄い力が!?

 結論。そんな事は全然なかった。ポメの能力、それは……


『大丈夫ポメ。クリスは十分に魅力があるから絶対振り向かせられるポメ!!』


 ひたすら私を『応援し、アドバイスする』というもの。

 何でよ!特殊な効果が全然無い特殊能力ってどういう事!?


『自分を信じるポメ!みんなと絶対家族になれるから諦めちゃダメだポメ』


 頭が痛くなる。

 まあ、この能力のおかげで嫌な思考になりそうになっても引き戻されているのは事実。

 全く役に立っていないわけじゃないけど……何か違う気がする。

 

『ふれーっ!ふれーっ!ク・リ・スッ!ポメ!』


 そして時々うるさい。


【ホマレ視点】


 クリスを妻に迎えるにあたっての問題は保護者となっているケイト姉さんの許可だ。

 現在、ウチのきょうだいで独身なのは長姉であるケイト姉さんと末妹のリムのみ。

 そしてケイト姉さんの年齢は29歳。

 地球(いせかい)なら特に問題は無い。晩婚化している日本ではそれくらい普通の事だ。

 だがそれがこの世界、そしてナダ共和国においてだと『行き遅れ』に分類されてしまう。

 

 ナダ共和国に於ける女性の結婚は遅くとも27歳までに、というのが定説。

 更に追い打ちをかけているのが姉さんの職業である受付嬢。男性人気の高い職業のひとつだ。

 そんな受付嬢の平均結婚年齢は21歳というデータが出ている。

 姉さんはこの通りその年齢を大きく超えてしまっている。

 

 仕事を選んだキャリアウーマンと言えば日本でなら聞こえはいいがこの国では『何か問題があるのでは?』と言われてしまう。実際に問題はある。

 あの人は誰よりも相手を望みながら同時に無意識に男性をシャットアウトしているのだ。

 とりあえず、今は前世の弟であるアトムが傍に居て姉さんを慕っているのであいつに懸けたいのだがな……正直微妙だ。


 さて、そんな姉さんから若いクリスとの結婚許可を貰おうというのは……いささか難易度が高い。

 感情的な問題もあるしやはり保護者を任されているという責任もあるだろう。


「でも、お義姉さんならきっと話せばわかってくれますよ」


 まあ、セシルのいう事も納得だ。

 大切なのは当人同士の気持ちだからな。


「そもそも色々と心配するよりまずはクリスとじっくり話をした方がいいと思うぞ」


 ホクトをあやしながらフリーダが言った。

 その時、俺の鼻腔に素敵な匂いが飛び込んできた。

 この少し甘くも濃厚な土の香りが混じった匂いは……


「この匂いは……リムが我が家に近づいている!!」


 俺の言葉にナギが首を傾げつつ数秒後には苦笑する。

 多分、『声』で索敵したのだろう。


「……ホントだ。リーエが門の所まで来てるよ」


「犬並みの嗅覚ですね。姉妹限定なのが残念ポイントですけど……」


 はて、何処が残念なのだろうか。実に尊い能力だと思うが?

 さて、こうしてはいられない。

 身だしなみを整えて愛する妹を出迎えに行くとしよう。


「よく来てくれたな、リム」


 出迎えるとリムは小さくため息をつく。

 

「私の接近、ナギ義姉様とお兄様のどちらが気づきました?」


「勿論、俺の嗅覚が先だな」


 ナギは意識して索敵する必要があるが俺は近づけば自然と匂いを察知できる。

 まあ、他に強烈な匂いがあると阻害されるのが弱点だがな。


「……その才能を他でも発揮して欲しいものです」


 そこで気づく。

 リムの後ろには俺の相棒、イザヨイの姿があった。


「よぉ、相棒。お前一体どうしたんだ?」


「うん?ああ、実は彼女と一緒に来たんだ」

 

 リムと?

 顔を見るとリムは頬を紅く染め小さくうなずく。


「お話があります。中に入っても?」


「勿論だ。さぁ、入ってくれ」


 一体何だろうか?


「それで、話ってなんだ?」


 妹、そして相棒と向き合う。

 もしかして何か悩み相談だろうか?

 頭をフル回転させた結果、ある予想が立った。


 以前、イザヨイがしてきた恋愛相談。

 それが関係しているのだろう。

 そうだな。ちょっと上手く行っていなくてそれに関して俺の力を借りたいとかそういうものだろう。


「実はもう父様と母様達には報告したのですが、やはり次は協力してくださったお兄様だと思って……」


「うん?」


 リムはイザヨイと視線を交わし、そして俺の方を真っすぐ見ながら告げた。


「実は私、イザヨイさんと結婚することになりました」


 なるほど。結婚の報告か。

 それはめでたいな。そうか、リムが相棒と……相棒……と!?


「え?ちょっと待って誰が誰と?」


「だから、私とイザヨイさんです」


「何をするって?」

 

「結婚ですよ?私がイザヨイさんの『セキガ家』に嫁入りするんです。大丈夫ですか?何かよくわかっていない様な……」


 いやいや、俺はしっかり理解しているよ。

 そうか、リムと相棒が………………………………結婚!?


「はぁぁぁぁ!?」


 ちょっと待て、何が起きてるんだ!?

 理解が追い付かないぞ?


「おめでとう、リーエ!!」


「やりましたね。遂にゴールですね!!」


「良かったなリム義姉さん!!」


 妻達は自然に受け入れているが俺は何のことかさっぱりわからないぞ?

 何がどうなったらそうなるんだ!?


「お兄様に応援していただいたおかげで私も踏み出してみようと思いまして思い切ったんです。それで、年末ごろからお付き合いをはじめまして」


 応援?

 え?どういうこと?


「リム義姉さんから話を聞いた時は正直わたしも驚いたよ。あんたなら『自分が一生面倒見る』とか言い出しそうだって思ってたからさ。他人に託すとかやるなぁ」


「そうですね。まさかリムちゃんがイザヨイさんに惹かれつつあることを見破って助言するなんて」


「やっぱりホマも父親になって成長したんだねーって感心したよね」


 ちょっと何言ってるかわからないんですけど?


「ホマレ。お前が相談に乗ってくれたおかげだ。本当にありがとう!!」


 相棒が暑苦しい感じで礼を言う。

 よし、これまでの情報を総合して考えよう。


「………………………………あっ!」


 理解してしまったかもしれない。

 以前イザヨイが恋愛相談をして来た時、俺は『リムの知り合い』の事を好きなのだと思っていた。

 だがそれは間違いで実は『リムの事が好き』だったのでは?

 そしてその後、リムにはそれとなく相棒の力になってやるように言ったがこれを『イザヨイとの仲を応援するぜ』と捉えられたとしたら……というかそういう事なのだろう。

 うん。俺…………知らない間に二人の仲を取り持ってたんだ。


「お兄様、本当にありがとうございました。おかげで私の事をしっかりと見てくれる最高の人と結ばれることが出来ました」


「リシュトーエ……」


 以前ならそう呼べば立腹していた妹も今は頬を紅くして俯いている。


「イザヨイさんにそんな風に呼ばれるのも今は嬉しく感じます。ずっと私は立派な本名に似合わない女だと思っていました。でも今はこの名前が好きだって胸を張って言えます!!」


 涙をぬぐいながら喜ぶ妹。

 あれぇ、何か俺が意図してない方向にシフトしたなぁ。

 でもこれ、今更『アレは間違いだった』なんて言えないやつだぞ。

 妻達も感心してくれてるし……ここは……


「思った通りだな。イザヨイならお前を間違いなく幸せにしてくれるさ。妹を頼んだぞ、相棒」

 

 こう言うしかないよなぁ。


「ああ、任せてくれ!きょうだい!!」


 ははっ、相棒がきょうだいになっちまった。

 いや、妹が幸せならそれに越したことは無いんだが……うわぁ、マジかぁ。 

 

 するとホクトがぐずりはじめた。


「その泣き方はオムツだな。俺がするよ」


「え?ああ、ありがとうな」


 フリーダから次男を預かるとベビーベッドへ連れて行きオムツを替えてやる。

 色々な感情が渦巻いていた。嬉しいやら悲しいやら、過去の自分への怒りやら。

 何かちょっと涙出てきた。


「ジェス君。男泣きってやつですね」


「パパったらカッコいいねー、アル。キミもあんなお兄ちゃんになろうねー」

 

 違う。違うんだけどな。

 まあ、でも結果オーライという事にしておこう。妹が幸せならそれが何より重要なのだ。

 ただな、タイミングが少しマズいぞ。

 これでケイト姉さんの『行き遅れ』感が更に加速した。

 この状況でクリスを攻略して大丈夫なのか!?姉さんキレたりしないか?

 まあ、とりあえず今は……


「おめでとうな、リム、相棒」

 

結局最後まで残る長姉……どうしよう作者自身が心配になって来ました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3人の奥様がたが超すごいのに対して、ひたすら応援な能力は落胆せざるを…… でも、生活する分には奮い立たせるって意味で、ある種有能な能力! ふれーっ!ふれーっ!ク・リ・スッ!ポメ!(๑╹∀╹…
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