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百鬼夜行 ー 双子鬼 ー  作者: 昼咲月見草


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14/24

また一緒に

 翌日、舞は瑠花と一緒に買い物に出かけた。


 川先家がもともと住んでいた畠中の住宅地にある家は、隣の市に近く、瑠花の父が寝泊まりする以外に今は使っていない。


 そのため、食べ物などもカップ麺や冷凍食品くらいしか置いておらず、舞と瑠花はまず洋服を数日分と、日用品も一部含めた買い出しに追われた。



「お兄ちゃんがいれば楽なのに!」



 そう瑠花はふてくされる。


 好きに洋服を買えるのは嬉しいが、重い荷物を持ってあちこち買い物して回るのは不愉快なようだ。今朝もなぜ塾を休まないのか理解できない、と朗司(ろうじ)に不満をぶつけていた。



 その朗司は瑠花の言葉を全て聞き流し、返事どころかろくに相槌も打たずに友人宅へと向かったが、その直前、珍しく舞と視線が合ったのに戸惑ったような様子を一瞬見せ、そしてこう言った。



『あのな、舞。こいつの言う事もうちの母親の言う事も、どっちも適当に聞き流していいんだぞ。まともに相手するとバカを見るからな』



 それを聞いた瑠花が荒れ狂ったのは言うまでもない。



「……瑠花ちゃん、は、学校行きたくないの?」



 舞はまだ瑠花を認められない。


 けれど、瑠花が気にせず話しかけてくるので、いつまでも刺々しい態度を取り続ける事はとてもできなかった。

 それではまるで自分だけが子どものようではないか。



「んーー? 行きたくない、というか、楽しくないかも」



 買い出しリストを見ながら、瑠花が言う。



「あの学校って、小学校からみんな一緒でしょ? その中に入っていくのって大変だし、それになんかお嬢様っぽく、とかって合わせるのめんどくさいし、おまけに優しくないのよね」


「優しくない?」


「ニコニコしてても何考えてるかわかんないっていうか、こっちは合わせようとしてるのに嫌な目で見てくるっていうか。裏で『あらあの人、見て、嫌だわやっぱりお育ちが』とか言われてそう」


「そんな事言われたの?」


「言ってそうって勝手に思ってるだけ」


「そ、そっか……」


「桜川小の子たちは違った」



 突然、瑠花の声のトーンが変わった。

 舞が彼女のほうを見ると、眉が下がって悲しそうな様子に見えた。



「みんな優しかった。転校してきて、いろいろ教えてくれたり、遊びに誘ってくれたり、たまにケンカとかしても仲直りできたし、楽しかった。だから高見原中に行きたかったのに、ママが……」



 そして顔をしかめる。



「ケンカするのもやだったし、お嬢様学校ならみんなお淑やかでやりやすいかなって思ったの。でも誰も知り合いがいないのって難しいよ。麦ちゃんとかみんなのいる高見原に行きたい」



 舞は高見原でもどこでも良かった。


 でも瑠花とは別の学校に通いたかったし、何より隣の市の奥沢女学館に通うのであれば、山門(さんもん)から畠中の家に全員で移ることになっていた。それが嫌だったのだ。

 その山門の家ももう燃えてしまったが。


 家が燃えた事で。

 こうして食糧や衣服その他の日用品を買い揃えている事で気がついた事がある。



 世界は続いていくのだ。


 何があっても、どんなに悲しくても、世界は続いていく。


 毎日朝は来るし、お腹も空く。


 きっと、それがこの世界の残酷なところなのだろう。決して待ってはくれない。


 舞は4年、悲しんだ。4年も、世界を拒絶し続けた。

 ならばもういいのではないだろうか。



「瑠花ちゃん」


「なあに?」


「……また、いちごデニッシュ食べに行こうね」



 瑠花はぱかっと大口を開けて舞を見る。そしてしばらく言葉を失った。


 いきなりだっただろうか、それとも行きたくなくて断ろうとしているのだろうか、と不安になる。


 嫌なら気にしないで、と言おうとして口を開きかけた舞に、瑠花が一歩近づいた。



「行く! 明日! 明日がいい! 商店街行って、帰りに絶対公園に寄ろうね!」



 そして瑠花は天を仰いで「ああ〜〜〜〜っ!」と叫ぶ。



「明日お兄ちゃん一緒じゃん! キモい! ムリ! あいつどうにかしないと!」



 え、と舞が固まると、瑠花が真剣な顔で何事かブツブツ言い出した。



「いやでも先に帰しちゃえば……でもあいつ帰るかな。舞ちゃんが嫌がるって言えば帰るかも」


「その、ムリしなくても……」


「ムリじゃないよ。ムリなのはお兄ちゃん。あの人絶対、手つないでくるでしょ? もうほんと気持ち悪い、絶対ムリ」


「そう……なんだ」



 ずっと手を繋がれるのは自分だけではなかったのだ。それを気持ち悪いと思うのも。



「舞ちゃんには抱きついたりもしたんでしょ? ほんっとキモいよね。聞いてびっくりしちゃった。あんまりキモかったからつい殴っちゃった。あ、安心して、舞ちゃんの分も殴っといたから」



 姉と2人だった舞には、相手をキモいと(ののし)る事や、殴る事が理解できない。



「だ、大丈夫だったの?」


「何が?」


「その、ケンカになったりとか、怒られたりとか」


「なんで?」



 きょとんとする瑠花に、そういえば舞が『気持ち悪い』と言ったときも、朗司は何も言わなかったな、と思い出したのだった。











話が短いため、本日は2話投稿いたしております。

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