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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第二章 勇者と父

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第29話 勇者の母、不可能を可能にする/亜人の少女、真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす

 クロアはアルカの後ろに控えている三人に目を向けると、そっと息を吐いた。



「呆然としている暇はないぞ。アルカだけじゃない。強くなるアルカについて行くなら、君たちも強くなる必要がある。そのことを肝に銘じて、今後の行動を考えろ」



 クロアの言葉に、三人は不安げに頷く。

 この三人がどうなるかは今後次第。もし心が折れるようなら、そこまでの人材だったということ。その時はアーシュタルに進言すればいい。


 と、今度はウィエルが前に出た。



「まだ大分いますね。流石に四天王の配下の数は膨大ですか……じゃ、ちょっとだけ見晴らしをよくしましょう」



 ウィエルの手が上空に掲げられる。

 手の平に魔法陣が展開。それがウィエルを囲うように球体状に拡張され、ウィエルを完全に包み込んだ。

 クロアからしたら見慣れたものだが、ミオンたちは呆然とそれを見上げている。こんな魔法も、こんな魔法陣も、見たことがない。

 そんな中、魔法使いがそれを見て声を上げた。



「ま、ま、まさか……立体魔法陣、ですか!?」

「おや、そこのお嬢さんはよくお勉強していますね。その通り、これは立体魔法陣です」



 ウィエルが嬉しそうに答える。

 立体魔法陣という言葉に聞き覚えのないアルカが、魔法使いに聞いた。



「なあ、立体魔法陣って何?」

「……魔法というのは、魔法陣という緻密な式と文字、幾何学模様を組み込んだ媒体を展開して発動します。いわば人類の叡智です」



 自分の手の平に小さな魔法陣を展開して説明する。

 この小ささでも、目を凝らさないとわからないくらい細かい。魔法陣をまじまじと見たことはなかったが、こんなにも細かいものだとは思わなかった。



「立体魔法陣はこの平面の魔法陣に書かれた式や文字、幾何学模様を崩さず拡張し、球体の形にするんです。そうすることで、威力を何倍にもすることが出来ますが……欠点は、不可能ということです」



 魔法使いも魔法陣を球体にしようとするが、途中で砕け散ってしまい、宙に霧散した。



「魔法陣を一ミリ拡張するのに五年掛かると言われています。最小の魔法陣でも、完全な立体魔法陣を作る前に寿命が尽きます。体全てを覆う程の立体魔法陣なんてありえません」

「ふふ、見識が狭いですね。世は広いんですよ。……っと、話している暇はありませんね」



 ウィエルが手を魔族の集団に向けると、立体魔法陣が高速で回転しだした。

 本能的に恐怖を覚え、生き残った魔族たちがウィエルから逃げようと走り出す。



「逃がしませんよ。永久(とわ)なる豪炎に焼かれ逝け──《ヘル・フレイム》」



 立体魔法陣が漆黒の光を放ち、黒炎の光線が直線状の全てを飲み込んだ。

 魔族たちを焼き尽くし、廃墟を消し飛ばし、大地を深々と抉り……約一キロに渡って、全てが溶解した。


 アルカと勇者一行、唖然である。



「随分と減りましたね……まあこんなものでしょう」

「ありがとう、ウィエル。さあ次はミオンちゃんだ」

「わ、私ですか!?」



 クロアの人外の戦闘力に、ウィエルの理外の魔法。

 あれを見せられた後に一体何をしろと言うのか。



「私と旦那が倒したのは、ミオンちゃんでは殺されてしまいそうな相手です。今残っているのは雑魚と、ミオンちゃんよりちょっと強い程度の魔族ですから」

「いやそうではなく」

「さあミオンちゃん。その強さを世界に知らしめるときですよ」

「う……うぅ……」



 逃げることも断ることも出来ない空気。覚悟を決めるしかなかった。

 大丈夫だ、大丈夫。落ち着いて、今までやって来たことをちゃんとやれば間違いない。

 今までやって来たことを思い出すんだ。

 と、そこで気付いた。



「あの、私がやって来たことって、魔力を脚に集中させることだけなんですが……」

「はい。そうですね」

「……どう戦えと?」



 魔力をコントロールすることで、身体能力を強化出来ることはわかった。

 そのお陰で脚力は上がったし、体力も大幅に上がった。

 が、言ってしまえばそれだけだ。それ以外の何も知らない。


 ウィエルはキョトンとして、コロコロと鈴を転がしたような笑い声を出した。



「真っ直ぐ行って蹴っ飛ばせばいいですよ」

「はぁ……? 真っ直ぐ行って、蹴っ飛ばす……」



 言ってる意味がわからなかったが、やってみるしかない。

 武器を手にこっちを睨んでいる魔王軍へ目を向けると、意識して脚に魔力を集中。



「真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす。真っ直ぐ行って蹴っ飛ばす……ふぅ……」



 暗示をかけるようにブツブツ呟き、ゆっくりと呼吸して。



(よーい……どんっ!)



 駆け出した。

 刹那、十数メートルの距離を一歩で埋めたミオン。

 あまりの速さに魔族が目を見張っているのが見える。

 そんな魔族に向けて、蹴りを放つ。


 パンッ──!!



「……ぇ……?」



 顔面に向かって蹴りを放った。そこまではいい。

 しかし威力が強すぎたのか、それとも別の要因なのか……魔族の頭部が、木っ端微塵に爆散した。

 蹴り飛ばすでも、吹き飛ばすでもない。


 文字通り、頭が爆発したのだ。


 困惑している当人を他所に、クロアが感心したように顎を撫でた。



「ほう。兎人族の脚力に身体強化魔法を使うと、こんなにも威力が上がるのか」

「あの若さでこの破壊力。今後が楽しみですねぇ」



 まだまだ鍛える気満々の二人である。

 ミオンとしては、今でも十分過ぎると思うが、今はそれどころじゃない。

 残りの魔王軍を殲滅するため、脚に力を込めた。

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[一言] 首刎ね兎ならぬ首爆ぜ兎か
[一言] 微笑みのばくーー、、、だんっ
[一言] タイトル見た瞬間幽白を思い出したから感想に誰か書いてる人いないかなぁと思ってみたら、やっぱり書いてる人がいて良かった。
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