第19話 勇者の父、門番長に会う
アプーの街を出て数日。
クロア、ウィエル、ミオンの三人は、ようやく王都ニルヴェルトへやって来た。
アプーの街より巨大で、堅牢な塀。相手を威圧するかのような巨大な門。まさに王都を守る鉄壁の守護。
クロアとウィエルにとっては十数年ぶりの門だが、ミオンにとってはつい先日来たばかり。しかもいい思い出がない。
「ミオンちゃん、大丈夫ですか?」
「やっぱり近くで待っていた方がいいんじゃないか?」
「い、いえっ。平気です……!」
笑顔が辛そうで、全然平気そうに見えない。
二人も、ミオンから王都ニルヴェルト騎士団の対応は聞いていた。
だから正直ちょっとだけ虫の居所が悪かったのだが、二人も立派な大人だ。腹を立てて、関係が拗れるようなことはしない。
「わかった。でも辛いようだったら、すぐに言うんだよ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
気を引き締めたミオンを見てから、門に向かい歩みを進める。
門の前で立哨している若い騎士が、クロアたちを見て首を傾げる。
すると。
「ヒッ……!?」
「おやおや。人の顔を見て悲鳴を上げるなんて……失礼デスネ」
「こらこら、ウィエル。あんまり笑顔で威圧するのはよしなさい。──可哀想ジャナイカ」
「ヒイィッ!?!? ぁ……」
笑顔の圧と、無表情の圧。
相反する圧に負け、若い騎士は立ったまま気絶してしまった。
「なんだ、情けない。修行が足らんな」
「この程度の圧で気絶するなんて、騎士団のレベルも下がりましたね」
(今のは同情します。ドンマイです)
ミオンは心の中で手を合わせた。
その騒ぎを聞きつけたのか、駐屯所から続々と騎士が出てきた。
全員武装していて、手には剣が握られている。
「な、なんだ!?」
「貴様、何をした!」
「騎士に手を上げるなど、極刑に値するぞ!」
仲間が気絶させられ、三人組が近くにいる。勘違いしても仕方ない。勘違いではないが。
「ん? お、おい、そこの兎人族は……!」
「あの時、門番長に食い下がった獣人か!」
「確か村が襲われたとか言っていた……」
「まさか、助けてくれなかったのを恨んで巨人族の助っ人を……!?」
騎士のヘイトがミオン個人に向けられる。
怯えたミオンはクロアの後ろに隠れ、体を震わせていた。
ミオンを庇うように腕を上げ、クロアが一歩前に出る。
「待て。モーラを……門番長を呼んでくれ」
「門番長を得体の知れない男に会わせるわけないだろう!」
「貴様は我々の手で殺す!」
完全に頭に血が上って、聞く耳を持っていないようだ。
ここで本当に殺してしまったら、本当の犯罪者になってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
だが、明らかに訓練の足りていない騎士だ。どれだけ加減しても、間違いなく殺してしまうだろう。
どうしたものか悩んでいると、背後の扉が開いて一人の男が姿を現した。
「なんだ、騒々しい」
「も、門番長!」
「それが、不逞な輩が仲間に手を上げたようで……!」
「何?」
門番長、モーラの眉間に深いシワが出来る。
騎士団は国を守る剣であり、盾である。
そんな騎士に手を出すということは、国に仇なすと同義。
国に忠誠を誓うモーラは、燃え滾るような目を相手に向け――
「よ、モーラ。元気か?」
「……………………え。く、クロア……さん……?」
――冷水を掛けられたかのように、全身から血の気が引いた。
同時に、十数年前の記憶が走馬灯のように脳裏をよぎる。
周りを見渡すが、クロアたち以外に人はいない。
ということは。
「あ、あの、クロアさん。その……き、騎士に手を出した、というのは……?」
「気絶させたのは俺らだが、手は出してないぞ。圧を掛けたら勝手に気絶しただけだ」
(ですよね……!)
モーラの体は震えあがり、目が超高速で動く。
しかし騎士の一人はクロアの言葉を信じていないのか、嘲笑した。
「圧で気絶させただと? はっ、何を馬鹿なことを――」
「黙らんかあああああああああああ!!!!」
「ほべっ!?!?」
モーラの拳が騎士の顔面を打ち抜き、数メートルも吹き飛ばす。
なぜモーラが殴ったのかわからず、騎士たちは唖然とした。こんな拳、訓練の時でも受けたことがない。
「き、貴様ら勉強不足がすぎるぞ! この方は約二十年前、国王陛下から『並ぶ者なし』と称えられた最強の男にして、勇者様の父君! それを貴様らは……恥を知れ!!」
「え……えっ?」
「ゆ、勇者様の父君ですか……!?」
「し、し、失礼しましたーーーーッッッ!!」
事の重大さに気付いた騎士たちが、土下座する勢いで地面に膝をついた。
モーラもクロアの前に跪き、深々と頭を下げた。
「く、クロアさん。お久しぶりです」
「久しぶりだな、モーラ。悪ガキが今では門番長……出世したな」
「あの時、クロアさんに殴ってもらえたおかげです。それで、どのようなご用件で……?」
「ああ。用事は二つあるんだが……まず、この子を知っているな?」
クロアが後ろに隠れていたミオンを前に出す。
と、モーラの顔が絶望に染まった。
「え、と……」
「知っているな?」
「は……はぃ……」
「お前に突っぱねられた彼女が、偶然にも俺に助けを求めてな。そっちの方は解決したから安心しろ」
「そ、それはよかったです」
「はっはっは」
「あ、あはは……」
「じゃ、二十年振りに性根を叩きなおしてやろう」
(あ、今日が俺の命日か)
その日、王都ニルヴェルトに謎の絶叫がこだましたのは、言うまでもない。
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