第17話 勇者の父、解決する
◆
メキョッ──!!
「よし、これで全員だな」
「おっ……おおっ! 自由っ、自由だあ!」
「やった! やったぞぉ!」
「お父さんとお母さんに会える!」
「ありがとうっ!」
「ありがとうございます!」
無事全員の首輪を外したことで、部屋に捕らわれていた人たちは歓喜の涙を流した。
奴隷の首輪をされた者は、付けられた時点で所有者に生死を握られる。
生かすも殺すも所有者次第。
人生の全ての権利を剥奪され、所有者が「うっかり殺してしまった」その瞬間まで、恐怖に怯える覚悟をしていた。
それが、突然現れた英雄に救われた。
自分たちは今、生きている。
嬉しいなんて言葉じゃ足りない。言い表せない感情が全身を包み込んだ。
我先にとお礼を言おうと、クロアの周りに人だかりが出来る。
その人混みを掻き分け、ミオンが前に出た。
「クロア様、この度はなんとお礼を言っていいか……本当にっ、本当にありがとうございます!」
「い、いや、俺は当たり前のことをしただけだから、気にしないでくれ」
「気にしますよ! だってみんなの未来を救ってくれたんですよ!? クロア様がいてくれなかったら、今頃……!」
ミオンの言葉に、ここにいる全員が頷いた。
クロアからしたら、助けを求められたから助けただけだ。
だからこんなにも感謝されると、体がむず痒くなる。
「こ、こほん。まだ助かった訳じゃないぞ。首輪は外したけど、外に出なきゃならない。幸いこの街を統治しているガルド卿が、みんなの安全を保証してくれる。まずはそれからだ」
「そ、そうですねっ。でもどうやって出ましょう? ここにはまだ、大勢の敵が……」
「そこに関しては問題ない。ウィエル」
「はーい」
と、いきなりクロアの横にウィエルが姿を現した。
さっきまで間違いなくそこにはいなかったのに。
「うぃ、ウィエル様!? 一体どこから……!?」
「転移魔法……えーっと、瞬間移動して来ました」
「……流石です!」
意味わからなかったが、とりあえず褒めることにした。
「ウィエル、生存者は?」
「ゼロです。全員始末しました」
天使のような悪魔の笑顔で、さらっととんでもないことを言ったウィエル。
が、誰もそのことを追求しなかった。クロアの関係者ならそれくらいの事はすると、本能的に察したのだ。
「彼女は私の妻です。今見た通り、彼女は魔法を使えます。ここにいる全員をガルド卿の屋敷に転送しますので、今の場所から動かないでください」
「一人ずつ送るので、その場から動かないでくださいね」
ウィエルが一人一人の手を取ると、空気に溶けるように消えていく。
誰も不安そうな顔はしていない。みんな信頼し、ウィエルの手を握っている。
それを少し離れて見ていると、アランがクロアの元に近付いてきた。
「クロア……さん、でいいですか?」
「はい。私もアランさんと呼ばさせてもらいます」
「それでお願いします」
二人で並び、脱出の手助けをしているウィエルと、傍で手伝っているミオンを見る。
「本当、何度お礼を言っても足りないです。あなたは我々の英雄だ。村を再興したら、あなたの偉業は未来永劫語り継ぎます」
「大袈裟ですよ。それに、俺と妻が皆さんを助け出せたのはミオンちゃんのおかけです。ミオンちゃんか諦めなかったから、未来が変わった。俺たちはその手助けをしただけ……本物の英雄は、彼女です」
「……そう言ってもらえて、ミオンも幸せです……」
親として誇らしいと思う反面、無茶なことはしないで欲しいという思いもある。
相反する親心。されど、どちらも親心だ。
「パパ、次はパパの番だよ!」
「ああ、今行くよ」
ミオンに呼ばれ、アランが二人の元へ向かう。
が、何かを思い出したのか、クロアの方に振り向いた。
「そうだ、クロアさん。実はここで聞いた話なんですが──」
兎人族の聴覚で得た情報をクロアに伝える。
その情報を聞いたクロアは、腕を組んで深く思案した。
「……間違いないのですか?」
「はい。他の仲間と話を擦り合わせたので、まず間違いないかと」
「……わかりました、ありがとうございます」
「では」
アランは深々と頭を下げ、ウィエルの転移魔法でガルド邸へ移動した。
数にして百人以上の人を転移させたのにも関わらず、ウィエルからは疲労の色が見えない。
少しだけ伸びをしていると、クロアが近付いた。
「ウィエル、ミオンちゃん。お疲れ様」
「お疲れ様です、あなた」
「クロア様、お疲れ様です! ……それでクロア様、さっき父が言っていたことって……」
「ああ、間違いないみたいだ。ウィエルも聞こえていただろう? 手伝ってくれ」
「わかりました」
「わ、私もお手伝いしますっ!」
「頼む。それじゃ、作戦を伝えるぞ」
◆
その日の深夜。オークション会場には、無数の人間がひしめき合っていた。
豪華な衣装に身を包んだ者。
醜悪な笑みを浮かべている者。
肥え太り、歩行すら困難な者。
貴族や大商人などの、権力者たちである。
様々な権力者がヨダレを垂らし、目の前の幕が開くのを今か今かと待っていた。
待つことしばし。会場のライトが消え、幕がゆっくりと開く。
そこには、白いドレスに身を包んだ絶世の美女が立っていた。
「皆々様、今宵はようこそおいでくださいました」
妖精のような、天使のような声に、老若男女問わず全ての人間が一瞬にして心を奪われる。
「本日はオーナーが欠席のため、私の方で進行させて頂きます。優雅なひと時をお楽しみください」
ゆっくりとお辞儀をする女性。
所作のひとつひとつが完璧。見栄と傲慢の塊である貴族たちも、清々しい笑顔で拍手を送った。
「それでは──捕獲作戦、スタートです♪」
「突撃ィィィィィイイイイイ!!!!」
女性──ウィエルの声を合図に、ミオンの声が会場に響く。
直後、ガルドが編成した軍隊がオークション会場に流れ込んだ。
唐突すぎる展開に、貴族たちは硬直する。
大小様々な出入口から武装した人間が突入し、この場にいる貴族たちを片っ端からひっ捕らえていった。
「なっ、なんざます!? なんざます!?」
「な、何だこれはぁ!」
「とにかく逃げろ、逃げろぉー!」
ようやくことの状況を理解したのか、貴族たちが逃げ惑う。
が、それも軍隊によって簡単に捕まってしまう。逃げも隠れも出来ない。
そんな様子を、ステージ上でクロアとガルドが並んでみていた。
「奴隷オークションは、開催自体が重罪だ。それに参加する者も、地位の大きさに関係なく重罪……ここにいる奴らは、全員国王陛下の名のもとに罰せられるだろう。感謝するぞ、クロア」
「お気になさらず。今夜がオークションだと知ったからには、犯罪者はすべからく捕まえるべきですから」
開催を知ったクロアは、ガルドに進言して軍隊を編成。会場の傍の部屋に待機させ、合図とともに全員捕らえる。
これが、クロアの考えた作戦だ。
「ここから先は、俺の仕事だな。お前らは屋敷でのんびりしててくれ」
「ありがとうございます、ガルド卿」
「ガルド様、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……!」
三人はウィエルの転移魔法によって、オークション会場から姿を消した。
「……よし。総員、誰一人逃がすな! 絶対に捕まえるのだあああああ!!!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
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