不穏な影
一改めシュウは大陸へと旅だったのである。
旅だったのであるが一瞬で呼び戻されたのである。
「はぇ……?」
変な声が出た。
『お兄ちゃん、大変!大事なこと忘れてたんだよ!このままじゃ私は運営さんに怒られちゃうんだよ!』
幼女再び
「大変って何かあったの?バグとか?」
『もっと大変なんだよ!お兄ちゃんのアバターの容姿の設定してなかったんだよ!』
言われてみれば容姿を設定した記憶がない。
下手したらクレームものだろう。俺はそんなことする気はないが……
(と言いってもそんな度胸が無いだけなのだが)
「それであわてて俺を呼び戻したわけか」
『ごめんなさいなんだよ、お兄ちゃん』
犬の耳と尻尾が力なく垂れてる幻覚が見える気がする。
その姿にシュウは「ちゃんと謝れてえらいね~」と言いながら頭を撫でたい衝動に駆られたが、シュウもとい一はリアルでは高校二年生である。誰にも見られていないとはいえ世間体が悪い気がしてその衝動をグッとこらえるのであった。
「それで、リアルをベースに顔をいじったりできる?」
特に気にしてないといった感じに問いかけるとちょっとばかし元気を取り戻したようだ。
『もちろんだよ!えーと、これをこうやって、えいっ!』
掛け声とともにシュウが選んだ種族、小人族のサイズになったシュウの姿がホログラムとして表示された。
『この操作パネルでいろいろいじってみてね!』
と言ってタブレット端末のような物を渡してきた。
操作は簡単でほんの数分で設定が完了し、改めてホログラムの姿を確認する。
輪郭はちょっとだけシュッとさせて髪は赤髪に黒のメッシュ、目は少しキリッとしていて鼻も少し高くなっている。口もとはいじって無いがフツメンだった俺がなかなかのイケメンになった。ハーフリングだから小さいけど。
それはさておき
「できた!これで頼むよ。」
『おっけー!これで今度こそ地上に送れるね!
お兄ちゃんよ活躍を期待してるんだよ!頑張ってね!』
「おう!」
そして今度こそシュウは地上へと降り立ったのである。
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「イヤな予感がする」
何故そう思ったのか、こたえは簡単。自分の初期装備である。
手足に簡単な鎧のようなものがついているがどう見てもコック服なのである。なんならコック帽も被っているし武器と思われるフライパンも持っている。
そしてステータスを開き膝を着く事となった。
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【ステータス】
シュウ 見習いコック Lv.1
小人族
HP:25
MP:25
攻撃:20
防御:20
魔力:15
素早:30
器用:35
空腹値:50%
スキル
料理Lv.1(レベルが上がれば作れる料理の数や品質、成功率が上がる)
食材鑑定Lv.1(レベルが上がればより詳細に鑑定できる)
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「コックにどうやって戦えというのだよ……」
コックは絶対に止めておけと言われる職業の一つだ。
このゲームには空腹値が存在し減れば減るほど動作が悪くなるのだ。
それを解決するのが料理を食べることだが、市場で安く買える保存食で事足りるのだ。
コックの料理にはHPやMPの回復、軽いバフ効果があるが僧侶系のジョブがパーティーにいればそれも解決である。
むしろコックより戦闘力のある僧侶の方が優遇されている。
「はぁぁ~、どうしたものか……」
どんな職業になっても自分の責任だと見栄を切ったのはいいがこれはため息の一つでもつきたくなる
ピロン
「ん、メール?」
運営からメールが届いた。内容はなんとなく想像できる。
【運営よりお詫び】
[この度はアバター設定が不完全なままゲームに送り出してしまうという不手際を起こしてしまったことについて心よりお詫び申し上げます。
つきましてはインベントリ内にお詫びの品を送らせていただきました。是非有効活用して今後とも人魔戦争オンラインをお楽しみください。]
やっぱりね。
「まあ、貰えるものは貰っておこう」
そしてインベントリを確認してみる。
【インベントリ】
・幼竜の骨 rank.B
・簡易調理台セット rank.C
なんかヤバそうな物と便利そうな物があった。
幼竜の骨はランダムで貰えるアイテムだろう。
詳細は見れないのだろうか?
と思うと詳しい説明が出てきた
〔幼竜の骨〕
幼いドラゴンの骨。
子ども故に成竜の骨より少し劣るがドラゴンである以上強力な武器の素材となる。
また、職業ネクロマンサー専用魔法[死霊術]をかけることでアンデッド(ボーンドラゴン)として使役できる。
<食材鑑定Lv.1>
出汁がとれる。
〔簡易調理台セット〕
コック専用アイテム。
ホーム意外でも料理が可能になる。
強化することでより品質の良い料理が作れるようになる。
簡易調理台セットは予想通り便利なアイテムだった。
問題は幼竜の骨である。持っている事がバレるとPKに狙われかねない。
というかこれも食材としてつかえるのかよ!
「まあ、今さら悩んでも仕方無いしレベル上げにでも行くか」
そんなシュウのことを下卑た笑みを浮かべ狙っているプレイヤーがいることにまだ気づいていない。