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一番おいしいところを俺は取り上げられた

「彼等は初代勇者一行なのか…?」


 歴史にも名を残す伝説の勇者一行。

 死後、スキルを人に分け与える為神と合一したとして名前を残されなかった勇者を除き、彼らの名前を知らぬ者は殆どいない。


 魔王との決戦の後、疲弊した人間を取り纏め現在も大陸を3分する王国の礎を築いた『建国王アリアンフロッド』。

 同じく同胞をかき集め人獣族を大陸を3分する国家として形成することに成功した『初代皇帝ガルム』。

 そして魔族でありながら人に加担し、人類を勝利へと導いた『賢人アンブロシウス』。

 おそらく神官は最後の一人、王国と帝国の境界に領地を敷き大陸全土に教義を広めた『神勇教』の『法皇ジョシュア』だろう。

 そうすると今俺の見ている景色は過去の勇者一行のものになる。

 だとしたら、コレを見ているのは…


「なる程、そうすれば人と人獣族の戦争の抑止も難しくないな」

「ただ、これでは同族同士への抑止にはなりえませんから、加えて何らかの策を考えるべきでしょう」


 正体に思い馳せている間に会話は大分進んでしまっていた。

 御伽話にときめかぬ身でも、当時の勇者一行の会話に興味が無い訳じゃない。

 勿体無いと悔やみつつ、俺は考えるのを中断して会話に耳を傾けることに集中した。


「ええ。ですが、それでも何れは人の根は腐るでしょう」

「それに魔王の復活もあります。

 復活迄には五百年の年月を要しますが、それまでに今以上に人が相争うような状況にしない様に手を回す必要があります」

「序でだから俺達が苦労した事を後代の連中に味わわせないようにしたいな」

「ならばいっその事、『勇者法』を作りませんか?」

「なんだよそれ?」

「私達が味わった理不尽を法律という形で防ぐんです。

 尤も、後代の勇者の性根が保証できませんから抜け道は必要でしょうが」

「悪くないですが、もう一押し欲しいですね」


 そう言うとアンブロシウスがこちらを見た。


「貴方からも何かありませんか?

 さっきから蚊帳の外みたいな態度ですが、貴方が一番の当事者なんですよ?」


 そうアンブロシウスが言うと、視界が上下に振れそのまま下に下がってしまった。

 そして少ししてから下った視界が前を向き、声は聞こえなかったが何かを告げたらしく4人は驚いたり感心したり呆れたような顔をした。


「正気ですか?」

「多分マジなんだろ」

「貴方らしいといえば貴方らしいですが…」

「いや、中々面白い試みですよ。

 上手く行けば勇者の専横を防ぐ抑止力としても期待出来ます」


 と、ヨシュアが勇者の言葉を口にしようとしたところで視界が切りがかったように滲み出した。


 ――待ってくれ、勇者は何を言ったんだ!?


 決定的な何かを知れる所でお預けを喰らい思わずそう叫ぶが、しかし無情にも視界の滲みは全てを白く塗り潰してしまった。


「見せたんならせめて最後まで聞かせろよ!!」


 気付けばそう叫んで俺は起き上がっていた。


「……あれ?」


 さっき迄のが夢だったのか幻覚だったのかはハッキリしないが、少なくとも今見える景色は現実らしい。

 間取りから個人宅、それもそれなりに良い部屋らしく壁には品の良い壁紙が貼られ、ガラスが敷かれた窓からは日差しを差し込ませている。


「……一旦整理しよう」


 入ってきた情報があまりにも多すぎる。

 先ず自分の状況だが。体に変調は無い。

 寧ろ体調は良いとさえ言える。

 部屋を見渡せば自分が寝かされていたベッドの脇に荷物が入ったザックを見付けた。


「金は…入ってるのか」


 ザックを拾い中を改めると、荷物は記憶の通り揃いカールマンから渡された金の入った袋もそのままにされていた。

 着ている服に見覚えが無いが、ボウガンの反動でがなり傷んでいたから納得は出来た。


「…ライルか?」


 介抱してくれそうな人物に他に思い当たらずそう口にするが、しかしライルの姿はない。

 他にいるとしたら…あの女神か?


「…取り敢えず動いてみよう」


 此処で考えていただけでも答えは出なさそうなのでザックの横の靴を履きベッドから降りて改めて体調を確認する。

 体調はやはり万全なようだ。

 どれだけ時間が経過したか分からないが、自身の様子から『回復』を使ったのは間違いないだろう。


「そうだ、『スキル』だ!」


 スキルを『貸付』たのだからおそらくきっと『闇金』で名前だけでも確かめられる筈。


「って、無い…?」


 荷物を漁ってみた際には無かったから身につけているのかと調べてみたが、しかしステータスプレートだけが何処にも無い。


「お探しものはコレかしら?」


 なんでステータスプレートだけをと悩んでいる俺に、そう声が掛けられた。


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