俺が欲しいのは
どっとはらい。
イクリプスから放たれた魔力弾がアランの頭を打ち、衝撃でアランは大きく仰け反って倒れ臥した。
直後、観客は待ちわびた光景が成されたと歓声を爆発させる。
「アッシュ…」
耳に優しくない歓声の中イクリプスの『徴収』を行っているとウェスタが俺の前に立った。
「恨みはしない。
コレはアランが余りにも愚かで、私が愚昧だった故の結末だ。
だが、それでも問う愚かさを許してくれ」
何故かウェスタはそう前置いて苦しそうに俺に問いを向けた。
「他に、アランを殺す以外の選ぶ道は無かったのだろうか…?」
………はい?
「お前阿呆か?」
「はぁっ!?」
つい溢してしまった失言にブチ切れた様子を露わにするウェスタ。
「ああ、いや、すまん間違えた。
お前馬鹿だわ」
「貴様言うに事欠いて「よく見ろ」…は?」
掴みかかろうとするウェスタを制して俺はアランを指す。
「ええ…?」
促されてアランを見たウェスタは困惑した声を漏らした。
倒れ臥したアランは意識こそないが怪我一つ無い。
それこそ俺が殴り潰した鼻も元通り整った鼻筋を描いている。
「なんで?」
訳が解らないと困惑するウェスタに俺は種明かしをした。
「撃ち込んだのは『回復』付きの魔力弾だったんだよ。
衝撃で意識はふっ飛ばしたが死ぬことは先ずないよ」
先じて叩き込んだ柵は木製だが加工されて無機物と判断されたために破壊されたが、アランは生きているため衝撃は食らっても『回復』の効果でダメージを負うどころか傷を癒やされている。
仮に衝撃で首の骨が折れていても即座に治るから絶対に死ぬ事はない。
「り、理屈は理解したがしかしアランはお前ばかりかエリシールも傷付けたんだぞ!?」
「だから?」
「へ?」
「それだから殺すって?
だから馬鹿だって言ったんだよ」
何を思い違いをしているのか困惑するウェスタに俺は言う。
「俺は懲役三十年の執行猶予中だぞ?
そんな最中に自衛の為でもない不要な殺人なんかしたら取り消されるだろうが」
「それは、」
「第一、なんで俺がコイツの為に人生を支払ってやんなきゃならないんだ。
んな余録があるなら全部エリシールに使うよ」
仲間やエリシールの為になら俺はどれだけ泥を被ろうが罪を重ねようが、たとえ死ぬ事になってもそれを厭うつもりは全くない。
だが、アランにそんな価値は無い。
「殺して欲しけりゃ価値を示させろ。
俺が代償を払ってでも手に入れたいと思わせるような。な」
そう切って俺は、アランが生きていることに気付き変わり始めた空気の中エリシールに向けて堂々を意識しながら声を張る。
「我が愛を阻む悪漢はここに倒れた!!
しかし命は奪わない!!
何故なら、この場は私の愛するエリシールのための場だから!!
君に命が散る朱い花は似合わない。
君に相応しいのは炎のような鮮やかな赤い花こそ相応しい!!
だが、もしもエリシールが望むなら私は血の贖いを果たすことも厭わない。
エリシール、君は何を望むのかどうか私に教えて欲しい!!」
エリシールの祝場で殺すつもりは無いと、即興でそれらしい言葉を選びながら会場に訴えると、エリシールは意図を理解してくれたようで謳うように高らかに答えをくれた。
「いいえ。私は血の贖いなど望みません。
私の願いは貴方に寄り添うこと。
ただそれのみにございます。
どうか。どうか斯様な恐ろしい考えなど忘れ、私を想い抱いてくださいませ」
そう言うとエリシールは俺に近寄り、流れに逆らう事なく俺はエリシールを抱いた。
「君が望むならそうしよう。
怒りを捨て、君への愛を囁こう」
そう言ってからこれみよがしな形でエリシールの唇に重ねる。
直後、先程迄の殺意は何処へやら、会場からは黄色い悲鳴と歓声が沸き立ち空気を塗り替えていく。
一部からはくたばれ等と嫉妬に満ちた罵声が混じっているが、しかしそれも祝福の波の中に埋もれていく。
「上手くまとまったか?」
「大丈夫だと思いますが…」
と、エリシールは何故か俯いたまま顔を上げようとしない。
「どうした?
もしかしてまだ傷が残っているのか?」
浅く斬られただけにみえたが、もしかしてと安否を伺う俺にエリシールは「いいえ」と否定する。
「その…衆人に囲まれながらアッシュ様からキスを頂けたのがすごく恥ずかしくなってしまっただけですので大丈夫です」
「あ、ハイ」
よく考えればそれもそうとしか言えない理由に深く詮索するのは辞めておいた。
その後、俺はエリシールを横抱きに抱えて会場を後にし、主賓の退去を契機として催し物の終了させる事が出来た。
…のだが、
「スマン。そろそろ腕が辛い」
なんとか会場から出る所までは維持出来たが、最低値しかない俺の『筋力』ではエリシールを抱え続ける事は叶わずエリシールを降ろさざるを得なかった。
「あの…私、重いですか…?」
「俺の『筋力』が低いだけだよ。
エリシールは軽すぎるぐらいだよ」
不安げな様子を見せるエリシールにそう言って納得してもらいながら連れ立って控室に向かうと、そこにはペンドラゴン伯爵とアストルフォが待っていた。
「御苦労だった。
中々上手くやり通してみせたと褒めてやろう」
開口一番伯爵はそう俺を褒めた。
「えぇと、ありがとうございます?」
皮肉じゃなさそうなのでそう返事をすると伯爵は「しかしだ」と続けた。
「何故エリィに刃を向けたあの糞餓鬼を始末しなかった?
それまでを顧みても、王家に連なる血は免罪符になるとは思わんが?」
そう訊かれた俺はウェスタにしたものと同じ答えを返す。
「何であんな無価値な奴の為に罪なんて負債を背負わなきゃならないんだよ。
そんな負債を背負う余分があるならその分丸々エリシールに使うわ」
「ハッ、国王の実子を無価値と切り捨てるか!」
余程愉快だったのか声を大に笑う伯爵に俺は言う。
「序でに言うならあの場でアイツを殺していたら『神勇教』の恩赦も吹っ飛びそうだったって打算もあるけどな」
「何?」
聞いていないと真顔になる伯爵に「言っていないのか?」とエリシールに尋ねる。
「ええ。もしアッシュ様が投獄されるような事があろうと、汎ゆる手段を用いて出所させますから伝える必要は無いと」
「それは違うと思うんだが…」
というより汎ゆる手段って何をするつもりなんですかエリシールさん?
「ともかくだ。
私が知るべきだろう事があるなら今の内に言っておけ」
「ああ。 とするとアリシアとウェスタにも同席してもらった方が良さそうだな」
「呼びましたか?」
と、機を見計らったようなタイミングでアリシアがアンドを伴い控室に入ってくる。
「二人だけか?」
「ライルとラクーンの二方はシルバーノーツを厩舎に戻しに行きました。
その後は屋敷に直接戻ると聞いています。
ウェスタは彼と話があるそうです。
遅くなるだろうから待たなくて良いと」
納得出来る理由を聞いた俺は「分かった」と頷いた。
「それでなんだが、伯爵に俺の罪状と刑期について話さなきゃならないから間違いが無いか立ち会って欲しいんだが大丈夫か?」
「問題ありませんよ。
丁度私からもそちらについて報告がありましたので都合がいいです」
「報告?」
「はい。 此度の貴方は迷走し人の道を違えた青年を改心させました。
その過程と功労は選び難い選択であり、減刑に足るだけの善行であると判断し、懲役三年、執行猶予五年分の減刑を施行することにしました」
おめでとうございますと祝辞を口にするも相変わらず表情が変わらないアリシアに俺はとりあえず「ありがとう」と返す。
「これで執行猶予の完遂まで後十年か…」
「一体何をしたのだ貴様は」
「『勇者法』絡みでちょっと」と答えると伯爵の視線が細まった。
「やはり今からでも婚約者を探すべきか?」
「お父様?」
小さく呟いた伯爵にひんやりとする声と笑顔でエリシールが迫っていく。
「どうやらお話が足りなかったみたいですね?」
「落ち着きなさいエリィ!
親として貴族として娘婿に瑕疵の有無は無視してよいものでは無いのだぞ!?」
俺達を尻目に言い合いを始める伯爵とエリシール。
「あ、僕はアー君に何があったか把握しているから心配しなくていいよ〜。
ちゃんとそれ込みで結婚しても良いって思ってるからさ〜」
じゃあなんで伯爵は知らないんだよ?
「所でですがアッシュ、傷の治療はいいのですか?
応急処置しかしていない筈ですよね?」
「ん? ………まあ、支障はない程度だから後で大丈夫だな」
痛みの感覚から命に関わる傷は無いと答えるとアリシアはなんでか眉を顰めた。
「…確認しますが骨等に異常は?」
「肋だけだから問題ない」
「肋の異常は普通に大怪我じゃないかな〜?」
「大問題です」
そう言い切るとアリシアは喧々轟々言い合うエリシールに呼び掛けた。
「エリシール、アッシュのまた悪い癖が発症しています。
治療を急いで下さい」
「承知しました!!」
直後、エリシールが疾風のように俺を横抱きにしていた。
「エリシール!?」
「先ずは寝室に向かいます。
治療を終えたらそのままアッシュ様とお話しますので後はお願いします!」
言うなり俺を抱えたまま控室を飛び出すエリシール。
「待ちなさいエリィ!!」
背後から呼び留める伯爵のかな声も無視して会場を飛び出し屋敷へと走るエリシールに俺は心の底から嘆願した。
「せめて横抱きは勘弁してくれ!!」
しかしその願いは叶うことはなかった。
次回は周りの云々。
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