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死にかけたが俺は神を見た。


 主要な臓器諸共胴体をぶち抜かれたクームヤーガが地に落ちていく様を俺は()()()()()()()嗤ってやった。


「ざまあみろ」


 道具に【レベル】を『貸付』すると性能が上がる。

 土壇場でそれが実証された事で窮地を乗り越えられたのは良かったのだが、同時に無視できない事実も判明した。

 ボウガンの反動で筋肉はズタズタになり、立っていることもおぼつかず膝から地面に倒れる。


「まさか反動があるなんてなぁ…」


 強力な武器を扱うには使い手にも相応のスペックを要求する。

 俺がボウガンに注ぎ込んだ【レベル】はロバに『貸付』た分をさっぴいた残り80。

 伝説に記された勇者がレベル100だったらしいから、このボウガンもそれぐらいでなければ反動を抑えきるのは無理だろう。

 ある意味当然の話だが、それを知るのはもっと別の機会にして欲しかった。

 爆音で耳をやられたらしく先程から何も聞こえないし、寒気と共に全身の痛みが少しづつ遠くなっていく感覚がする。

 

「あー、これ、本当に、死ぬわ…」


 躙り寄ってくる死の気配を感じながらも不思議と恐怖は感じなかった。

 ステータスが万全でもCランクが精々だった俺が、Aランクのしかも『スキル』持ちのクームヤーガを一撃で倒せて満足してしまったのかもしれない。

 或いは即死さえしなければアンジェリカの『回復』で死は回避できると肉盾をやらされ過ぎて、死が恐ろしいいう感覚が麻痺しているだけかもしれないな。


「あ…」


 うつ伏せに倒れた意識がブツリと切れ、何度も経験した奈落に突き落とされる感覚が訪れた。


 五感では無く魂とかそういったモノで感じているこの感覚の先に、話に聞く死後の世界が有るんだろうなとボンヤリ考えながら落下していると、唐突に全身を無理矢理を掴んで引き上げられる感覚を感じた。


 『回復』で蘇生させられた際に何度も味わった感覚だなと他人事のように思っていると、口元に柔らかい感触が当たり暗い世界が急激に明るくなった。


「ぅ……」


 あまりの眩しさにうまく回らない思考のまま、とにかく目を開けないとと鉛のように重い瞼を持ち上げ、俺は結局死んだのかと理解した。


 なんせ、開いた視界の向こうに自分を覗き込む『天使』が居たのだから。


 いや、天使より女神かもしれない。


 サファイアのような綺麗な瞳。

 白磁よりも白く透き通った肌。

 整い過ぎて人間の顔とは思えない顔。

 薄くウェイブを描く髪は錦糸のようにキラキラ輝いて手を伸ばして梳いてみたいと思った。

 人間が思い浮かべられる凡その『美』を人の形に閉じ込めたら、こんなふうになるんじゃないかとそう思う美女が自分を覗き込んでいたら、自分が死んだと思っても仕方ないだろう。


「ぅぐ!?」


 思わず手を伸ばそうとして、体中が痛みを訴えた。


「……!?」


 そうしたら女神は美しい顔を歪め俺の手を握った。

 何か言っているようなのだが、まだ耳は聞こえないため何を言っているかわからない。

 

「…か」


 痛みで回らない頭でどうしたらいいかわからず、俺はとにかく痛みから逃れたくて彼女に縋りついた。


「『貸付』、『回復』」


 彼女が本当に女神なら不要なんだろうが、そんな事に思い至れず俺はとにかくこの痛みから逃れたいと『闇金』でスキルを押し付け、そして再び奈落に落ちる感覚に意識を引きずり落とされた。

 


―――――――――――――――――――――――――



 ふと気が付くと、俺はテーブルを前に座っていた。

 あたりを見回そうにも顔はおろか眼球さえ動かず、まるで紙芝居を見ているような気分にさせられた。

 仕方なく視界に入る範囲の情報をと注目すると、視界の向こうには4人の男女が居た。

 服装から騎士と思しき女性、魔術師と思われる性別不詳、壮年の神官、人獣族の戦士といった風体に見える。

 どうやら4人は何やら話し込んでいるようだ。


『なんとか魔王は倒せたわけですが、大変なのはここからですね』


 口火を切ったのは騎士だった。


「人類と魔王の戦いは終わりましたが、代わりに多くの国家が旧来の体制を保ち続ける事は叶わないでしょう」

「人獣族も似たようなものだ。

 殆どの里は壊滅。

 生き残ったのは避難していた女とガキばかり。

 だが、絶滅したエルフに比べればまだ」

「ガルム!」


 戦士の言葉を遮るように騎士が鋭い声を発した。


「……すまない」


 その声にガルムと呼ばれた戦士は肩を落として魔術師にそう謝罪した。


「構いませんよ。

 ガルムが悪意を以て口にした訳ではないのは分かっています」


 フードで顔を隠した魔術師は中性的な声でそう謝罪を受け取ると、それにと言う。


「エルフは人類に反し魔王と手を組みました。

 滅ぼされて然るべき報いでしょう」

「だがその中にはお前の…」

「ガルム」

「…っ」

「もう終わった事です」


 言募ろうとしたガルムを制し、場に重たい空気が流れる。

 その空気を打ち払ったのはこれまで発言をしていなかった神官だった。


「幸いと言うには些か難が有りますが、人の数が減った分、当面は人類同士での戦争も起こらないでしょう」

「だが、何れやらかすだろうな」

「ええ。 悲しい事ですが、人は欲望に弱い。

 時が経ち傷が癒えれば、支配欲が鎌首を擡げるでしょう」

「そうして歴史は繰り返す…か」

「ですから、それを可能な限り引き伸ばします。

 アリアンフロッド、ガルム、アンブロシウス、貴方達の手で」


 その言葉に、俺は漸く彼らの正体に気が付いた。 

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