俺はアイツを推し量る
今回はライル視点。
(アイツ、やっぱり手慣れているな)
最初に見た時からそこそこ出来る様に見えたからボウガンを任せてみたが、見立て通りアッシュは手慣れた様子でボウガンを操作し連携しようとするシャンタク鳥を妨害していた。
本人はソロだと言っていたが、ボウガンの射程から離れないように下がりながら俯瞰的に要所を見抜き的確にボルトを放っているその動きは仲間との連携を前提にしたものであり、ソロで活動する者の動きではない。
(きっとクランが壊滅したか追い出されたんだろうな)
少し話した限りだが悪意を持って仲間に災いを招く手合いには見えない。
図らずも幼少の砌からそういった腹に一物抱えた者との関わりが少なくなかったライルは、得てしてそういう人間か否か何となく判るようになっていた。
そういった意味で、アッシュという男は信頼に値するかはまだしも今この場を切り抜けるまでは信用出来ると思えた。
観察眼と技量は中堅以上とみて取れる事もあり、理由があってクランを抜けたのならさっき言っていただろう事から所属クランが壊滅したかステータスの低さを理由に追い出されたのだろうと考えた。
「ともあれ今は…」
『Kiーーーーーーー!!』
既に2頭殺られているからか警戒気味だったシャンタク鳥の動きに、3頭目の断末魔により変化が起きた。
半数が討ち取られた事で後がないと思ったのか残ったシャンタク鳥は高度を上げると上空で甲高く嘶きながら旋回し始めた。
『Ki!Ki!Ki!Ki!』
「なんだ…?」
唐突に理解出来ない行動を始めたシャンタク鳥に漠然と嫌な余暇を覚え、ラクーンに意見を求める。
「何をしているか分かるかラクーン」
「いくら某が万能とはいえ知らぬものは知らぬとしか言えぬ。
最初の一匹で目的は達しておるから、このままスタコラ逃げるのも策であるが」
ラクーンも分からないが深追いするよりと撤退を進言する。
持ってきたボウガンならギリギリ届くだろうが、ボウガンは性質上連射には向かず、下から狙うのも簡単な話ではない。
「欲をかいても…だな」
そもそもライル達の目的はシャンタク鳥の鱗。
シャンタク鳥の討伐が目的でないのに加え、既に3頭倒したのだから分前を考慮しても諸経費込みで十分プラスになるのだから無理に全滅させる理由はあまり無い。
「ライル!! すぐに逃げろ!!」
撤収を決めたライルにアッシュが焦った顔で叫んだ。
「は?」
何をそこまで焦っているのかと問おうとして、突然に地面に巨大な影が射した。
「うむ。これは死んだかもしれんな主よ」
影の正体を見上げたラクーンの言葉に自分も顔を上げ、その意味を理解した。
「まさか…『クームヤーガ』なのか…?」
それはシャンタク鳥の倍近い体躯を有する1つ目の怪鳥の姿。
シャンタク鳥の上位種にあたる魔物であり、Aランクに相当する怪物だ。
「ワンチャン祈って全力逃走ぞ!」
俺を掴みクームヤーガを振切ろうと走り出したラクーンにクームヤーガの視線が向けられた。
「『魔眼』が来る!!」
アッシュの悲鳴にも聞こえる警告と同時にビギリと筋肉が軋む音を立て全身を硬直させラクーンが倒れ付す。
クームヤーガの恐ろしさは巨体に違わぬ怪力と防御力に加え、単眼の瞳に宿る固有スキル『魔眼』。
『魔力』のステータスが高ければ状態異常攻撃をレジスト出来る可能性もあるが、人獣族はフィジカルが高い代わりに只人に比べ魔力関係に劣る弱点がある。
故に人獣族のラクーンにとってクームヤーガの『魔眼』は天敵に等しいぐらい相性が悪いのだ。
「ヌワス!? っ、だが終わらぬ!!」
しかしラクーンは倒れ込む寸前に腕を振りかぶり俺を投げた。
「ラクーン!?」
「振り向くな主!!」
地面にぶつかる瞬間体を丸めローリングの要領で勢いを殺して着地した俺は振り向こうとしたところでラクーンが叫ぶ。
「某が食われている間に走り抜けるのだ!」
「馬鹿言ってんじゃねえ!!」
一度主と仰いだ人獣族は我が身を顧みず忠義に尽す。
ラクーンもまたその性に従い捨て身で主人を守ろうとするが、そんな事を俺は望んじゃいない。
格好の獲物となったラクーン目掛けクームヤーガが急降下を仕掛け鋭い鉤爪を振り下ろす。
「うおおおおおぉぉっ!!」
頭の片隅で間に合わないと訴える声を無視し、ラクーンに覆い被さるように飛び込んだ。
「主っ!?」
ラクーンの悲鳴とゆっくりと迫る鉤爪が視界を占めようとした刹那、
ズバンッ!!
鼓膜が破れるんじゃないかと思う轟音が轟き、クームヤーガのどてっ腹に大穴が穿たれた。
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