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俺はまた見誤っていた…。

区切りが悪くていつもより長めになってます。

 酒と料理を堪能し、食後にウェスタが注文したワインをちびちびやりながらクランの方針を二人に説明した。


「そうか」


 そうして聞き終えたウェスタの反応はそれだけだった。

 あれ? てっきり「そんなこと認められるか!!」とか「今すぐ返品して来い!!」とか喚き散らして脅されると警戒してたんだが…?


「いいのか?」

「私をなんだと思っているんだ?」


 あまりにも淡白すぎる答えに思わず聞いてみると、懸念を察した様でウェスタは眉を顰めながら言った。

 

「文句が無いかと言うなら勿論ある。

 代替があるならそちらにして欲しいのも本音だ。

 しかしだ、それはクランの長としての決定なのだろう?

 言うなれば王の采配だ。

 暴君の無体でもないそれを、義でも理でもないただ個人の好悪で捻じ曲げるなんて組織に属する者が行う方が筋違いというものだ」


 と、やや不満そうにワインを傾ける。


 うん。少し反省しよう。


 正直俺はウェスタを余暇にはしゃいでるだけの我儘女としか思っていなかったが、ウェスタはちゃんと自分の立ち位置を弁えて行動出来る思慮と配慮を保っていたらしい。


 これはウェスタを見直すより、自身が見縊っていたと反省しなければならないだろう。


「それに、ロバについて面白い話もあったからな」

「『スキル』だよな」

「ああ。っと、少し待て。

 『風よ、彼女の歌声を私のものだけに』【風の帳(エア・カーテン)】」


 ウェスタは不意に風の魔術を発動しテーブルを薄いヴェールで覆った。

 すると周りの喧騒がピタリと消えた。

 【風の帳(エア・カーテン)】は名前の通り音を遮断する簡易的な結界を張る魔術だ。

 結界と言っても防御力は無く出入りも容易なため、外部の音を遮り楽器の練習や密談をするのにはとても重宝するがそれ以外ではあまり出番は無い。


「このテーブル内の会話は外に漏れなくした。

 無闇矢鱈に聞かれるのは問題だからな」


 なんでそういったきめ細やかな配慮が俺にだけは無いのか…。

 ああ、いや。試されているんだから致し方無いのか。

 腑に落ちないものを抱えつつ一先ず感謝を口にしておく。


「この程度は大した労力でもないからな。

 さておき話を戻すがアッシュ。

 あのロバが『スキル』を得たのは貴様が【レベル】を『貸付』した事で発現したのは間違いないのだな?」

「恐らくな。

 だが、他者に【レベル】の『貸付』をしたのはあのロバが初めてだから断言はし切れない」


 その後でボウガンに【レベル】の『貸付』をしているが、しかしそれらしい事は起きていないとライルから聞かされていたから生き物に限ると思われる。


「ならば、家畜に『貸付』を行えば有用な『スキル』を大量にかき集める事も不可能ではないな?」

「それはなりません」


 理論上の話を持ち出したウェスタにそれまで黙っていたアリシアが口を開く。


「アッシュ。生命を守るために必要に駆られてならばまだ目を瞑りますが、『スキル』の収集のためだけに手当たり次第に『闇金』を多用するならば、申し訳ありませんが貴方には今すぐ死んで頂く必要があります」


 そう俺を見据えてそう告げた。


「…『神勇教』のためか?」


 先程迄の穏やかさから一転し緊張が漂う中、何故そう口にしたのか推察を投げかけてみるとアリシアは「はい」と頷いた。

 アリシアがそう言った理由は分かる。


 『神勇教』が大陸でほぼ唯一の宗教だと言っても過言ではないほどの勢力を誇る最大の理由は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 しかし『闇金』が条件付きとはいえ自在に『スキル』を与えられるのであれば、その大黒柱とも言える優位に致命的な傷を与える事になる。

 実際の処、『神勇教』に背を向け独自の信仰を掲げる輩はいないこともないのだ。

 そういった手合が時に人の世に害を為す事さえあり、俺も以前『スキル』を得る為に子供を攫った集団の対処を依頼された事がある。

 もしも連中が『闇金』に気付き自らの勢力拡大の為に俺に近付いて来て利用されたなら、アリシアは迷わず俺ごと連中を始末するだろう。

 

「アッシュ。

 私個人は今現在の貴方の事を、貴方が長を任ずるクランに加盟しても構わないと思うぐらいには好意的に見ています。

 ですが私は大神官の任を預かる身。

 必要に迫られれば私は私個人の意思では無く大神官としての責務を果たさねばなりません。

 なのでどうか、貴方には自重をお願いします」


 そうゆっくりと頭を下げた。


「分かった。

 どうしてもという状況以外での【レベル】の『貸付』はやらないよう気を付ける」

「お願いします」


 答えを聞きアリシアが頭を上げると緊張が漂っていた空気が緩む。


「しかしながらアリシアよ。

 先の推察が間違いない事は確かめておかねばなるまいて。

 もしかしたら『レベル』以外でも『スキル』の発現が起きるやもしれんからな」

「……」


 ラクーンの言葉にアリシアは考えをまとめる為にか目を閉じてしばし黙すると、「では」と結論を口にした。


「調査のために今回に限り植物、昆虫、動物の合計3体までは見逃します」

「順番は『スキル』、『ステータス』、最後に【レベル】って所が妥当か?」

「そうですね」


 『解析』を持つマリリンさんに頼めばこんな実験なんか経ずとも条件を知る事は可能かもしれないのに、それでも実験を容認したアリシアの意図は……もしそうならそれを言葉にするのも野暮だろう。


「そろそろ魔術を切るぞ。

 あまり張り続けても逆に目立つからな」 


 言うと同時に【風の帳(エア・カーテン)】を解除し、再び店内の喧騒に包まれる。


「取り敢えず今決めておきたい事は何かあるか?」


 そう皆に振ってみるとライルが小さく手を挙げた。


「ロバの名前はどうする?

 アイツもクランの一員なんだから名前が無いのは可愛そうじゃないか?」

「良いんじゃないか。

 なら順番に出し合ってみるか」  


 その言うと真っ先にウェスタが手を挙げた。


「あの自由気ままな態度から『ゴールドクルーザ』はどうだろうか?」

「なんか競馬で大金を灰にしそうだな」


 ロバだからそんな舞台に上がることはまず無いだろうけど。


「じゃあ、芦毛だから『グレイフォックス』は?」

「ロバなのに狐とはこれ如何に」


 ライルの案にラクーンが突っ込む。


「シンプルに『ドンキー』ではどうでしょうか?」

「それを名前と言っていいものなのだろうか?」


 アリシアの突っ込みどころしか見えない名に首を傾げるウェスタ。


「なら某は『スプリングファニー』を提示しよう」

「悪く無さ過ぎて逆にコメントに困るぞ」


 やいのやいのと案を挙げていくライル達に任せてしまおうと思いグラスを持ち直すと、目敏くウェスタが俺に水を向けた。


「アッシュ、さっきから何も案を出していないではないか。

 貴様も一つぐらいは出さんか」 

「俺は別に…」

「そんな事は認めん!

 さあ、貴様の裡から湧き上がるちょっとアレなネーミングセンスを晒すがいい!」


 異様にテンションが上がってしかも言動まであやふやな様子から、どうやらウェスタ酔っているらしい。


「少し飲み過ぎだぞ」

「何を言う!

 さうやって煙に撒こうなど勇者が許しても私が許さんからな!」


 ウゼェ。

 どうやらこいつ、かなり酒癖は宜しくないらしい。


「そらそら。恥しがらずに晒せ。

 そ・れ・と・も・私に吐かさせてほしいのか? んん?」


 業を煮やしたのかウェスタは立ち上がると、俺の背後に回り込んで羽交い締めにしてから耳元でそう囁いた。


「ちょ、流石に酔いすぎだろ!?」


 鎧を着ていないためウェスタの豊かな胸の感触が服越しにもしっかりと感じられ本気で焦るも、しかしウェスタはますます興が乗ったとばかりに笑みに獰猛さを宿らせる。


「どうした?

 まさかロバに対抗意識を燃やすような程度の低い女に欲情しているのか?」


 しっかり根に持ってんじゃねえか!?


「ああ、もう!!

 いうから一旦離れろ!!」


 強引に引き剥がし、僅かに昂ぶってしまった感情を脇に追いやってからロバを思い出して思いついた名を口にする。


「『シルバーノーツ』」


 どんな枷もあのロバを捉える事は出来ないだろう。

 そんなふうに思えたから、ロバの毛色に掛けてそう名前を考えてみた。


「「「「………」」」」


 で、帰ってきた反応が全員無言だったのだが、どうしたらいいんだ?


「なんか言えよ」

「え…ああ、」


 そう言うもウェスタは気恥しそうに顔を逸してしまう。


「その、普通に似合いそうな良い名前だったから弄りようがな…?」

「褒めてるのかそれ?」


 なんでか空気を読まなかった俺が悪い気がしてきて気まずいんだけど?

 

「では、反対意見が出ないのでロバの名前はシルバーノーツという事で決定でしょうか?」


 と、一番空気を読まない奴(アリシア)がそう皆に問い、なし崩し的にロバの名前は俺が提案した『シルバーノーツ』に決まってしまった。

 

という訳でロバに名前が付きました。

余談ですが他の名前は実在名馬を参考にしてたりします


流石に次が章の終わりになる筈です。

あ、裏側の話どこにいれよう…。


続きが気になると思っていただけたら評価とブックマークをお願いします。


また、感想も随時お待ちしております。

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