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嫌な気配を俺は感じた

アッシュ君は全方位から大人気です。

ただし、好意があるかは別と。

 昼飯はマリリンさんからの勧めもあって以前ライルと入った定食屋に食べる事にした。


「なんと! これ程の料理なら王都のメインストリートで店を開いても十分やっていけるぞ!」


 以前俺も食べた日替わりランチを口にしたウェスタが目を見開いてそう言葉にした。


「でしょう?

 私もこのお店のファンなのよ♡」


 ウェスタの賞賛にマリリンさんがテンションを上げて楽しそうに褒め称える。

 で、その横ではアリシアが空けた皿がどんどん積み重なっていた。


「アリシア、主の胃袋は異界に通じておるのか?」

「『スキル』の関係で燃費が悪いだけです」

「そういうレベルではないぞ?」


 シェアリング用の山盛りサラダが何枚も積み重なり、それを一人の胃袋が収めていく様は中々言葉に出来ない。


「そも、今朝も含め主はさして食っておらなんだが?」

「朝食までは足並みを揃えておくべきと最低量で済ませていましたが、クランとして共に活動していくならそういった遠慮はしない方が良いと学びました」


 行儀良く飲み込んでからそう暴食の真意を告げるが、違うそうじゃないとしか思えない。


「カロリーが欲しいなら肉の脂身を食らうがよいぞ?」

「動物の肉と油は苦手なのです」

「なれば致し方無し。

 であれば豆を食らえ。

 豆は肉と並び血肉になる。

 主は細いから肉魚が苦手と申すなら豆を食らってもそっと体力を付けるべきぞ」

「ご配慮感謝します」


 そんな割かし中良さげに見えるやり取りを横目に、ソースを絡めたペンネをフォークで口に運び咀嚼して飲み込みながらライルに尋ねた。


「で、そっちも片付いたみたいだな?」

「ああ。

 というか、終わっていたが正しいんだけどな」

「終わっていた?」


 妙な言い方をしたライルはパンをサレットの奥へと押し込んでから、ウェスタを追って出て行ってからのことを語った。


「ああ。

 ラクーンの伝手でブルガルドの居場所はすぐに見つかったんだけどさ、聞いていた話とだいぶ食い違っていたんだよ」

「というと?」

「住んでいたのはスラムにあるボロい掘っ立て小屋で、金目の物なんか何一つ無い状態で食うにも困ってそうだったんだ」

「はぁ?」

 

 なんだそれは?


「物取りにでも根こそぎ攫われたか?」

「いや、ヌクイズに来てからずっとそこに住んでいたらしい」

「……」


 聞いていた話ではブルガルドは商売の為に地上げを行っているという話だった。

 だが、今の話からしてそんな余裕があったようには思えないし、裁判の際のやり取りからもブルガルドはトールにも『勇者一行』の称号にもそこまで熱を上げているようには見えなかった。


「ウェスタ。ブルガルドは廃絶前からそんなに困窮していたのか?」

「いや。

 寧ろバルベルト家は男爵家の中でも金を持っている側に入っていた。

 確かに廃絶の際には土地以外にも多少なりとも財産を搾り取ってはやったが、野垂れ死なれても困るから平民としてやっていくなら数年は余裕のある生活が続けられる程度には残してやった。

 少なくとも、最後に見た際にはあの様な進退極まるような状態では無かったぞ」

「そうか」


 ウェスタが嘘を言う理由はないからそれは間違いないだろう。

 ブルガルドの状態も、残された資産を強引な地上げのために使い果たしたと言うなら納得も行かなくはない。

 だが、そんな状態から商売を始めてトールの支援が行えるまでに持ち直す算段はあったのか?


 なにより、俺にはこの状況に既視感があった。


「それと、話を聞こうにも呆然自失って感じで変な事をずっと呟いていて話にならなかったしさ」

「変な事?」

「『なんでだ?』って、まるで今まで見ていた物が全部嘘だったみたいな顔だったんだよ」

「……」


 その言葉に既視感が益々強くなる。

 この既視感が偶然でなかったとすれば、予てからの疑問の答えが形となるが、しかし、それが全て繋がっていたとしてその()()が解らない。


「マリリンさん。

 マリリンさんは人を操る『スキル』に心当たりは無いか?」

「残念ながらそんな『スキル』は存在しないわ」


 疑問の解消となる問に、しかしマリリンさんは否を口にした。


「『呪詛』にあるような行動を縛るような『スキル』は存在しても、相手の存在そのものを掌握する『スキル』は存在しないわ」

「じゃあ、思考を誘導するような『スキル』は?」

「無くは無いわ。

 だけどその類の『スキル』は『賭博』のように制約は大きいし、何よりアッシュちゃんが懸念してるほど強力な『スキル』ともなれば法国が看過するはずがないわ」


 マリリンさんの言葉にコトリと皿をテーブルに置いたアリシアが肯定する。


「ええ。

 世に混乱を招く『スキル』発現した者を法国に保護する事が『神勇教』の義務です。

 得た者の身分の関係でそれが叶わない場合もありますが、その際には王国または帝国が責任を持って監視する事が義務付けられています」


 と、アリシアは意味ありげにウェスタに視線を向け、ウェスタは苦虫を噛み潰したように押し黙る。

 そこで何かに気づいた様子でラクーンがアリシアに尋ねた。


「なれば、アッシュは如何様な扱いとなるのだ?

 先の通りなら、アッシュもまた放逐ならざる存在となるのでは?」

 

モノを食べる時ぐらいは楽しくありたいアッシュ君だけど、そんな自由もありゃしない。


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