これで俺も嬉しくない仲間入りか…。
アッシュ君にテコ入れ開始します。
「ところでアッシュちゃん♡
アッシュちゃんの戦闘時のポジションは何処かしら?」
と、不意にマリリンさんから奇妙な質問が投げかけられた。
「一応、前衛よりの中衛だけど…?」
タンク役のカールマン。
司令塔のトール。
遊撃担当のメリッサ。
補助魔術による支援と『回復』で戦線を維持するアンジェリカ。
彼等にステータスを『譲渡』していたため身体能力に劣っていた俺は、トールが賄いきれない穴を埋めるためのサブリーダー的な位置に身を置き、状況に応じてボウガンで支援射撃や道具と妨害系魔術を使ってのサポートやパーティー瓦解の致命傷を防ぐための肉盾に従事していた。
と、あまり思い出したくない事まで含めて思い返しながら答えるとマリリンさんから更に問を重ねられた。
「魔術も使うわよね?
習得は何を?」
「生活魔術と『泥』、『瞬光』、『煙幕』、『爆竹』、『悪臭』ぐらいだけど」
『泥』は足元を泥化させて動きを阻害し、『瞬光』は閃光で目を晦ませ、『煙幕』は煙を撒いて視界を塞ぎ、『爆竹』は爆音で聴覚を遮り、『悪臭』は悪臭で鼻を曲げる。
どれも子供が悪戯目的で習得するような魔術だが、魔力が低くても十分効果がある代わりにダメージらしいダメージを与えられない所謂『妨害系』と言われる魔術である。
どれも戦闘時にはゴミ扱いされがちだが、一瞬の判断が生死を分ける極限状態に於いては意外と馬鹿にならない効果を挙げてくれる。
とはいえ他に優先して習得するべき魔術は沢山あるため、やはりそういった魔術ばかりを身に着けている俺の評価は高い筈もない。
「あらあら♡
それは好都合ね♡」
だが、マリリンさんからの反応は色良いものであった。
「最初はお金とちょっとした協力で済ませてしまおうと思っていたけど、アッシュちゃんがこんなにも手早い問題解決してくれたから私から特別にご褒美をあげちゃうわ♡」
そう言うとマリリンさんはカーペットを捲り、カーペットに隠されていた床下収納を明らかにした。
そのまま床に屈み込み床板を開くと、マリリンさんはそこから20センチ程の小箱を取り出してテーブルに載せた。
「これが私からの特別報酬よ♡」
そう言って開けるよう促すマリリンさん。
一体なんだろうかと思いつつ箱を開けると、そこには不思議な物が収められていた。
「これは…?」
パッと見は掌より少し大きな小型のブーメランに思えたがどうやら違うようだ。
狼のエンブレムと思しきメダルが嵌め込まれた木材のような光沢を放つパーツが取り付けられている、いかにも握りの部分らしい箇所を掴んで取り出してみると、意外とズシリとした重みを感じた。
次いで握った手から魔力が持っていかれる感覚が襲い、反射的に手放すとマリリンさんは苦笑しながら言葉を発した。
「その子の名前は『イクリプス』。
古い時代の言葉で『喰む者』と名付けられた私の現役時代の相棒よ♡」
「イクリプス…」
黒い光沢を放つイクリプスが、何故か自分を見定めているような錯覚を覚えた。
「ソレは旧世代遺産ですね?」
俺達のやり取りを眺めていたアリシアが問うと、マリリンさんは「そうよ」と頷いた。
「その子は持ち主の魔力を喰らいながら持ち主に合わせて性能を拡張する成長する武器。
その中でも近中距離での戦闘を想定して制作された『フェンリルシリーズ』の中でより近距離向けに調整された『ハティナンバー』の一丁。
引退した時に初期状態に戻してしまっているけど、今のアッシュちゃんには丁度いいわよね♡」
そう言うとマリリンさんはグリップから伸びる部分を握り持ち上げると、俺に握るよう差し出した。
「特別報酬として、貴方にはこの子の使い方をマスターさせてあげるわ♡
勿論『スキル』についてもみっちり叩き込んであげるわよ♡」
女性のような品を作りながら嘯くマリリンさんからは、口調とは裏腹に拒否は許さないというようなプレッシャー放っていた。
イクリプスは要らないから『スキル』についてにだけお願いしますと、ハッキリ言えたらもっと穏やかに生きられたのだろうが、残念ながらそんな過去も未来も俺にはなかった。
「…よろしくお願いします」
グリップを握って受け取り、再び魔力を吸収し始めるイクリプスをどうしたものかと思いながらとりあえず腰のベルトに挟んでおく。
「ところで、マリリンさんは一体どこでこの旧世代遺産を?」
「『魔王領』のダンジョンよ♡
こう見えて私、昔は冒険者としてブイブイ言わせていていたの♡
そのダンジョンでイクリプスを見付けてその系譜についての資料を見ることができたんだけど、残念なことに資料そのものは持ち出せなかったし他の旧世代遺産も回収出来なかったのよ。
アレが持ち出せていたら今頃左団扇の生活も夢じゃなかったのに残念だわ」
と、頬に手を当てながらそう語るマリリンさん。
「だからまあ、役不足だなんて思う事はない事は保証するわ♡」
そうウインクを飛ばすマリリンさんに、俺は引き攣った笑みを返すしかなかった。
なにせペンドラゴン領から『魔王領』に入り、かつ帰還が許されるのはレベル30以上のメンバーのみで構成された『神鉄』級クランに属している者に限られるのだから。
この世界での魔術は呪文を暗記した上で魔術の発動に必要な魔力を供給出来れば誰にでも使える携帯アプリのような扱いです。
なお効果量的にどうあっても『スキル』には及ばないため扱いは低いです。
後、イクリプスはシグザウエルをイメージしてもらえたらと。
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