俺は意外と器用なんだよ
今回はあんまりお待たせさせずに済みました。
自身の意志はなさそうな覚束ない足取りで部屋を去っていく三人を見届け、一人になった俺は息を吐きながらテーブルに視線を落とした。
「なんとか、勝てたか」
そうごちてから俺は『暗視』を『貸付け』た眼鏡を外した。
先程俺はカードに仕込まれているイカサマを見破るため、前の勝負で手元に来ていたカードの中からクィーンのカード抜いて懐に忍ばせた状態でトイレに入った。
しかし入ったトイレは非常に暗くイカサマを調べるどころでは無かった。
見破る以前の状況に頭を抱えかけたが、『闇金』の中にメリッサから奪った『暗視』がある事を思い出した俺は、ボウガンに『レベル』を『貸付け』た時の事を参考に道具に『スキル』を『貸付け』られないかと思いつき、『赤光』在籍時代に事務仕事を押し付けるためにトールが労るふりをして寄越した安物の眼鏡に『暗視』を『貸付け』る事を試してみた。
結果、眼鏡は『暗視』の効果で暗闇を見通せる便利な道具へと変化した。
良い意味で誤算だったことは、眼鏡を通して見えたカードが裏から完全に透けて見えた事だ。
おそらくアウロが見ているものとは違うイカサマなのだろうが、勝たねばならない以上使えるものは何でも使おうと俺は一旦眼鏡から『暗視』を『徴収』し、何食わぬ顔で勝負の場に戻った。
そうして向こうから一発勝負を持ち掛けられ、俺は眼鏡に仕込みがないかを確かめさせた後で『暗視』を『貸付け』し直してからその眼鏡を掛けて勝負に乗った。
そうして手札に入って来たフルハウスのペアにクィーンが来ていた事についつい瞠目し、その隙にキングのワイルドフォーを仕込まれたのにはしてやられたと思ったが、俺は持ち出したクィーンをさも今引いたかのように見せ掛けて手札に入れ、元より上に乗っていたクィーンと共に手札に引き入れフォーカードを完成させた。
そんな小技が使えたならもっと早い段階で使うべきかという言葉もあるだろうが、2つの理由から俺は使うのを躊躇っていた。
一つはイカサマが技なのか仕込みなのかハッキリしていなかったこと。
技なら見抜かれていた可能性があり、カードへの仕込みならすり替えた際に気付かれていただろう事からイカサマを見破るまでは使うのは控えていた。
そしてもう一つの理由、それはこの技術を会得した経緯にあった。
この技術は本来は手品に使う技術であり、それも身につけた理由が自ら会得しようと手を伸ばしたものではなくメリッサに暇潰しと称して無理矢理叩き込まれたものだったからだ。
自分が切欠で死んだ人間を悪く言うのは気が進まないが、メリッサに仕込まれた技術を使うのは正直嫌だと思ってしまうのだ。
そんな訳で、のっぴきならない状況でも無ければ使いたくはないのだ。
「しかしどうするかな」
時間は既に深夜を回っている。
マリリンさんの店がどんなものかは知らないが、少なくとも普通の酒場でも閉め始めるような今時分にステータスプレートを返せと向かうのは礼儀知らずだろう。
「野宿にしても金貨20枚がなぁ…」
予想外の高額収入を抱えた状態で橋の下で一晩は流石に不用心が過ぎるというもの。
「仕方ないか」
諦めて近場の飛び込み部屋を見繕うことにして俺は眼鏡から『暗視』を『徴収』し、残されたカードを含めた戦利品を懐に店を後にした。
〜〜〜〜
翌日。
「まあまあ!!
依頼から一晩で終わらせちゃうなんてアッシュちゃんったらやるじゃない♡」
翌朝、薄いシーツを一枚引いただけの地面よりマシな板張りの寝床で朝を迎えた俺は、その足で『樫の子熊亭』で合流し、昨夜の出来事についてマリリンさんの所で話す事を告げて朝食を済ませた。
そうして『樫の子熊亭』を出て自宅で待っていたマリリンさんに子細を語り終えた後に待っていたのがマリリンさんからの感謝のハグであった。
なお、かなり興奮しているらしく手加減はあんまりないため、実際はハグではなくベアハッグになっている。
つまり、
「ぎぶ…っ!?」
締め付けに肋が悲鳴を上げ、内臓が口から飛び出しそうな苦しさに息もままならなくなっていた。
「あー、マリリンさん。そろそろ離してやらないとアッシュが大変な事になっちまうかと」
「あらやだゴメンナサイ♡」
ライルの言葉に漸くマリリンさんが俺を解放した。
「今度ばかりは本当に駄目かと思った…」
最後の方など対岸に異様に向かいたいと思わせる綺麗な花畑を挟んだ川岸が見えていた。
「最大の障害はアッシュが一人で片付けたんだし、後はブルガルド本人に手を引くよう言うだけだな」
「ならばその役目は私が引き受けよう」
と、ライルの確認にウェスタが名乗りを上げた。
「そう言うなら俺からは特には無いが、本当にいいのか?」
「今回は特に協力も出来なかったからな。
クランの一員として少しは実績を積ませてもらうぞ」
と、何やら聞き捨てならない事を言い出すウェスタ。
「いや、いつ俺達はクランを結成したんだ?」
「何を言っているんだ?」
と、逆にウェスタが不思議そうに首を傾げた。
「冒険者は『銅』級以上のクランの参加者でないとペンドラゴン領での滞在は認められない筈だが?」
「あ゛」
すっかり忘れていた。
なんだかんだ言ってもアッシュも冒険者と言うなの根無し草なので卑怯な手だって使いますよ。
そんな訳で一段落ついたところでアッシュの受難は終わりません
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