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どうして俺がこんな目に…

これまでのブリギッド王女改めウェスタ「私らしさを魅せればアッシュも私の虜になるはず!!」


相手が女性不信拗らせかけていたアッシュだったため逆効果だった模様。

 薄暗い部屋の中、安い油のニオイが鼻につくのも気にならないぐらい俺は緊張していた。

 その原因たる手に握られた札に描かれた数字は殆どがてんでバラバラであり、かろうじて一組同じ数字が並んでいる程度。


「どうしたニイちゃん?

 まさか震えてんのか?」


 下卑た笑いを浮かべ嘲笑う目の前の男。

 それが俺に対する挑発なのは火を見るより明らかだ。

 俺は何も答えずに手にした札を伏せてテーブルに置いた。


「降りだ」


 そう言うと男はあからさまな舌打ちを打つと乱雑に手元のカードを投げ捨てる。


「チッ、次だ」


 捨てられた札を忌々しそうに一瞥する様から、伏せられた札はかなり高い役だったのだろうと予想しつつ次のゲームに移るため山札から一枚を引く。

 

 どうして俺が一人で賭博をする羽目になったのか、それは半日ほど前に遡る。



〜〜〜〜



「さてと、ちょっとは二人が仲良くなれたみたいだし、本題と行きたいんだけど…」


 散々人を掻き回してくれたマリリンさんはそう言うと顔を曇らせた。


「ごめんなさいね。

 私今とっても忙しくて、二人のお相手してあげられる時間がないのよ」

「何があったのだ?」


 俺が口を開くより先にウェスタが尋ねると、マリリンさんは頬に掌を当てながら困った様子で語る。


「私ね、お店を一軒切り盛りしているんだけど、そのお店を手放さなきゃならなくなりそうなのよ」

「様子を見るに、経営が理由では無さそうですね」

「そうなのよ。

 とある商家が店舗を開きたいって地上げを始めてね。

 私のお店もその地上げの対象になってしまったの。

 幸いお店にはまだ危害は加えられていないんだけど、お店を畳むよう嫌がらせをしてきていて困っているの」

「騎士団に相談は?」

「したわよ。

 でも、明確な暴力を振るわれていない現状だと個人の問題だから介入出来ないって突っぱねられちゃったわ」


 話を聞くに、騎士団が動かない程度に抑えている辺り相手は相当場馴れしている手合のようだ。


「その問題が解決してくれたら、すぐにアッシュちゃんの力になってあげられるんだけど…」


 なんか、次の展開が予想出来た。


「アッシュ。マリリン氏に代わって事態を片付けろ」

「だよなぁ…」

 

 最早予定調和とも思える流れに俺は堪らず漏らしてしまった。

 

「一応聞くんだが、手は貸すんだよな?」

「無論だ。

 だが、あくまで貴様が主体で動く事が前提だ。

 そうでなければ話にならないからな」


 まあ、そうだよな。

 ついてきたのはあくまで俺の実力を知ることが主題。

 戦力に数えていいと言ってくれるだけ御の字だ。


「本当に手を貸してくれるのアッシュちゃん?」

「ああ。その代わり、俺の『スキル』について色々と教えてもらう事を条件にするぞ」


 そう提示するとマリリンさんは喜色満面の笑みで再び抱きしめてきた。


「ありがとうアッシュちゃん♡

 お礼にたっぷりサービスしてあげるわ♡」

「とりあえず放してくれ…」


 先程より更に力強く抱きしめられ真面目に肋が悲鳴を上げ始める。


「あらごめんなさい♡

 嬉しくてつい♡」


 悪びれもなく嘯くマリリンさんに起こる気力も沸かず、俺はすぐに切り替え必要な情報を求める。


「兎も角、その商家と嫌がらせの主犯についてわかる範囲で教えてくれ」

「ええ。勿論よ♡」


 そう前置き、マリリンさんは求めた情報を口にする。


「嫌がらせをしてきているのはバルベルト商会ってところなんだけど」「ちょっと待て」


 つい最近その名前を聞いたばかりなのでつい口からでてしまう。


「その商会って、バルベルト男爵家と繋がりがあったりしないか?」

「ええそうよ。

 『勇者一行』の支援にって名分で店舗拡大を随分強引にやっているみたいね」


 なんという因果か。


「どうしたのアッシュちゃん?」

「ちょっとスマン」


 そう断ってからウェスタを見る。

 それだけで意を察してくれたウェスタは聞きたいことを言う前に答えた。


「ブルガルド・バルベルドは件の責任を取らせるためにバルベルト家は取り潰しの上領地も没収されている」

「本人は?」

「尋問後釈放されてからは王都から姿を眩ませたと聞いている。

 私財はともかく商会関係には一切手を出していないから、おそらくまだその情報が届いていないのだろう」


 そう推察を語るウェスタに、しかし俺は別の可能性に思い至る。


「違うかもしれないぞ」

「ふむ?」

「ブルガルドは再起のために商会一本に活動を絞っているんじゃないか?」

「……有り得るな」


 『勇者一行』の支援者として名を挙げれば再び貴族に返り咲ける可能性は無くは無い。

 そうでなくても『勇者一行』の贔屓にする商会という看板はそれなり以上の効果がある筈。

 判決結果は公表されず、表向きは疑いは晴れたとしか伝えられていないらしいしその辺りを突いての行動とも考えられる。

 尤も、トールがブルガルドを頼るのかと問われれば間違いなく無いとは思うのだが、『権謀術数』を『貸付』したトールがブルガルドを重用すると空手形を渡して動かしている可能性もあるため油断はならない。


「どちらにしろ、マリリンさんへの嫌らがらせは続いている以上事の真相を確かめ、その上で嫌がらせを止めさせることには変わらないだろう」

「まあ、そうだな」


 ウェスタの言葉に俺は同意し、再びマリリンさんに尋ねる。


「待たせてすまない」

「いいのよ♡ 報連相は大事だからね♡

 それで、嫌がらせを実行している奴なんだけど、こっちはちょっと厄介なの」

「厄介とは?」

「主犯のリーダーがね、『オルム』って名前の男でレベルは大したことないんだけど、彼は『呪詛』持ちなのよ」

「そいつはまた…」


 『呪詛』という言葉についそう零してしまう。

 

「能力は把握しているのか?」

「勿論よ。『賭博』っていう対人特化の『スキル』なんだけど、これがまたとても厄介なのよ」


 名前からして『闇金』同様条件を満たすと相手から強制的に奪うような能力のようだが、思い込みで動くのは危ない。


「発動条件は?」

「ギャンブルをする事で発動するわ。

 相手の掛金を全て奪うことで存在の所有権を自分の物にしちゃうのよ」

 

 それを聞き、俺は解決方法が想定以上に厄介な事になると確信した。

続きが気になると思っていただけたら評価とブックマークをお願いします。


また、感想も随時お待ちしております。

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