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俺に何を求めているんだ?

「会いたかったわよ〜♡ライルちゃ〜ん♡」


 ヤンチャな犬を牽引する感覚に陥りつつウェスタの寄り道を遮りながらなんとか以前世話になった家に到着した俺に待っていたのは、フリルワンピースで着飾りいくつも縦ロールに巻いた金髪のウィッグを被ったマリリンさんからのハグであった。

 長身に能わずしっかりした体付きに見合う筋力で行われるハグは非常に力強く、ぶっちゃけ息も苦しいぐらいキツイ。


 ……罰ゲームかな?


「アッシュ、この方が件の人物か?」


 ミシミシと嫌な音が内側から聞こえてきた辺りで苦しんでる筈なのに俺を微塵も心配する様子もなくそうウェスタが問うと、マリリンさんは俺を開放してしげしげとウェスタを見た。


「あらあら?

 随分珍しい組み合わせだけど、もしかしてアッシュちゃんったらやっちゃったのかしら?」

「一体何をやったと言うんだ?」

「ヤダもう〜♡

 そんなの決まっているじゃない♡」


 やたらめったらハイなご様子でクネクネ見を捩りながら楽しそうにマリリンさんは嘯く。


「お姫様を攫うなんて、アッシュちゃんったら意外とだ・い・た・んなんだから♡」


 両手を頬に添えキャーキャーとそう述べるマリリンさん。


「……はい?」


 え? この人今なんつった?

 致命的に無視しちゃいけない単語に益々理解が追い付かず硬直する俺に、面白がったウェスタからさらなる追撃の手が掛かる。


「ああ、なんと言う事だ。

 見ず知らずの土地に連れ去られた私はきっと、そこのケダモノに身も心も汚され二度と故郷の土を踏むことは無いのだろう」

「あらあら、本当に誘拐なの?

 アッシュちゃんったらとっても大胆だったのね♡」


 とまあ、実に芝居ががった様子で嘆くフリをするウェスタと、益々冗談でも言わないで欲しい台詞を言いまくるマリリンさんにドッと心労が積み重なっていく。


「帰りたきゃ帰っていいぞ。

 ついでにボッチも連れてってくれ」


 最早破滅とかどうでも良くなりいっそ殺されてもいいつもりで吐き捨ててやると、なんでかウェスタは殊勝な顔になった。


「すまん。少し誂いが過ぎた」

「別に。アンタがその気になれば俺なんざ「だめよアッシュちゃん」」


 切り捨てられる覚悟で拒絶しようとした俺をマリリンさんが遮る。


「仲良くしようとしている女の子を冷たくするなんて、男の子として失格よ?」

「はえ?」


 マリリンさんの理解し得ない台詞を飲み込めず変な声が漏れる。

 そんな俺に次いでマリリンさんはウェスタに視線を向ける。


「貴女も駄目よ?

 男の子って意外と時には女の子よりも繊細だから、ちゃんと相手の気持ちも汲んであげないとこんなふうに拗ねちゃうんだから♡」


 諭すようにそう言うと、ウェスタはむうと困った様子で腕を組む。


「親しくなった者は皆こうして友誼を深めてきたのだが…」

「それは相手も仲良くしたいって思っていたからよ♡

 成功体験にだけ頼っていたら頭も固くなって嫌われちゃうわよ♡」

「…成程」


 と、ウェスタは改めた様子で俺に向き合う。


「アッシュ。

 私は貴様に頼る身として親交を深めるべきと考えて振る舞っていたが、それが貴様にとってどう映るか考えていなかった。

 改めて詫びさせて欲しい」


 そうウェスタは俺に向け頭を下げた。


「ちょっ、ソレは流石に拙い!?」


 時期国王筆頭候補に頭を下げさせたと知られたらどんな目に遭わされるか。

 自業自得で死ぬならまだしも、誠意を示そうとして殺されるなんて堪ったものではない。

 慌てる俺に、しかしウェスタも譲らない。


「上に立つ者として示すべき誠意は示さねばならない。

 故に貴様に受け入れてもらえるまで頭を上げるわけには行かない」


 なんでそんな所でばかり理想の貴族的態度なんだよ!?


「分かった!! 謝罪を受け入れる!!

 序でにこっちも意固地になっていたのは認めるから頭を上げてくれ!!」


 これ以上の厄災は御免だとそう半ば叫ぶようにそう言うと、ウェスタは漸く下げた頭を上げた。


「感謝する」


 取繕う様子もなく、ごく自然な態度で笑うウェスタにどう言うべきか困る。


「…はぁ」


 その笑顔に一瞬でも見惚れた事実を否定するため、俺はあからさまな溜息を溢す。


「なんだその態度は?

 我は騎士だぞ? 偉いんだぞ?」

「なんで見直そうと思わせた直後に評価が下りそうな態度を取るんだお前は…」


 剥れながら文句を口にするウェスタについ本音を漏らしてしまう。


「…ああ、いや。

 どうにも距離感というものがだな…」


 すると何故かウェスタは恥ずかしそうに指先を弄りだしそう述べる。

 落ち着きのないというべきかころころと変わる感情を隠さず見せる姿に妙な親しみやすさを覚え、そんな自由な彼女に俺はますます惹かれていくのを自覚…


「って、何やっているんですかマリリンさん?」


 人の心情を上書きするように耳元で囁いていたマリリンさんに半目を向けると、マリリンさんは一切悪びれた様子もなくクスクスと笑った。


「怒っちゃ嫌よアッシュちゃん♡

 私はただ、二人に仲良くして欲しいだけなんだから♡」


 どうやら俺に味方はいないらしい。

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