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斯くして俺は新たなスキルを知った

構成の関係でざまぁパートはしばらく先送りになります。


なので次話から新規パートに入ります。




 ゴトゴトと車輪が轍を進む振動を尻に感じながら俺は爽快に晴れた空を見上げ憂鬱な溜息を零した。


「何が送迎だごうつくばり共が」


 馬車を用立てしたトールが「買い取れる馬車がこれしか無かった」との嘯いていた引き渡した馬車は、幌はボロボロで塗装も所々剥がれどう見ても廃棄された物からまだ使えると拾ってきたジャンクであった。

 おまけに引く馬も買い取れなかったと代わりに痩せたロバを差し出す始末。

 あからさまな仕打ちに流石に物申そうかと思ったが、顔を若干引き攣らせたカールマンが先じて絡んできた留まる様耳打ちをしてきたためにそれも出来なかった。


「……ハァ」


 クランを追い出されて早3日。

 荷台を見れば自身の荷物と食料品に並んで直前に渡された退職金の入った布袋が見える。


「俺は何がしたかったんだろうな?」


 まだ若い身という言葉が通用する年だが、しかし少年とはもう言えない年になってしまった我が身を思う。

 子供の頃から英雄に憧れは無かった。

 冒険者としての生活に特別な満足感も感じなかった。

 だけど、それでもカールマンと二人でああだこうだと言いながら明日は明日の風が吹くと気楽にやっていた日々はそれなりに楽しいとは思っていた。

 そう考えてみれば、面倒な役柄を押し付けられなくなった今の状況は願ってもない事かもしれない。


「残ったのはゴミみたいなステータスだけか。

 まあ、つまらない俺には十二分な…」


 と、レベルが上限に至ってから見る事もなかったステータスを記したプレートを見てみると、プレートの表示はおかしな事になっていた。


『アッシュ』


 職業『冒険者』


 所属クラン『無し』


 レベル:30

  力:1(50貸与中)

 体力:1(50貸与中)

 魔力:1(20貸与中)

 敏捷:1(35貸与中)


 スキル『●●:●●』


「なんだこれ?」


 『貸与』とある筈のスキル欄が黒く塗りつぶされていた。


「一体何が…?」


 汚れで見えなくなっているだけかもと思ってもいない理由を想像しながらスキル欄を指で触れた。

 直後、脳裏に声が響いた。


『条件を満たしました。

 隠匿を解除します』

「…へ?」


 脳裏に響いた声は、教会でスキルを授かった際に聞いた声と同じに聞こえた。

 混乱する俺を尻目にさっきまで塗りつぶされていたスキル欄に新たな文字が浮かび上がってきた。


『アッシュ』


 職業『冒険者』


 所属クラン『無し』


 レベル:30

  力:1(50貸付中)

 体力:1(50貸付中)

 魔力:1(20貸付中)

 敏捷:1(35貸付中)


 スキル『呪詛:闇金』


「『呪詛』…?」



 唐突な変容に理解が追いつかない。

 先程隠匿と言っていたが、まさか俺のスキルは『貸与』では無かった?

 それにステータス欄にも貸付中なる不穏に見える文字まで記されている。


「……ええっと」


 どうするべきか?

 『呪詛』に属するスキルには使用にあたり同時に代償を被る必要がある。

 有名なスキルには爆発的に身体能力を向上させる代償に理性を失わせる『狂戦士』。

 龍種の力を得る代わりに人ならざる異形に変異させる『龍化』。

 自身に負傷を追わせた相手にその数倍以上のダメージを返す『倍返し』。

 死体を従僕とする代償に死者の怨念に精神を苛まれる『ネクロマンシー』。

 どれもが使用者に破滅を引き換えに恩恵をもたらすものばかり。

 それらと類を同じにするこの『闇金』も何らかの不利益を被るのは間違いない。


 だが、


「…今更か」


 頭を過ぎったのは幼馴染の詰りの言葉。


「どうせ村に帰っても何を成すわけでもないんだ。

 最後に一花咲せてやるか」


 村に帰れば使うことも無いだろうし、使い方ぐらいは知っておいて損は無いと俺は変わり果てた自分のスキルを発動した。


「スキル発動」


 態々声に出す必要はないが、なんとなく口に出してみる。


 しかし、何も起きた様子はない。


「条件が足りないのか?」


 と、改めてステータスプレートを見てみると、プレートの表記にまた変化が起きていた。



  力:1(50貸付中)『トール』【利息滞納中】『カールマン』【利息納金済み】

 体力:1(50貸付中)『トール』【利息滞納中】『カールマン』【利息納金済み】

 魔力:1(20貸付中)『アンジェリカ』【利息滞納中】

 敏捷:1(35貸付中)『メリッサ』【利息滞納中】


 現在利息利率:10日/10%


 利息を徴収しますか? はい/いいえ


「利息?」


 ますます訳が分からなくなったが、どうやら『闇金』は『貸与』と違いステータスの受け渡しに双方合意でなければならない制約は無いように見える。

 利息がなんなのかわからないが、もしかしたら自分が『貸与』したステータスが返ってくるかもしれない。


「……」


 今更取り戻してどうすると言う話かもしれないが、しかし持っていかれたままというのは、やはり納得出来ない。


「利息を徴収する」


 そう口にすると再びステータスプレートの表記が変化した。



  力:1(50貸付中)『トール』【利息徴収済み】『カールマン』【利息納金済み】

 体力:1(50貸付中)『トール』【利息徴収済み】『カールマン』【利息納金済み】

 魔力:1(20貸付中)『アンジェリカ』【利息徴収済み】

 敏捷:1(35貸付中)『メリッサ』【利息徴収済み】


 『トール』より利息として【レベル:30】【力:70】【体力:60】【魔力:40】【敏捷:50】【恩恵:権謀術数】を徴収しました。

 『カールマン』からの徴収はありません。

 『アンジェリカ』より【レベル:30】【力:25】【体力:120】【魔力:100】【敏捷:20】【恩恵:回復】を徴収しました。

 『メリッサ』より【レベル:30】【力:35】【体力40】【魔力:15】【敏捷:100】【恩恵:暗視】を徴収しました。


 徴収したレベル並びにステータスとスキルはスキル内に収納します。


 現在利息利率:10日/10%



「………え゛?」


 何が起きた…?

 というより、何をやらかした!?

 混乱する頭を必死に回し何が起きたかの把握を急ぐ。

 貸し付けていたのは四人。

 表記が本当なら利息として3人からレベルとステータスをすべて奪い取ったって事になる?

 だけどカールマンからは一切徴収しなかったのは…利息とやらを収めていたからって事か?

 そして利息は徴収したが渡したステータスは帰ってきていない。

 というより徴収したステータスの一部として『闇金』の中に取り込まれてしまったようだ。


「……ハハッ」


 色々と耐えきれずロバを止めて草むらに仰向けに転がった俺の口から勝手に乾いた声が溢れる。

 今の憶測が間違いないなら、このスキルの力は悍しいなんて言葉でも足りない化物と言う事になる。

 

「正しく『闇金』か…」


 一度手を出せば死ぬ迄搾り取られる底なし沼。

 そんな物の持ち主になってしまった現実にこの先どうしていいか分からなくなってしまった。

 奪い取ったレベルとステータスを返そうという気にはならない。

 自分達の勝手で人を追い出したのだ。

 報いと言うには度が過ぎてはいるが、やはり今までのことを思い返すといい気味だとそう感じてしまう。

 カールマンも遠からず彼等とは手を切るだろうし、元より俺がいなくても上手くやっていたはずだから心配はない。


「とりあえず、行くか」


 もう村に帰るつもりはない。

 このスキルをどうするかも含め、この先について真剣に考えてみよう。


 ロバを待たせている馬車に戻り、俺は気分を新たに自分に何が成せるのかそれを探す旅を始めた。

続きが気になると思っていただけたら評価をお願いします。



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