流石に俺だってキレた。
答え合わせ回です。
新手の嫌がらせか拷問のつもりか? とその問い掛けるとトールは反射的に怒鳴った。
「なんで居るんだ!?」
そう問われた俺は言っている意味が分かっていて態と意味が分からないふうを装った。
「……お前、頭は大丈夫か?」
「〜〜っっ!!??」
見下していた相手からの憐れみの雑じる目を向けられ、声にならない叫びを上げるトール。
「不愉快だ!!」
ろくな語彙すら発揮できないままガンッ! と格子を蹴ってメチャクチャな事を言って立ち去るトール。
入口の方でトールが誰か「話が違う!」と罵る声を聞きながら出ていくのを聞き、何とか騙しきれたと息を吐いた。
「初手は上手く行ったみたいだな」
ラクーンと看守に向けて言うと、別人の名を口にされたはずの看守は器用に口を動かさず答える。
「迂闊に名を呼ぶでないぞ。
油断大敵危機開会であるからしてな。
だが、主の策なればこうなるのは必然に候」
相変わらず噛み合っているはずなのにズレているような違和感を与える事を口にする看守改めラクーン。
「それにしても上手く化けたものだな?」
何故に看守がラクーンと入れ替わっているのか、それは少し前に時間を遡る。
背後から何者かに襲われた俺はそのまま地下牢から運び出され、そして、堀に投げ込まれた。
おそらく脱走しようとして堀に落ちて溺れ死んだように見せかけたかったのだろう。
だが、奴らの誤算があった。
俺の嫌疑を晴らしたいと王都に来ていたライルとラクーンだ。
ライルは俺が連行された後、縁は切れたとすべき所を俺を助けるという選択を選んでくれた。
そうして夕食がてら王城に寄っていた二人は夜闇に隠れて何かを堀に捨てる二人組に気付き、立ち去ったのを確認して拾い上げてみたらソレは溺れ死ぬ寸前の俺だった。
それを聞いて俺は、ぶちギレた。
メリッサ達を死なせた罪の判決が処刑なら附して従おうとさえ考えていたのに、奴等は俺を殺して罪だけを背負わせようとした。
俺はそんな事をされてまで自分が全て悪いのだと罪を償える様な人間なんかじゃない。
ふつふつと湧き上がる怒りに賛同してくれたライルと共に、俺を嵌めようとした奴に本気で報いを与える決意をした。
そうして俺は、最初の一手を打つため何食わぬ顔で牢に戻った。
これは俺ではなくライルの策だ。
しかしライルが最初から考えていた策ではない。
スキル『恩恵:権謀術数』を『貸付』したライルによる策だ。
『権謀術数』を手にしたライルは直ぐ様牢に戻り、何事も無かった様に振る舞うように俺に言った。
しかし牢に戻った俺はそこで計画の続行が難しいことを知る。
牢屋の前で看守が血を流して倒れていたのだ。
致命傷を受けた看守にどうするのだと焦る俺に対し、ラクーンは看守治療すると言い抱えて一度外に出るとすぐさま引き返し床の血痕を誤魔化してからスキル『恩恵:変身』を使い看守に化けた。
「然り。
狸にとって元より『変化』はお家芸なれば、他人に成りすますなぞ朝飯前どころか前日の昼餉に等しいことよ」
曰く、ラクーンの一族は身体能力に加えて固有能力として他人に成りすます『変化』の術が使えるらしい。
その為貴族の影武者として重用されているそうで、ラクーンもライルの影武者件婚約者として付いて回っているそうだ。
「ところでさ、ラクーンは自分の『スキル』について思うところは無いのか?」
『スキル』を得るだけなら難しい事はない。
『神勇教』の協会に子供の小遣い程度の寄付だけでもすれば得られるからだ。
だが、得られた『スキル』が望みに叶う事は少ない。
ラクーンにしても、種族の固有能力と『スキル』が被っているのだから本人の希望に沿うものでは無いはず。
その問いにラクーンは「否」と答えた。
「恥ずかしいことだが某は落ちこぼれでな。
武は他の者に引けはせぬが『変化』はとんと上手く出来なんだ故、主の血筋を残すことのみ期待されておった。
しかし『スキル』を得た事で主の臣として足りぬものが補えたことは望外の幸運であったから某に不満は無い」
「…そうか」
軽い雑談で済むと思い振ってみたが、思った以上に重い話を聞かされ言葉に詰まった。
「それに、『病弱』や『擬死』のような使い途が限られ過ぎるスキルでは無かったほうが余程重要ではないか?」
どちらも冒険者の間ではハズレスキルの代表格とも言われる『スキル』であり、『病弱』は記憶力に上昇補正が掛かる代わりに耐性が大幅に下がるデメリットがあり、『擬死』は死体の振りをすると脈と心臓も止まり本当に死んでいる様に見えるという、どうしてこんなスキルが存在するんだと言いたくなる『スキル』だ。
「確かに」
『スキル』の良し悪しで一喜一憂するのは馬鹿らしいと、そう含ませる言葉に俺は同意し明日の決戦に備えて再び毛布に包まった。
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