事実を俺は否定しない。
不定期に入ってからのほうが更新速度が早いような…?
「………は?」
理解できない言葉を聞いた様子で呆けるトール。
それを見て俺は、トールについていくつかの事を確信した。
「お前、自分が何を言ったのか解っているのか?」
「お前と一緒にするな」
ガツンッ!!
一際大きく格子が蹴られたが、しかし俺に恐怖は無い。
「言うに事欠いてお前ぇっ!?」
「トール。俺が仕組んだと言うなら答えてくれよ。
俺はお前に何を仕組んだんだ?」
「っ!?」
トールは息を呑んだまま言葉に詰まる。
やはりか。
俺の知っているトールなら今の状況で言葉に詰まったりはしない。
それ以前に感情的に牢を蹴るなんて真似は堪えている筈だ。
今のトールに嘗ての頭の良さはほぼ確実に無い。
トールの頭の良さはトールのスキル『権謀術数』の恩恵に依るものだったのだ。
効果の内容こそハッキリしないが、名前からして策謀に強くなる、言い換えれば頭が良くなる『スキル』だったのだろう。
嘗てのトールならば捕まった俺となんて接触しない。
当日までに俺が言い逃れができないよう証拠を固め、期日まで待っていた筈だ。
或いは自身が関わっていないよう見せるため、『勇者法』に頼らず第三者の知人を通じて俺を殺すないし二度と表に出られないよう手を回していた筈。
嘗てのトールにはそうしたとしか思えないような都合の良い展開が何度も起きていたからだ。
だからこそ、そんな手の広さに敵わないと俺は疑わしくても何も言わなかったし、逆らう術が無かった。
「それは、おまえが俺達を恨んでいたからやったんだろうが!?」
「何をやったんだ?」
「それは…嘘の依頼を用意して、」
「どうやって?」
「俺達を妬んでいる誰かを抱き込んで…」
「誰かって誰だよ?」
この時点でもう話にならない。
最低限の読み書きぐらいしか出来ない俺でももう少しまともな嘘を並べられる自信がある。
「抱き込んだってなら何を報酬に渡そうとしたと?
言うまでもないが『勇者一行』の称号はクランを脱退した俺には引き継げないし、そもそも王家の承認が必要だからそれは対価になり得な「黙れ!!」」
俺の問い掛けを遮るつもりか荒々しく何度も蹴りつけるトール。
「お前の全てが出鱈目だ!!
お前が全て悪いんだ!!
だからさっさと死ね!!」
まるでガキの様に喚き散らし格子を蹴るトール。
やがて疲れたのかぜぇぜぇと荒く息を吐きながら「もういい!!」と背を向ける。
「どのみちお前はもう終わりなんだ。
せいぜい最後まで自分の無実を叫んでいろ!!」
こちらの問いに何一つ明確な答えを返さぬまま負け犬の遠吠え…は人獣族への差別用語の一つなので改め、逃げるようにトールは牢を離れた。
「宜しいでしょうか?」
言葉にするのもアホらしい感情を整理していた俺に、先程までの全てを傍観していた少女が俺に声を掛けた。
「貴方が今回の首謀者で間違いないですか?」
「間違いだよ」
のっけから否定以外に答えに困る問いをくれた少女に半目を向けつつ否定する。
しかし少女は意に介した様子もなく「そうですか」と言い、もう一度話し掛けてきた。
「では、今回の全ては彼の虚言だと言うのですね?」
「そうとも言い切れない」
「?」
何を考えているか分からない彼女が嘘を見破る『真実看破』のスキル持ちである可能性を警戒して、俺は全てを否定しないことにする。
「もしかしたら、メリッサ達の死に俺は無関係じゃない可能性がある」
「それは?」
「だが、それは故意でもなければましてや殺意があってやった事では無かった」
俺は利息という言葉から何らかのおまけが来るかもとは思ったが、変化した『闇金』が3人から『レベル』や『スキル』まで奪うなんて予想さえしていなかった。
「だけどそのお陰で助けられた人がいる。
だから、本当に俺が原因で三人を死なせたというなら裁きを受けるつもりだ」
『闇金』で『レベル』と『ステータス』を奪っていなかったら、とうの昔に俺はライル達と一緒にクームヤーガに殺されていた。
引いてはすぐ近くにあったヌルクスの街にも少なくない被害が及んでいただろう。
可能性の話であり結果論だと言われたらその通りだが、だからといって救えた事実は事実だ。
「貴方は死を恐れないのですか?」
「普通に嫌だよ。 だけど、冤罪でお尋ね者になるのはもっと御免だね」
命あっての物種とは言うが、『勇者法』を敵に回して日陰者にさえ後ろ指を差されるような暗い道を歩くぐらいなら、処刑された方がまだ救いはある筈。
そう自身の裡を語ると、少女は「分かりました」と口にした。
「貴方の主義主張は理解しました。
今後の調査の足しに致します」
では。と踵返して牢を立ち去ろうとした少女だが、数歩歩いてから不意にこちらに向き直る。
「忘れていました。 私の名はアリシア。
今回の『勇者法』における裁判長です」
「……へ?」
「では5日後に」と言い残し今度こそ牢屋を立ち去るアリシア。
「……よっぽど優秀なんだな」
先程とは別方向に持て余した感情を整理したくて、俺は無意識にそう溢していた。
続きが気になると思っていただけたら評価とブックマークをお願いします。




