どうやら何事もない日は俺には無いらしい
申し訳ありませんが、ストックが今回で尽きます。
ですので次回にざまぁパートを挟んでからは不定期になります。
ランチメニューは香草と共に蒸し焼きにした川魚とスープにパン。
食欲をそそる香りに腹が空腹を訴えるまま俺はパンをちぎって口に放り込んだ。
温かいパンは思ったよりも柔らかくて驚いた。
「…大衆食堂とは思えないな?」
「だろ?
ここの店主がこだわり気質でさ。
値段も高めだがその分味も良いんだよ」
サレットの隙間から器用に食事をするライルに、なる程。と頷きスープを一掬いして流し込む。
酷い処だと苦味やえぐみといった不味さが交じるものだが、ここのスープには全くそれらが感じられない。
「ラクーンはどうしたんだ?」
クームヤーガでのやり取りからして除け者にするとは思えず訊ねると、ライルは仕様がないという風に肩を竦めた。
「修行の一貫だがで断食中なんだよ。
口を開けばトンチキな事をよく言うけど、根はすごく真面目だからな」
表情こそ分からないが、口調と雰囲気から自慢げに聞こえる。
「付き合いは長いのか?」
「幼馴染で、一応婚約者だしな」
「……婚約者?」
「ああ。
だから変な気は起こすなよ?」
そう釘を刺したライルからは冗談の気配は見えない。
只人と人獣族の夫婦自体は珍しいといえば珍しいが特別変な話ではない。
建国以来結ばれている王国と帝国の間での蜜月の関係は崩れたことは無いし、登城したトールの遠回しな自慢話の中では王国にも人獣族の血が混じっている貴族は居たそうだ。
一部の差別主義や純血主義でも無ければそう忌避感を感じる事も無いだろう。
尤も、これもトール曰く貴族は大体純血主義らしいが。
その話を聞いていたから貴族の出らしきライルとラクーンがそういう関係だというのには驚いたが、別立てどうこうとは思わない。
「勘違いさせないよう気を付ける」
「頼むぜ」
カールマンならヤッたヤラないと下世話に突っ込むだろうが、俺にそんな話を聞く趣味は無いからこの話題はそこで切り上げる。
「それに換金やら説明やらで手間取っていたからその受け取りなんかも一緒に済ませてくれているよ」
「説明?」
誰に、何の?
「クームヤーガだよ」
「あ、」
そう言われて疑問が一瞬で氷解する。
人の足で街から一日の距離にAランクのクームヤーガが現れたとなれば、普通は街中がパニックになってもおかしくはない。
使えば自爆するボウガンのお陰であっさり倒せたが、本来のクームヤーガは容易に百人規模で屍の山を築く怪物であり、上位クランが当たらねばならない超危険種なのだ。
それをたった3人で仕留めたとなれば説明が必要だろう。
「いや、あの言動で説明役は適任なのか?」
「証拠にクームヤーガの目玉を回収したから大丈夫だろ」
「そうか…」
些か引っ掛かるが、長い付き合いのライルがそう言うなら大丈夫なんだろう。
「まあ、クームヤーガの目玉なんて希少部位を証拠に出したもんだから報酬で揉めちまってるんだけどさ」
「そういえばそうだな」
普通というか、クームヤーガとの戦闘では『魔眼』を封じる為に真っ先に目を潰すことになる。
そのためクームヤーガの目玉は非常に価値が高く、無傷で回収出来たなら子供の背丈ぐらいの金塊と取引されるとかなんとか。
そんな物が唐突に手に入ったとなれば時間が掛かるのも止む得ない。
「なんか、悪いことしちまったか?」
「なんでだよ?
寧ろ冒険者らしい一攫千金を夢見させてくれて楽しかったぐらいだぜ」
そう笑い声を零すライルに、冒険に憧れる子供の高揚感と憧憬を見て俺は、カールマンが村から連れ出した頃の笑顔を思い出した。
そして同時に、自分にそういった未知への好奇心が足りなかったのだなとつくづく思い知る。
これではメリッサが俺をつまらないと評価するのも仕方ない。
あ、
「マリリンさんからステータスプレート返してもらうの忘れてた」
不穏極まりない台詞に諸々吹っ飛びその後のライルの登場もあってすっかり頭から抜け落ちていた。
「心配しなくてもいいぜ。
マリリンさんは盗みをするような人じゃないからな」
「だといいけどな」
荷物に手を付けず介抱してくれたし、ライルの言葉からして悪人では無いのは確かだろうが、しかし先のやり取りがあまりにも衝撃的過ぎて、俺の評価はなるべく近付かないで欲しいが大部分を占めている。
と、ステータスプレートの事を思い出した俺は、同時に【女神】についても思い出した。
「なあライル。
あの時、もう一人居なかったか?」
「…どんな奴だ?」
「錦糸のような綺麗な髪の、なんというか、こう、天使みたいな…」
バタンッ!!
【女神】について思い出せる限りの情報を口にしていた最中、荒々しく開いた扉の音が鳴り響きつい言葉を中断してそちらに注視してしまった。
「…騎士?」
細かい細工の施された全身甲冑を身に纏った一団が入口に立っており、店内の誰もが何事だと固唾を飲む中、騎士の一人が俺達のテーブルに目を向けると何事かを囁き合ってから俺達に近付いた。
「元『赤光』のアッシュだな?」
騎士の一人、中でも特に意匠の凝らした甲冑を纏う騎士の問い掛けに俺は嘘はまずいと本能的に思い「ああ」と頷いた。
「お前には『勇者法』を犯した容疑が掛かっている。
見の潔白を明らかにする気があるなら同行してもらおう」
そう、拒否は許さないと断固とした意思を含ませた要請という名の強制を口にした。
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