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あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
3章 レスターの後悔と苦悩
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9 後悔と再燃 (レスター)

今回からレスター視点で話が進んでいきます。

 私はレスター・エスクロス。侯爵家の嫡男として生を受けた。数年前に父が亡くなり、今は侯爵の身分だ。


 既に歳は四十を少しばかり越え、世の中の酸いも甘いも経験してきた。しかし今日ほどの衝撃を受けたのは初めてだった──いや、初めてというのは正確ではないかもしれない。


 私にとって、彼女──デイジー・フラネルと過ごす時は、いつだって平常心ではいられなかったのだから。


 かつて私の婚約者だったデイジー。別れてもう二十数年の月日が経っている。


 もう二度と会うことが叶わないと思っていた彼女だったが、驚くことに国王陛下主催の茶会で再会したのだ。


 初めはまさか彼女だとは思わなかった。


 ただ茶会の席から離れた庭園の端で、独り佇んでいる女性のことが気になったのだ。


 しかし今思えば、その髪色や纏う空気に、かつての彼女の面影を見つけていたのかもしれない。


 私はあれからずっと、彼女を忘れることが出来なかったのだから──


 視線の先には、気分が悪くなったと言ってこの場を離れるデイジーの後姿。



──()()()()()()──



 明らかに彼女は私を拒絶していた。


 優雅に微笑んでいたが、あの春の陽だまりのように笑っていた彼女が、あんな仮面のような笑顔をするなんて──


 過ぎ去ってしまった時を想い、虚しさと後悔が心に渦巻いていく。けれど同時に、例えようのない喜びが溢れるのも感じる。


 デイジーは歳を重ねても、その美しさは変わらなかった。そして大人の女性としての魅力と、凛とした強さも併せ持っていた。


 あの頃と同じように、心が震えるのを感じる──彼女が欲しいと──


 けれど私と相対した彼女の姿は、目を逸らしたくなるようなものだった。恐怖に青ざめた小さく震えるその姿は、今にも消えてしまいそうなほど頼りなげで、野獣に怯える少女のようですらあった。



「私の存在が、君を怯えさせているのか……」



 その事実に、まるで肺が潰されたかのように息が苦しくなる。


 視線の先には、デイジーを支えながら歩く一人の老紳士の姿。


 人に好かれるであろう容姿と、上品な佇まい。そしてデイジーを慈しみ愛しているのがわかる言動。


 デイジーにとって、彼がどういう存在であるのか。


 …………考えたくなくて頭を振る。今更ながらに自分が失ったものの大きさを、思い知らされた気がした。



「デイジー……」



 声が届く距離ではないとわかっていても、その背中に呼びかける。


 その可愛らしい名を呟く時に、悲しい響きが混じるようになったのは、いつの頃からだったろう?


 次第にその笑顔を思い出せなくなって、どれだけ経っただろう?



 気が付けば口の中に血の味がした…………唇を強く噛みすぎたようだ。



「彼女がこの国に戻ってきている──それだけは事実だ」



 仄暗い感情を押し殺し呟く。ようやく訪れたこの機会を逃すつもりはない。



 デイジーを取り戻すために──


お読みいただきありがとうございました。

次回からレスター視点の過去編突入です。過去の事件をレスターの視点から見ていくと、謎が解けてくるはず。お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドキドキしてしまいました。 デイジーの心の傷とだんな様の優しさを知っている分、レスターが憐れになりますけれど、彼の気持ちの変化は何のか、過去に何があったのか、とても気になります。 というよ…
[良い点] 『あの頃と同じように、心が震えるのを感じる――彼女が欲しいと――』 おどりゃああんまりとぼけたことぬかしよったらブチくらわすぞって感じですね! 続きが楽しみです!
[一言] おや? レスターからヤンデレの香りが……?(ワクワク)
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