↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
4章 再び動き出した運命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/172

28 レスターの決心 (レスター)

レスター視点です。

 リュクソン陛下の計らいで、私は柊宮へと訪れた。そこに滞在しているエルロンド・フリークス氏に会う為である。


 先日思いもよらず街中でデイジーと再会し、そこで何とか過去の謝罪をすることができた。それがなければ、機会を見つけて柊宮に彼女を訪ねるつもりでいたのだ。


 だがデイジーは人妻であり、国王陛下の賓客として滞在している。いくら知り合いとはいえ、そう気軽に尋ねられる相手ではない。ましてや二人きりで会うことなど難しいだろう。


 思いもよらぬ再会は私にとって僥倖であった。だが彼女にとってそれが好ましくないのは、今の様子を見れば明らかである。


 視線を向けると、デイジーがお茶を入れ直してくれていた。既に国王陛下は退室しており、今は彼女とフリークス氏との三人のみだ。



(……気まずそうにしているな……)



 それもそうだろう。今のデイジーは、前の婚約者と夫との間で板挟みになっているようなものなのだから。


 しかし陛下やフリークス氏は、彼女の同席に異を唱えはしなかった。彼女の性格的にわざわざこの場に同席すると自分から言うと思えないので、もしかしたら陛下かフリークス氏の指示かもしれない。


 私はその意味を測りかねて、じっと彼等の様子を交互に窺った。


 フリークス氏は高貴なその顔立ちに、鷹揚な微笑を湛えつつ、優雅にティーカップを傾けている。その表情には、こちらに対する敵愾心など微塵も窺えない。


 一方のデイジーは、何か心の奥底に感情を抑え込んでいる、そんな表情をしていた。



(……相変わらず君は、そうして自分の気持ちを抑えてしまうんだな)



 デイジーの様子に、少しだけ切なさを感じる。彼女と婚約していた時は、そんな小さな心の機微にさえ気づいてあげることができなかった。


 彼女が安心して自分の気持ちを打ち明けることができていたならば、私たちは今も共にいられたのかもしれない。だが彼女にとってそういう存在になれなかったのは、一重に私自身の責任だ。


 そんな風に一人過去への後悔に苛まれていると、フリークス氏が話しかけてきた。



「土地開発に携わっていると聞きましたが、具体的にはどういうことを?」


「えぇと、そうですね……」



 フリークス氏の質問に暫し黙考する。デイジーの夫とは言え、今後仕事で深く関わっていく人物だ。デイジーへの想いは未だ心の奥で燻ってはいるが、それとこれとは別である。私は端的に自分の仕事について彼に説明することにした。



「これまでの領地経営は、各領主に任せきりだったのですが、今は中央から行政官を補佐に出している形なんです。これは今上陛下の政策の一環なのですが」


「あぁ、リックからそのように聞きました。彼らしい政策だ」



 各領地での格差を是正する為、そして不正を防ぐために、大幅な改革がされたのが約二十年ほど前。当初は反発も大きかったが、今はうまく回っている制度である。



「えぇ……それで行政官を通して、中央の意向を各領地に反映させるのですが、土地開発に関わる事業については、主に私が担当させていただいております」


「ははぁ、なるほど。それはかなり重要なお立場だ。貴方は余程リックの信頼が厚いのですね」


「いえ、たまたまですよ。国外に長くいたので、そこで様々な土地の活用法を見聞する機会がありまして……それで今はこの仕事をさせていただいております」



 実際に私がこの仕事に就いたのは10年ほど前だ。今では領主たちの信任も厚いと自負している。


 私が自分の仕事について語ると、フリークス氏はそれを興味深そうに聞いていた。側にいるデイジーも、同じように耳を傾けている。私は話が興に乗ってきたので、気になっていたことをフリークス氏にぶつけてみることにした。



「……あの、今回のお話についてなんですが……」


「えぇ、何でしょう」


「フラネル子爵の土地でなければならない理由が、何かあるのですか?」



 正直な所、デイジーのいる前でフラネル子爵の話題を出すのは気が引けた。先日、彼女の様子がおかしくなった件があるからだ。


 彼女が父親であるフラネル子爵に普通でない恐怖を抱いていることは、過去の件からも先日の様子からもよくわかる。


 しかしそれを夫であるフリークス氏が知らないはずがない。それなのに、今回の件でフラネル子爵の土地を関わらせるというのは、矛盾しているように思えた。



「…………そうですね。確かに私があの土地にこだわるのは、貴方には不思議に思えるでしょう」



 フリークス氏の表情に陰りが生まれる。だがその奥にどんな感情が潜んでいるのかまではわからなかった。



「あの土地は、私とデイジーにとって必要なんです」



 真っ直ぐに真剣な眼差しを向けられる。その榛色の瞳には、嘘も嘲りもない。



「……貴方はご存じでしょう。あの土地にデイジーが深く関わっていることを……そう……誰よりもよくわかっているはずだ」



 フリークス氏の柔らかな口調が、僅かに強まっている。まるで私の過去の行いを責めるように。



「……失ったものを取り戻す為です」


「……え?」


(……失った……もの……?)



 その言葉に思わずデイジーの方へ視線を向ける。しかし彼女は顔を俯けていて、その瞳の輝きは憂いの奥に沈んでいた。


 フリークス氏の言う、失ったものというのが何なのかは私にはわからない。けれどそれがこの二人にとって、大切なものなのだということは、その様子を見れば理解できる。



(一体、彼等の間に何があったんだ……?)



 先日のデイジーの様子、そしてこの土地に関わるフリークス氏の言葉。それらは確実にフラネル子爵との間に大きな確執が存在していることを思わせた。


 そしてフリークス氏は、その渦中へ飛び込む覚悟があるのか──そう私に向かって問うているのだ。



「……これ以上は今は言えません。でも全てが終わったら、きちんとお伝えするつもりです」



 それだけ言い終えると、フリークス氏は再びその高貴な顔に柔らかな微笑を湛えた。何故かその表情には逆らえる気がせず、私はそのまま口を噤んだ。


 しかしその代わりというように、それまで黙っていたデイジーが口を開いた。



「レスター……いえ、エスクロス侯爵。無理なお願いをして申し訳ありません……でもどうしてもあの土地が必要なのです。どうか……」



 デイジーは両手を握りしめ私に懇願する。その切なげな表情は、彼女がこの件にどれだけ真剣なのかが窺えた。そんな彼女の期待を裏切るわけにはいかない。


 私は一人決心する。



「……わかりました。必ずフラネル子爵の土地を手に入れましょう」


「っ……ありがとう!」



 私の返事に、一瞬でデイジーは笑顔となった。


 周囲の人々を幸せにするような、花のような美しい微笑み。


 その笑顔を見れば、彼女への想いで全身が満たされていく。


 しかし今デイジーが向けてくれている笑顔の奥に、私への愛があるわけではない。それでも私にとって彼女の笑顔は至高の喜びであった。



(きっと成功させる。君が喜んでくれるなら──)



 心の中で誓いを立てる。


 自分だけの彼女への誓いを──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i386115i386123 i424965i466781i473111
― 新着の感想 ―
[良い点] 活動報告見せていただいた時も 「イメージ通りっ!」 と叫んでいましたが、こうして見てもやはりイメージ通りですねー。 デイジーかわいい! レスターのお坊ちゃんっぽさが残ってるのも良きです。 …
[一言] 失ったもの!? き、気になるううう!!!ww
[良い点] レスターかっけー( *´艸`) 43歳、良い色気が出てますね!! 清書をゆっくりお待ちしてます♡ レスターがあれからどう生きてきたのか、結婚しているのかしていないのか、あの子供との関わり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。