表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
3章 レスターの後悔と苦悩

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/172

10 出会い (レスター)

レスター視点で過去編に突入します。


 私がデイジー・フラネルと出会ったのは、彼女のデビュタントの夜会だった。


 王家の離宮で開かれたその一際大きな夜会に、私は親戚の令嬢に頼まれて、エスコート役として参加していた。


 煌びやかな会場で、デビュタントを迎えた初々しい令嬢たちが、楽し気に踊っている。


 だが私と言えば、正直うんざりとしながらこの夜会に参加していた。


 こうした社交の場はいつも同じ。華やかで美しい世界の裏に、醜い物を隠し持っているものだ。


 それが苦手な私は、とりあえず親戚の令嬢とのファーストダンスを終えると、いつものようにさっさと会場の隅に身を置こうとしたのだが──



「レスター様、次は私と踊っていただけませんか?」


「次の夜会は参加されますの?エスコートを是非ともしていただきたいわ」


 目ざとく私が一人でいるのを見つけた令嬢たちが、取り囲んでくる。


「悪いが人と約束をしていてね。失礼」



 いつものことなので素っ気なく応対すると、それでも我先にと彼女たちが押し寄せてくる。


 私はその逞しさに辟易しながら、彼女たちの体当たりをさらりと回避すると、さっさと人混みに紛れた。


 本来ならばこうした夜会は御免被りたいが、侯爵家の子息としての立場もあるのでそうもいかない。だがその立場のせいで、毎回こうした苦行を強いられるのだ。


 父は今を時めく宰相であり、エスクロスと言えば名門として名高い侯爵家。そして私はそこの嫡男で、いまだ婚約者のいない身である。


 そうなれば独身の令嬢たちにとっては、私の姿が美味そうなごちそうにでも見えるのだろう。未だ取って食われていないのが不思議なくらいだ。



「はぁ……」



 周囲に年配の客たちしかいなくなって、ようやく人心地つき、盛大にため息を吐く。


 父からは見合いだのなんだのとせっつかれているのは事実だが、はっきり言って私の()()にしか興味のない人間と、生涯を共にしたいとはどうしても思えない。


 今回の親類の令嬢のエスコートだって、半ば強引に押し付けられたのだ。()()()()()、という周囲の思惑が透けて見える。



「はぁ……」



 これから先の事が思いやられ、何度目かの盛大なため息を吐いた、その時だ。



「あ、すみません」



 すぐ近くで若い女性の声がした。人混みを掻き分けているのだろうか。つい漏れ出たような何気ない声。しかし私はその声に衝撃を受けた。



 ──軽やかに春の訪れを歌う、小鳥のような澄んだ美しい音色──



 優しさが心の中に広がっていくような。

 いつも笑顔で包み込んでくれるような。

 そんな温かみのある声。


 無意識に私はその声の主へと振り向く。そして同時に「しまった!」と思った。


 先ほどのようにしつこく迫られる自分の姿を想像する。女性に興味を持たれるように自ら振舞うなど、私にとっては愚かなことだったから。


 だからわざとらしく視線だけでも戻そうとしたのだが……


 

 ────出来なかった。


 まだあどけなさの残る顔。

 デビュタントの白いドレスを身に纏い、少し心許なげな様子。


 ──けれどその容姿は、誰にも負けぬほどの美しさだった。


 豊かに波打つ亜麻色の髪は、絹糸のように艶やかで、真珠色の滑らかな肌の上を流れている。大きな瞳はまるで碧玉のように輝き、長いまつ毛が瞬きをするたびに、星が零れ落ちるのではないかと思うほどだ。



(美しい……まるで可憐な花のようだ──)



 思わずその美しさに呆気に取られていると、彼女とバッチリ目が合った。


 ──あっ、と思った瞬間。



 ……彼女は私の存在など目に入っていないかのように、人混みを掻き分けていってしまった。



「えっ……」



 予想もしなかった相手の反応に、思わず声をあげる。


 これまで出会った女性というのは、宰相の息子であり侯爵家の嫡男である私に、必ずと言っていいほどすり寄ってくる者たちばかりだったからだ。


 なのに彼女は、私に何の興味も示さず行ってしまった。



(今……確かに目が合ったのに……)



 私は何故か、酷くがっかりした気持ちになり、自分でも驚く。女性にこのような感情を抱くのは初めてのことだった。


 視線を向ければ、嫋やかな花のような人が、独りでバルコニーへ出て行くのが見えた。



(彼女は一体どんな女性なんだろう?)



 彼女のことが無性に気になった私は、その後を追うことにした。

 



お読みいただきありがとうございました。

俗に言う一目惚れってやつですね。生涯を共にする人だからこそ、出会った瞬間にそれがわかって惚れるんじゃないかなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i386115i386123 i424965i466781i473111
― 新着の感想 ―
[一言] おもしれー女
[良い点] 『なのに彼女は、私に何の興味も示さず行ってしまった。』 当たり前じゃあぁぁぁーー! おんどれなんぞ宰相の息子じゃなかったら誰が相手にするんなぁ! うぬぼれも大概にせえよぉぉぉーー! [一…
[良い点] 一目惚れ&完全スルーw 「こ、この私を無視……だと!?」 というレスターくんの心の声が聞こえてきそうですw 上から目線のスカした男が恋に落ちる瞬間は見ものですねーw こんなこと言っては何…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ