タンドリーチキン
「タンドリーチキンをお願いします」
ちょっとした一人飲みに出かけて、タンドリーチキンを注文した。
「タンドリーチキンですか?」
すると店員さんは随分と狼狽したように心配そうな声を出した。
「え?」
何が?なんで?
「いや、大丈夫です。わかりましたありがとうございます」
私の疑問符に背中を押されたように、店員さんはさっさと下がっていってしまった。
「何が?」
まさかタンドリーチキンを注文されるとは思わなかったみたいなリアクションだった。現に奥に下がった店員さんが厨房で、タンドリーチキン入りましたあ!っていうと、厨房からどよめきの声が上がった。
「ええ?」
私はそんなに悪いことしたんでしょうか?気が小さい。気が小さい私だからすぐそういう感情が芽生える。しかしながら、メニューに書いているのだ。メニュー表に載っているのだ。なにが悪いのか?
だってこれタンドリーチキンだろ?
タンドリーチキンって書いてるじゃん。
改めてメニューを開いて確認する。一応お酒はすでに何杯か飲んではいたが、まだ酩酊しているわけじゃない。焦点は合っている。字も読める。ほら、タンドリーチキンって書いてるじゃない。
あ、
メニュー表をよく見ると、何かの上に紙を貼って、そこにタンドリーチキンと書いてあった。
何?何が?何が下にあったんだ?
周囲に店員さんがいない事を確認して、メニューを照明に透かして見てみる。
「竜・・・」
竜田揚げ?
もともと竜田揚げ?
それがどうしてタンドリーチキンになったんだ?
初見の店だった。ほんとたまたま入った店だった。
だからその店の歴史とか来歴とか全然知らない。
いや、でもまさか、タンドリーチキンってメニューにあってそれを注文されて困るってことあるか?何も段取りーチキンっていうギャグめいたことじゃあるまいに。
段取りーチキン。
注文されて段取りから始める感じのやつ。だからすごい時間かかる。チキンも注文されてから買いに行くみたいな。で、買ってきてクックパットで調べながら作るみたいなやつ。
段取りーチキン。
それじゃないだろう。もしそれだったとしたらこの話のオチはどうする?もう先に話してるじゃないか。だからまさかそういう事じゃなかろう。
いやいや大丈夫だよ。プロの店だよ。これでお金取ってるんだ。お客様は神様じゃないけど、でも書いているメニューを注文して悪いことないだろう。
しかし、それからいくらたってもタンドリーチキンは出てこなかった。
そのあと頼んだ、ほっけの開きやら、ナスの揚げびたしやら、だし巻き卵やらはわりかしすぐに出てきたのに、タンドリーチキンだけはいつまでたっても出てこなかった。
結局それは頼んだきり、ありつくことはかなわずそのまま清算して家に帰った。
もうそのころには結構酔ってたし、まあ、いいかっていう感じになってた。
でも、あくる朝改めてレシートを見てみると、タンドリーチキン分のお金もしっかりとられていた。
レシートに書いてあった。
タンドリーチキンって。
どう見てもタンドリーチキンって書いてある。間違っても段取りーチキンではない。
そんなに難しいのか?
実際クックパットで調べて作ってみたら、意外と簡単できた。
じゃあなんだ?
わからない。
わからないし、お金もとられてるけど、でもこの話を書いたからまあ、いいかと思う。




