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裏道

作者: 水衣 宙


角を曲がって薄暗い路地に入ると彼女に似た後ろ姿が見えた。

隣には背の高い男性がいて、二人で手を繋いでいた。

ファッションは彼女そのものだった。

二人は立ち止まってキスをした。まるでそこには彼女しか居ないかの様に。

横顔も彼女そのものだった。鼻筋が少し窪んでいる所や、長すぎるまつ毛。それに小さい顔。

僕は見てないふりをして二人を追い越そうとした。でも、中々二人の所には追いつけなかった。目では見えてるのに体がついてこなかった。

彼女は再び彼と唇を重ねた。そっと微笑んだ時に細くなる目元。ついでに涙袋も強調される。笑窪とはまだ呼べない成長中の窪。街頭は彼女達だけを照らしていた。

彼女は彼の大きな影にうずくまっていた。僕の見たことない表情がそこにはあった。

僕は元来た道を返そうと思った。

大通りまではあと十五歩程だった。

七歩進んで僕は立ち止まった。そして振り返った。

一体何度目だろうか。あと何度、あと何回彼女は彼にせがむのだろうか。

穢れたアスファルトにはいつの間にか水色が加わっていた。

彼の影を消し去りたかった。そう願った。

どんなに声を張り上げても聞こえていなかった。何をしても無駄だった。

僕はもう一度彼女へ近づこうとした。

もう動けなかった。赤い糸が、凶器となって僕の全身を地面につなぎ止めた。水色が虚しい音を立てていた。

諦めてまた帰ろうとしたんだ。あと八歩だった。

ゆっくり、ゆっくり、進んだ。慎重に、踏み外さないように歩いた。そして七歩目で立ち止まった。

頭で考える前に、首が、目が、耳が、肌が、彼女を求めてバラバラに動き出した。

そこで感じ取った光景から、その場で膝をついてしまった。

水色が青色、群青色、果てには、ねずみ色になっていた。もうアスファルトと同じ色だった。誰かのねずみ色と僕のねずみ色。それぞれが重なって、道になっていた。

僕はあと一歩踏み出してこの路地に来れなくなるのが怖かった。

居心地は最悪なのに。彼女が勝手に飛び出して行ったのに。僕だって初めは止めなかった。これでいいと思っていた。

分からない。もうやめにしてくれ。関わらなかったらよかった。忘れないでくれ。離れないでくれ。まだ夢が見たい。


大通りから、知らない人が手招いてるのが見えた。

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