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#6 交流

翌朝。


私は哨戒機に乗り、王都に向かうことになった。

艦隊司令部より連絡があり、この王国との事前交渉を行うことになったためだ。

で、すでに一度、現地住人と接触している私が、この街に再び降り立ち、その任を担うことになったというわけだ。


といっても、昨日降りた場所は城壁の上。街とはほど遠い場所だ。この星の文化に触れるのは、実は今回が初めてとなる。


「哨戒機1号機より2130号艦!発進準備完了!発艦許可願います!」

『2130号艦より1号機!発艦許可了承!ハッチ開く!』


哨戒機用格納庫のハッチが開く。ロボットアームが1号機を掴み、開いたハッチの外に突き出す。

空中に飛び出す哨戒機、下にはレンガや石造りの建物が所狭しと立ち並ぶ。


「うわぁっ!なんですか、この街は!?実際に見ると、いかにもファンタジーって感じの街並みですよ!もしかしてあの街では、あちこちで魔導具とか売ってるんでしょうね!?」


今回「魔術」の専門家として、ローゼリンデ中尉についてきてもらうことにした。もっとも、彼女の知識がこの星の現実とマッチしているとは到底思えないが、私よりはマシだろうと思って連れてきた。が、すでに興奮状態だ。おい中尉よ、お前本当に、役に立つのか?


エンリケ殿から着陸場所として指定された、街の中央の広場を見る。と、その広場の端に大きな旗が立てられているのが見えた。獅子の顔の周りに、つる草のような紋様。ああ、おそらくあれが目印だろう。

その旗のそばに、この哨戒機1号機を着陸させる。着地すると、ある人物が歩み寄る。


「よ、ようこそ、サンタンデールへ!……って、なんだ。昨日の男じゃないの。」


ああ、魔術師のノエリアさんだ。昨日、私の前で稲妻の魔術を放った上級魔術師だ。


「アードルフだ。昨日に引き続き、あなた方との接触に立ち会わせていただくことになった。よろしく頼む。」

「は、はぁ……どうも。」


どうもノエリアさんは、私が苦手らしい。昨日、彼女と接した限りでは、感情優先な性格に感じる。対して私は理論、理屈優先。まさに水と油だ。

どちらかというと、今、哨戒機を降りてきたこの女性士官の方が話が合うだろう。


「副長、こちらの方は……」

「ああ、昨日話した、魔術師だ。」

「ええーっ!?ま、魔術師!?本当ですか!?」


大急ぎで降りてくるローゼリンデ中尉。そして、ノエリアさんの手をぎゅっと握る。


「あ、あの!あなた、魔術師さんなのですか!?」

「え、ええ……そうよ、私はこの王都に5人しかいない上級魔術師の1人で……」

「すごーい!てことは、この杖は魔導具なんですか!?」

「魔導具?ああ、魔術を媒介する道具ということ?そういう意味なら、確かに魔導具だけど……」

「じゃあ、これを持ったら、私にも魔術が使えるようになるんですか!?」

「いや、それは多分、無理だと思うわ……魔術は、魔力を持つものしか放てないの。それは、生まれ持った才能のようなもので決まるから……」

「そ、そうなんですか……残念……」


あのノエリアさんを押し切る勢いのローゼリンデ中尉だが、魔術が使えないと知って意気消沈してしまった。

だが中尉よ、冷静になれ。貴官の腰には今、拳銃と携帯バリアがある。それらの放つ力は、この星の住人からすれば「魔術」と言うべき力だ。そう考えるならば、すでに貴官は「魔導具」とやらを所持しているのと同じなのだが。


が、ローゼリンデ中尉は魔術が使えないと聞いて落ち込んでしまうかと思いきや、今度は魔術師であるノエリアさんに関心が移る。


「でもノエリアさん、すごいですね!生まれながらにして魔力をあやつれるなんて!そんな人に遠く宇宙を超えて巡り会えるなんて、何という幸運!」

「ま、まあ、そうよね。この王都3万人の中で、魔術が使える者は100人にも満たず、私はその中で最強の魔術を使える5人の中の1人なのよ!」

「うわあっ!なにそれ、カッコいい~!」

「そ、そうかしら!?いやあそれほどでも、あるかな!」


聞くところによると、ローゼリンデ中尉は大のアニメ好きらしい。特に魔法使いの出る話が大好きなようで、そういう系の衣装や道具をたくさん持っているのだという。

軍大学に進んだのも、銃やバリアといった魔法っぽいものを使えるからというのがその理由らしい。だが、魔法少女のコスプレ衣装や道具を調達する能力が、ちょうど後方支援を任とする主計科に向いているということで、主計科に配属されてしまった。


せっかく魔法少女っぽいものになれると思っていたら、単なる補給や保全という後方支援に回されてしまい、以来すっかりやる気をなくしていたようだ。だが、それが今、急に表舞台に出るきっかけとなった。この魔術が実在する星で、だ。まさに、水を得た魚だ。


はるかに進んだ文明を持っている人物から、大いに持ち上げられるノエリアさん。はたから見ても、すっかりのぼせ上がっているのがよくわかる。


で、そんなノエリアさんに連れられて、ある建物の中に入る。そこには、エンリケ殿とカルメラさんがいた。私は彼らに、敬礼する。


「アードルフだ。突然の訪問で、申し訳ない。」

「ああ、構わない。貴殿がそろそろ来ると思っていた。で、今日の用件はなんだ?」

「艦隊司令部より、この国の政府機関との事前交渉に入るよう指令を受けた。交渉官との接触の前に、交渉に関して予め確認すべきことや決めるべきことを話し合いたい。そのために、やってきた。」

「艦隊……司令?なんだ、それは?」

「我が駆逐艦の属する艦隊の中枢機関だ。遠征艦隊司令部の直下には1万隻の駆逐艦、30隻の戦艦がおり、それらを統括する機関として……」

「おい!ちょっと待て!駆逐艦が1万隻だと!?あの空に浮かんでいるあれが、1万もいるというのか!?」

「通常、一個艦隊は1万隻からなる。この宇宙では常識だ。」

「はぁ!?ということはなんだ、あんなものがこの空の向こうに、うじゃうじゃといるのか?」

「うじゃうじゃという表現には当たらない。宇宙は広い。1万隻ごときでは、この星域内のほんの片隅にしか展開できない。しかも、今はまだ先発隊の3000隻のみで、1万隻が揃うのは来週の予定だ。」


まあ、あんなものが1万隻と聞けば、驚くのも無理はない。が、いずれ彼らにとってもこの程度の船は大した存在ではなくなるだろう。宇宙の広さを知れば、1万隻ですらも足りないと感じることになる。


◇◇◇◇◇


1万!?あんな馬鹿でかいものが、1万もいるというのか!?

やはりこいつらは、普通じゃない。たった1隻の中にいる、たった1体の人型重機とかいう化け物が、ディアブロスという最大級の魔獣を3体も相手にして、いとも簡単に倒してしまった。

そんな力を持つ船が、1万もいるという。その事実を知って、この王都で驚かない者はいないだろう。どうしてこいつは、そんな途方も無い話を淡々と語れるんだ?


しかも、今日の用事は事前交渉だといっていた。こいつら、あれだけの力を持ちながら、なんでそんな回りくどいことをするんだ?武力を背景にした折衝をすれば、こんなちっぽけな王国などあっという間に服従させられるだろうに。

どう考えても、無欲だ。無欲すぎる。それがかえって気味が悪い。私は尋ねる。


「貴殿のことを、ちょっと尋ねたい。」

「なんだ?」

「昨日から気になるのだが、何ゆえ貴殿はそれほどまでに無欲なのだ?」

「無欲?」

「そうだ。あれだけの力を我々に見せつけながら、それでいて我々になんの要求もしない。おかしくはないか?」

「力を見せつけたように感じたのであれば、謝罪する。申し訳ない。」

「おい!お前、そんなこと、本心から言っているのか!?

「……エンリケ殿よ、何が言いたい?」


私の一言で、にわかに険悪になってしまった。こうなったら仕方がない。私は続ける。


「……言いにくいことだが、あまり無欲だと、かえって信用できない。何か企んでいるのではないかと疑ってしまう。無欲と見せかけて相手を信用させ、あるとき急に掌を返すのではないかと感じてしまう。まだ夜の相手を要求するような男の方が、腹の内がわかりやすくて信用できるというものだ。」


それを聞いたアードルフ殿は、しばらく考え込む。そして、応えた。


「そうか。確かに、そういう風にも取れるな。それは私が浅はかだったな。」


再び謝るアードルフ殿。そして彼は続ける。


「だが、私は決して無欲ではない。人である以上、欲求というものはある。だが、その欲求に基づいた行動をとった結果、今のように振舞っているだけだ。」

「なんだそれは?私から見れば無欲な行動が、貴殿の欲求にかなっているというのか?貴殿は、聖人にでもなるつもりか!?」

「いや、そんな崇高なものになるつもりはない。そうだな……まず我々軍人の使命は、地上にいる人々を救うことにある。だから昨日、我々はこの王都に襲いかかろうとした魔獣を撃退した。」

「……確かに、貴殿はその通りの行動をしている。だがそのことと貴殿の欲求とやらは、どう繋がるのか!?」

「我々は、承認欲求に基づいて動いている。」

「承認欲求?なんだそれは?」

「軍の使命を果たせば、それが認められて、自身の階級や給与に反映される。そして同時に、組織内における権限も得られる。それを得たいと感じ行動することが、承認欲求だ。私も、そしてここにいるローゼリンデ中尉も、軍組織の中で自らの役割を果たし、地位を高めることで、その欲求を満たしている。だから我々は、決して無欲というわけではない。」


うーん、わからん。いや、言いたいことはわかるのだが、納得できない。地位が上がれば、むしろ欲求というものは増えるものだ。貴族などはその地位を背景に、気に入った平民の娘を強引に屋敷に連れ込んだりするほどだ。

ましてやこの男は昨日、あの空に浮かぶ船の中で2番目の地位の男だと言っていた。ということはだ、この王国における貴族級の権利を有しているようなものだ。金や女を要求してもおかしくない人物。そんな男にしては、いささか欲求が小さすぎる。


「……おい、貴殿には、個人としての欲求はないのか?」

「個人としての欲求?なんだそれは?」

「自身のため、金、女、衣装、美術品などの収集、そういうものをしたいという欲求はないのかと聞いている!組織だの位だのがどうとかではなく、人ならばそういう本能的な欲求の一つや二つ、あって当然であろう!」

「ああ、一つある。」

「なんだ、それは?」

「この国の、戦いの歴史を知りたい。」

「……は?戦いの歴史?おい!そんなものを知って、どうするんだ!?」

「戦争の記録というものは、古今東西1万光年、どこであっても教訓となるべきものがある。私は様々な星の戦史を学んできた。が、この星には魔術という、他の星にはない極めて珍しい要素がある。人同士であれ、魔獣に対してであれ、ここでも多くの戦いの歴史があり、そこから学ぶべきことは多いと考えている。だから私は、この王国の戦いの歴史が知りたい。」

「……いや、確かにそういうのも大事かも知れないが……例えばだ、夜伽の相手が欲しいとか、貴殿にはそういう欲求はないのか!?」

「こだわるな、夜の相手とやらに。そんなことが、それほど重要か?そういうことは、出会うべく人に巡り会えた時に考える。まだそのような人物に巡り会えていない以上、今の私は、軍の中での自らの地位を高めること、それのみを目指して生きている。」


つくづく変なやつだと思っていたが、やはりどこか変だ。確かに今の話は、これまでのこの男の行動を説明できるが、にしてもあまりに欲がなさすぎる。まるで王教の司祭様のようなやつだ。


まあ、このアードルフ殿という男がどういう人物かが見えてきた。だから私は、それ以上追求しなかった。アードルフ殿の訪問の目的をかなえるため、私は外交担当の男爵と彼を引き合わせた。

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