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#5 撃退

エンリケ殿の話によれば、それはディアブロスという魔獣だという。

魔獣というのは、魔術を使う獣ということらしい。

確かに、空力的にとても飛べる姿ではない。頭には大きな角、口には大きな牙、コウモリのような羽、そして、龍のような胴体。

そんなものが空中を飛んでいる。常識的にはあり得ない。確かにこれは、エンリケ殿のいう通り、魔力とやらで飛んでいるのだろう。

そしてこの哨戒機よりふた回りほど大きな飛翔物体が、3体も向かっているという。


「3体だと!?本当か、それは!?」

「間違いない。我が艦の対地レーダーにて捕捉した。速力40、こちらに向かって飛んでいる。到達予定時間は10分後。もうすぐ到達する。」

「なんてことだ……我々にはもう、魔力は残っていない!あれがここに到達すれば、大変なことになる……」


どうやら彼らにとって、あの魔獣というやつは討伐すべき対象のようだ。そういえば、さっきのホリゾンブルー……なんとかというあの魔術は、魔獣撃退のために放たれたと言っていたな。

ということは、あれは一種の「災害」ということになる。災害であれば、我々軍人はそれに対処し、人々を守る義務がある。


「エンリケ殿よ、一つ確認したい。あの魔獣というやつは、人々に災いをもたらす存在なのか?」

「無論だ。1体でもここに到達すれば、あの巨体で街を破壊し尽くすまで暴れまわる。それが3体も現れたのだ。当然、この王都は確実に廃墟と化すだろう!」

「そうか、分かった。しばらく待っていて欲しい。」


私はそう言い残し、人型重機の方に向かって歩く。

ハッチが開く。中にいるヨーゼフ大尉が、私に尋ねる。


「……随分と長い話し合いでしたね。途中、雷のようなものまで飛ばしてましたが、結局、どうなったんです?」

「ああ、話し合いは概ね上手くいった。少なくとも、ここに連盟軍がいないことは分かった。それよりもだ、未確認の飛行物体が、こちらに向けて飛行中とのことだ。」

「なんです、そりゃあ?連盟軍の哨戒機ですか?」

「いや、ディアブロスという、この星にいる魔獣だそうだ。」

「魔獣?なんですか、それは?」

「この人型重機のカメラでも捉えられるだろう。見ればわかる。」


ヨーゼフ大尉は、人型重機のモニターをいじり始める。駆逐艦から送られてきた座標値めがけてカメラを向けると、奇妙な3体の化け物が映った。


「な、なんですか、これは!?」

「はっきりとは言えないが、どうやらこの星には『魔力』と呼ばれるものが存在し、その魔力を利用できる人々、そして魔力を操る大型の獣がこの星にはいるようだ。」

「なんですと!?では、このおよそ空を飛びそうにないこの化け物も……」

「そうだ。魔力を使って、飛んでいるそうだ。彼らはそれを、魔獣と呼ぶ。」

「魔獣……ですか。」


いや、今は相手が魔獣だろうがなんだろうが、関係ない。現地の住人によれば、あれは災いをもたらす災害だ。いわば、竜巻のようなもの。ここに近づけるわけにはいかない。私は後席にある無線機を取り出し、駆逐艦を呼び出す。


「重機1番機より駆逐艦2130号艦!アードルフ副長より、災害救援要請!」

『2130号艦より1番機!災害救援要請とは、あの3つの飛翔体に対するものですか?』

「そうだ、現地住人より、あれは災害だと申告があった。あれが到達すれば、この城塞都市は壊滅するほどの威力を持つらしい。それで、あの3体の飛翔物体に対する、攻撃許可をいただきたい!」

『2130号艦より1番機!副長殿、しばらく待機願います!』


私が無線で話をしていると、エンリケ殿がやってきた。


「すまない、貴殿はさっきから、誰かと話をしているのか?まるで独り言を言っているようにも見えるのだが……」


ああ、そうか。この星には無線機というものがないのか。そういえば、狼煙を使って伝えているくらいだったな。


「いや、これは無線機というものだ。上空にいる駆逐艦に、あの3体の魔獣の攻撃許可をもらっているところだ。」

「無線機……?」


私の言っていることが腑に落ちないようだ。が、その直後に無線が入る。


『2130号艦より1番機!艦長より攻撃許可、了承!直ちにあの3体の飛翔体を迎撃せよ!』

「1番機より2130号艦!了解、直ちに迎撃体制に入る!」


それを聞いていたエンリケ殿は唖然とした顔をしている。それはそうだろうな。いないはずの人の声が聞こえるのだ。彼らにとっては不思議な光景だろう。


「ヨーゼフ大尉、私は外から攻撃の合図を送る。現地民による撃墜確認を行うため、ある程度ひきつけてから迎撃する。」

「了解!待機します!」


私は人型重機を降りる。私が離れると、重機は起動し、立ち上がる。


「ひえぇぇっ!あの化け物、動いたよ!」


ノエリアさん……だったか、さっき私の前で魔術を放った魔術師だ。この中では一番、元気があるな。が、なぜか私にしがみついてくる。いや、ノエリアさんよ、いいのか?たった今、私はその「化け物」に乗っていたのだが。

私は手に持ったスマホの画面を見る。現在位置と、その3体の魔獣の方角が映っている。私はその画面を頼りに、手に持った双眼鏡で魔獣の方を見る。


見えた。濃い茶色の身体、やや黒ずんだ白い角と牙、そして、真っ黒なコウモリのような羽をした、大型の獣だ。


「あっちの方角、ちょうど岩山がある方向に、ディアブロスという魔獣が見えた。見てみるか?」


私はエンリケ殿に双眼鏡を渡す。


「これは……?」

「遠くを見る道具だ。」


恐る恐る覗き込むエンリケ殿。だが、私の差し示す方に魔獣の姿を確認したようだ。


「本当だ、見えた!間違いない、あれはディアプロスだ!」

「えっ!?遠くの魔獣が見えるの!?私にも見せて!」


ノエリアさんが双眼鏡を受け取る。それを覗いて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、喜んでいる。


「うわぁ!これ、遠くがよく見えるよ!ほら、砦がまるで目の前にあるみたい!」


……どこを見ているんだ。そっちは違うだろう。


「あれ?砦から狼煙が上がったよ!」


双眼鏡を手に持ったノエリアさんが、砦の方を指差す。確かに肉眼でも、狼煙が見える。


「黒3本、間違いないな、ディアブロスだ。」


砦の方でも視認したらしい。だが、聞けばあの狼煙、魔獣の種類を知らせることはできるものの、数までは伝達できないようだ。何体もの魔獣が飛んでくる事態はほとんど起こることがないため、想定されていないらしい。

というか、彼らにとって複数の空飛ぶ大型魔獣の襲来は、対処できない事態なようだ。知らされたところで、意味はない。


「よし!ヨーゼフ大尉!攻撃準備!」

『了解!攻撃準備!目標、先頭の飛翔体!』


スマホの無線通信で、人型重機に指示を出す。1番機は向きを変え、右腕を魔獣のいる方に向ける。

この重機には、左腕に削岩機、右腕にエネルギー砲が取り付けられている。仮にも軍用なので、通常の人型重機と異なり、戦闘可能な装備も取りつけられている。


「ターゲット1、攻撃用意!」

『ターゲット1、ロックオン!装填開始!』


キィーンという音が、響き渡る。


「ターゲット1へ、攻撃開始!撃てーっ!!」


私の合図とともに、人型重機の右腕に取り付けられたエネルギー砲から青白いビームが放たれる。

城壁の周囲に、発砲音がこだまする。発射時の爆風がこの辺りに吹き荒れる。放たれたビームはまっすぐあの岩山の方へと伸び、直後、空中で大爆発が起きる。


『弾着を確認!ターゲット1、消滅!続いて、ターゲット2!』

「1番機、待機せよ!一旦、こちらではない確認する!」


私はノエリアさんから双眼鏡を受け取り、魔獣の方を見る。

そこには、2体の魔獣が飛んでいる。戦闘の魔獣を撃ち落とされ、混乱しているようだ。


「1体を撃墜した。確認を頼む。」

「あ、ああ……」


エンリケ殿は私の双眼鏡を受け取る。私同様、2体のディアブロスを確認したようだ。


「確かに1匹、減っている。だが、あと2体いるな。」

「分かっている、続けて迎撃する。」

「なんだと!?あの首なしの化け物は、まだ魔術を放てるのか!?」

「あれは魔術ではない。あれは高エネルギー砲というビーム兵器だ。」


と言っても多分、通じないだろうな。私は2体目の迎撃を指示する。


「1番機、ターゲット2への攻撃開始!撃てーっ!!」


再び青白いビームが放たれる。発射音がこだまする。そしてまた、空中で爆発が起きる。距離は遠いため、ここまで爆風は届かない。だが砦のあたりは、その煽りを受けているはずだ。3本の黒い狼煙が、爆風で揺れている。


「最後の1体、攻撃開始!」


続けざまに攻撃を加える人型重機。青白い筋がまっすぐに、あの得体の知れない魔獣に向かって放出される。


『弾着!ターゲット3、消滅!』

「こちらでも確認した。1番機、攻撃態勢、解除!」

『了解!1番機、攻撃態勢、解除!』


この一連の流れを見ていた魔術師達は皆、唖然とした顔で人型重機を見上げている。


「な……なんだ、今のは……本当にあれは、魔術ではないのか?」

「すごい……空淡蒼爆炎(ホリゾンブルーエクスプロージョン)を3発続けて放てるなんて……なんて化け物なの……?」


その中で一人だけ平然としている人物がいる。カルメラさん、だったか?


「まあ、なんと素晴らしい力!おかげで、この王都は守られました!ありがとうございます!」


ところが、これを見ていたエンリケ殿は、私に食ってかかる。


「おい!やはりこれは魔術ではないか!しかも3発も撃てるとは、あれは中に乗っている者の魔力なのか!?それとも、この化け物に宿る力か!?」

「いや、これは高エネルギー砲と言って、高いエネルギーを封じ込めた粒子を筒型の加速器に送り込み活性化させ、臨界に達したところで……」


一応、説明を試みるが、おそらくは理解しないだろうな。少なくともこれが、人の力ではなく、物理的に封じ込められた力を解放して放たれる兵器であることを伝えるにとどめた。


◇◇◇◇◇


魔術ではないだと?あれがか?とても信じられない。

あれはどう見ても、空淡蒼爆炎(ホリゾンブルーエクスプロージョン)ではないか。

我々が5人がかりでようやく2発撃てるこの魔術を、あの得体の知れない化け物は単騎で、軽々と3発も放ちやがった。

しかも、こんな化け物がまだいくつか、あの空飛ぶ船の中にいるという……


「アードルフ殿、尋ねたいことがある。」

「なんだ?」

「貴殿らは同盟と交易の交渉のために来たと言っていた。あれは、本当か?」

「本当ですよ。」

「だが、これほどの魔術を軽々と放てるものを持ちながら、同盟交渉などとても信じられない。我々がいうのもなんだが、その武力を持って我らの王都を蹂躙することもかなうのではないか?」

「いや、そんなことはしない。そんなことをすれば、我々は大変なものを失う。」

「失う?何をだ。」

「この星の住人との信頼だ。」

「確かに、そんなことをすれば我々は貴殿らを信用しないだろう。だが、征服とはそういうものではないのか?民を従わせることに、信頼などというものは不必要だろう。」

「うーん、そうだな……なんと言えばいいのか……」


しばらく考え込むアードルフ殿。


「……例えばの話だが、2つの大きな国があったとする。その周辺に小国があって、一方の強大な国がある小国を武力制圧したとする。そういう時は、どうなると思う?」

「そうだな……その時は、残った小国は寄ってたかって、もう一つの国に救援を求めるだろうな。」

「そうだ。我々がこの星で武力を行使して住人を従わせることをすれば、そういう事態に陥る。」

「いや、待て!どういうことだ!?」

「我々の星は、宇宙統一連合、通称『連合』と呼ばれる集団に属している。一方で、銀河解放連盟、通称『連盟』と呼ばれる集団もいる。この両者は長い間、戦争状態にある。」

「……つまり、貴殿らが我々に武力での服従をすれば、我々がその『連盟』とやらに走りかねないと。」

「我々の狙いは、この星の人間に連合に加わってもらい、共に連盟との戦闘に加わってもらうことだ。そのための同盟交渉であり、交易関係の樹立だ。」

「そ、そうなのか?我々には、政治的なことはよく分からないが……」


あれだけの力を見せつけながら、なおも我々に対しその力を誇ろうとしない。それどころかこの男、我々と対等な関係を結びたいと言い出した。

しかし、本当なのか?本当に手放しに、これほどの力を持つ連中を信じて良いものなのか?

だが、このアードルフという男は、不思議なことに、まったく力をひけらかさない。

あの化け物を使い、ディアブロス3体を倒した。我々ならば間違いなく、その手柄を王都中に触れ回るだろう。だが、この男はさっきからまったく自慢げに語ることはしない。


少なくとも、我々をあの力で蹂躙する意図があるならば、見せつけた力をもっと有効に利用しようと思うはずだ。王都中にふれまわれば、皆はこの重機という化け物と、空に浮かぶあの船に恐れをなす。だが、もはやディアブロスの件についてはすでに終わったことになっている。


不思議だ。彼らには、力以上の何かがあるというのか?


「あ、あのさ。もうさすがに魔獣は、こない……よね?」


ノエリアが私に尋ねる。


「いや、分からない。なにやら急に魔獣どもの動きが活発になった気がする。同じ日に2度も襲われるなど、未だかつてなかったことだ。」

「ええ~っ!?ど、どうするのよ!あんなのがまた来たら!エンリケもカルメラも、明日まで魔力戻らないんでしょう!?」

「ああ、そうだな。一晩はかかるな……どうしたものか……」


すると、その話を聞いたアードルフ殿が、我々にこんなことを言い出す。


「我々が監視しますよ。」


それを聞いた私は応える。


「なんだと!?監視する?」

「どのみち、我々はこの星の大気圏中にとどまり、この星の調査をする予定だった。ならば、この王都にとどまり、周辺を監視し魔獣襲撃に備えることくらい、大したことではない。」


なんと、彼らがこの王都を魔獣から守ってくれると言い出した。


「それはありがたい話だが……何か、見返りがあるのではないか?」


私は、アードルフ殿に尋ねる。


「ある。」


すると、アードルフ殿は短く応える。

まさか、何かとてつもない要求をするのではないか?あれだけの魔獣をあっさりと倒した連中だ。金、女、食べ物、いや、この王都の支配権すら要求しかねない。


「な、なにを要求するというのか?」

「まずは、我々が脅威ではないと、この都市中に広めて頂きたい。また、近々この都市に我々の交渉団が訪れるから、その受け入れをしていただきたい。これが、条件だ。」


……なんだと?それが要求?要求ですらないぞ?てっきり、大金と夜の相手でもよこせと言ってくるものかと思っていたが、その程度とは……かえって拍子抜けしてしまう。


「おい、私がいうのも変な話だが……お前らは金や女は、要求しないのか!?」

「我々は軍人だ。そんなものは要求しない。」

「いや、普通はするだろう!あれだけの魔獣を倒したんだぞ!?しかも、3体もだ!」

「あれは『災害』のようなものだ。災害救援は軍の役目。我々はただ、役目を果たしただけに過ぎない。」


無欲なやつだな……いや、無欲すぎる。どこか気味が悪い。何を考え、何を楽しみに生きているんだ、この男は?こういう無欲な者ほど扱いづらく、また危険な人物はいない。

経験上、この手の男は突然、牙をむく。この先、何を言い出すのやら、知れたものではない。

とその時、アードルフ殿が私に話す。


「これより私は、艦に戻る。その前に、取り決めたいことがある。」

「なんだ、取り決めとは?」


突然、取り決めなどと言い出したぞ?なんだ、もう牙をむき出し始めたのか!?


「今後も連絡用にこの人型重機か、哨戒機という乗り物を使うつもりだ。で、この王都の中での降りる場所を決めておきたい。むやみに適当な場所に降りると、住人に混乱を招きかねないからな。」

「あ、ああ……そういうことか。それならば、この王都の中央に広場がある。そこに目印を立てておこう。それでいいか。」

「了解した。では、また。」


そういうとアードルフ殿は直立し、私の方を向いて右手を額に斜めに当てる。おそらく彼らの礼儀作法のようだ。その後、あの人型重機という名の首なしの化け物に乗り込み、王都の空にいる駆逐艦という船に帰っていった……


その日の夜。


私は自室の窓から、ぼんやりとあの駆逐艦という船を眺めていた。


「あら、まだ起きてたのね。」


そこに、カルメラが入ってきた。


「カルメラか。彼らの話を街中に広める件は、どうなった?」

「もう随分と広まってるわよ。なにせディアブロスを3体も倒して、それでいて何の見返りを求めない英雄だと。」

「……それはまるで魔術団の我々が、英雄ではないような言い方だな。」

「いえ、そんなことは……」

「我らとて、法外な見返りを求めているわけではない。しかもこれまで、王都を守ってきたのは我らだ。それが突然現れて、いとも簡単にあの大型魔獣を倒した連中の方を持ち上げるとは……」

「そんなこと、気にしなくてもいいわよ。なんにせよ、彼らがいなかったらこの王都は今ごろ、ディアブロスの巣になっていたわ。それを思えば、何事もなく済んでよかったと思わなきゃ。」

「それはそうだが……」


カルメラのやつ、妙に割り切りがいい。それゆえにいつも、熱くなりやすい私の抑え役になってくれた。


「ねえ、エンリケ。」

「なんだ?」

「今夜は久しぶりに、一緒に寝ない?」

「はあ!?いや、今はまだ魔獣との戦いの真っ最中だぞ!欲に溺れている場合では……」

「何言ってるのよ。あなた、言葉と違って、身体は正直ね。」


私に抱きつくカルメラ。そのまま私は、ベッドの上に押し倒される。


「おい!私とお前の間に今、子が授かったらどうするつもりだ!?そうなればお前は、魔術師として働けなくなるぞ!?まだ、後継者もいないというのに……」

「その時は、空にいる彼らがなんとかしてくれるわよ。もういい加減、私も戦いのことばかりで飽きちゃった。」


服を脱ぎ始めるカルメラ。ああ、魔獣討伐の任を担ってから、なるべく私はカルメラと過ごさないようにしていたのに……

理性が吹っ飛んだ私は、そのままカルメラを抱き寄せる。

それにしても、あのアードルフという男は、今ごろ何をしているのだろうか?私同様、あの船の中で、女でも抱いているのだろうか?


◇◇◇◇◇


風呂から上がり、私は自室に向かう。その途中、主計科のローゼリンデ中尉と会う。


「副長、少しお話があります。」

「なんだ、中尉。」

「先ほど聞いたのですが……副長が地上にて、実際に魔術をご覧になったというのは本当ですか!?」

「ああ、本当だ。」

「ど、どのようなものだったのですか!?やはり、炎や水を操り、あらゆるものを破壊するほどの力なのでしょうか!?」


なんだ、ローゼリンデ中尉、急に興奮し始めたぞ?いつもはもう少し暗いイメージの女性士官だったが、どうしたというのか?


「いや、私が見たのは雷の魔術で、壊れたのは小さな木製の小屋だけだ。だが、我々がビームと認識したあれも、どうやら彼らが放った魔術らしい。」

「そ、そうなのですか!?具体的には、どうやって魔術を放つんですか!?」

「そうだな、魔術師が雷の精霊とやらを呼び出すような呪文をぶつぶつと唱えて、杖の先から雷のような光を放っていた。確か……アムヴァーサンダーなんとかという名前だったな。」

「なんですかそれ!カッコいいじゃないですか!私も是非、見たいです、その魔術!」

「彼らにとって魔術は、遊びではないんだ。この街を魔獣という得体の知れない存在から守るために、彼らはその力を使う。むやみに魔術の使用を求めてはダメだ。」

「そ、そうですか……」


意気消沈して戻るローゼリンデ中尉。あの素ぶりからすると、どうやら中尉は魔術に興味があるようだ。しかし、彼らにとっては魔術は人々を守るための力。むやみに見たいなどと言うべきものではない。


私は、自室に戻る。スマホを取り出し、電子書籍を読む。

私がいつも読むのは、戦記だ。古代から現代戦に至るまで、様々な戦いの歴史を読んできた。その手の動画も、たくさん持っている。


ベッドで私は、この星の文化に近い時代の戦いについての本を読んでみた。だが、そこにあるのは剣や槍、そして弓といった非魔術の戦いだった。だが、それでも知略を活かして自身よりも大軍を破った戦いもある。


天の時、地の利、人の和。軍勢の大小に関わらず、この3つの要素で勝敗は決すると言われる。特に「人」は最も重要な要素だ。


だが、この星には魔術というものを持った人々がいる。当然、我々とは違った戦術、戦略を構築し、戦ってきたことだろう。その戦いの歴史を知りたい。一体彼らは、どんな戦い方をしてきたのだろうか?とても興味深い。


そんなことに想いを馳せながら、私はいつのまにか寝てしまった。

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