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#4 魔獣襲来

なんなのだ、こいつらは。


「魔術」などと言い出したぞ?何を非科学的なことを言っているんだ?


まさかあれが、人の力で放たれたものだというのか?さすがにそんな話、信じられるわけがない。


私は、彼らが連盟軍の兵士ではないかと疑い、腰につけた携帯バリアシステムに手をかけたまま話をしている。が、ここにいるやつらは自身を魔術師と呼び、魔術などという荒唐無稽なことを言い出す。まさか、連盟の新手の撹乱工作か?


にしてもだ。周りを見渡しても、どこにも砲撃装置は見当たらない。いるのは、奇妙な姿の4人だけ。内2人は、城壁の上でへたばっている。そういえばあと1人いたはずだが、どこかに逃げてしまったのか?


「申し訳ないが、あなた方の言う魔術というものが、どんなものかは分からないのだが……」

「何をいうか!貴殿も、空を飛ぶ魔術を使ってここに来たではないか!」

「いや、これは魔術ではなくて、重力子エンジンによる反重力飛行であり……」


どうも話が噛み合わないな。彼らは私の説明を聞いても、あまり理解しているそぶりはない。こいつら、本当に連盟の奴らか?

連盟軍の人物にしては、姿格好が妙だ。持っているのは、先に石の取り付けられた杖のようなものだけ。どう見ても、木製の杖。たいした武器には見えない。

腰には、短剣のようなものはあるが、せいぜい武器といえるのはそれくらいだ。


連盟軍の奴らが化けているにしては、あまりにも不自然だ。

もし私が連盟の連中だったら、むしろ普通の甲冑を身につけるだろう。現に、そういう姿の兵士の方が多い。


手の込んだ撹乱工作をしているわりには、その先が想像できない。こんなことをしたところで、倒せるのはせいぜい私だけだ。そのためだけに、わざわざ魔術師だの魔術だのという設定を作り上げるのも変だ。むしろ、余計に怪しまれる。


彼らは、この星の住人なのか?

その可能性の方が、大きい気がする。


と考えれば、ここは文化レベル2の星。彼らがこの星の住人だとすれば、普通に考えて重力子エンジンだの、高エネルギー砲だのと説いたところで、通じるわけがない。

だが、一方でビーム兵器の使用が確認されている。なんとしても、その謎だけは突き止めねば……


「……つまりだ。貴殿は、なんらかの仕掛けを使ってあの蒼い炎を放ったと、そう言いたいのだな?」


と、エンリケという男が、私に尋ねてきた。


「そうだ。」

「だが、それが我々の魔術だということは信じられない。そうも言いたいのだな?」

「そうだ。人間があれほどの力を出せるはずがない。物理的に考えて、おかしい。」

「そうか。分かった。」


エンリケという男はそういうと、すぐ横にある簡素な小屋に向かって叫ぶ。


「ノエリア!」


エンリケが叫ぶと、その小屋からひょいっと一人の娘が顔を出す。


「な、なによ。」

「出番だ。魔力が残っているのは、この中ではお前だけだからな。」

「ええっ!?な、何をするの?」

「この男に、魔術を見せてやれ。」

「い、いやよ!だってこの男、あの首なしの化け物に乗ってた魔族の男でしょう!?なんで私が……」

「いいからやれ!我ら王国の上級魔術師の力を疑うとは、言語道断だ!命に代えても、我々の名誉を守らねばならない!我らの力を、このアードルフという男に見せつけてやるんだ!」

「ええーっ!?」


……なんだと?魔術を見せつける?この娘が?なんのことだ?まさか手品でもやるわけではあるまいな。

とても嫌そうな顔で、そのノエリアという娘が小屋から恐る恐る出てくる。


「だ、だけどエンリケ、私は魔術を、まともに当てられないわよ。知ってるでしょう?」

「当てる必要はない。ただ城壁の外に向かって、お前の魔術を放って見せればそれでいい。それくらいなら構わないだろう。」

「わ、分かったわ……」


そういうとノエリアというこの娘は、持っていた杖を城壁の外に向ける。


「じゃ、じゃあ……いくわよ。」


そして杖を握る娘は、なにやらぶつぶつと唱え始めた。


「……我が雷神の精霊よ……我が前に、空を切り裂く(いかずち)を顕現し、邪悪なる者を灰塵と化せ!出でよ、橙黄雷電槍(アムヴァーサンダーランス)!」


……故郷の近所で遊んでいる子供がよく叫んでいる、必殺技のようなものを唱え始めたぞ。いい歳してこんな恥ずかしいセリフを叫ぶとか、大丈夫か、この娘は?

と、半ば冷めた目で見ていた私だが、すぐに異変に気付く。

杖の先端に、琥珀色の光の輪が生じる。それは徐々に集束し、同時に明るさを増していき、ついに杖の先端で眩い黄色の球に変わる。

と、その直後に、猛烈な音を立てて放たれた。


「きゃぁぁぁっ!」


放った本人が叫ぶ。その光は前ではなく、すぐ横にあったあの簡素な小屋に向かって放たれる。たちまちにその小屋は粉々吹き飛んでしまう。その爆風が、私と他の5人に吹きつける。

至近距離で炸裂したその爆発の風を受けて、私はその場に倒れる。


「おい!ノエリア!どこに向かって撃ってる!城壁の外だぞ、外!」

「うわぁぁっ!ごめんなさい!だから狙い通りに当てられないって言ったのに!」


な、なんだ、今のは?どう見てもあれは、木製の簡素な杖だ。先端には水晶のようなものが取りつけられてはいるものの、特に発射装置が仕込まれているとは思えない。


まさか、本当に魔術というものが存在するのか?


「え、エンリケ殿!あなたにひとつ、尋ねたい!この世界では、この魔術というものはごく普通に存在するものなのか!?」


すると、エンリケ殿は応える。


「普通とはいわないが、選ばれし者に宿る力だ。そして、その中で特に強い魔力を持つ者が、我ら上級魔術師だ。」

「で、では、さっきのあの青い光の筋は!?」

「我々5人の魔力を合わせて放った魔術だ。最高位の攻撃魔術、空淡蒼爆炎(ホリゾンブルーエクスプロージョン)だ。」


高校生あたりが必死に考えた最強の魔術のような名前だが、彼らは大真面目で語る。名前はともかく、これは人の身体から発せられたエネルギー波だと、彼らは言っている。

信じられないが、先ほどのこのノエリアという娘から放たれた雷のような魔術の威力を、私は目の当たりにした。ということはさっきのビームも、本当に彼らが放ったものだというのだろうか?


『少佐!少佐!何が起きたんですか!?』


スマホの無線から、待機している重機のパイロット、ヨーゼフ大尉が叫ぶ声が聞こえる。私は応える。


「……大丈夫だ、そのまま待機!」

『りょ、了解!』


唯一、ビーム砲を隠している疑いのあるあの簡素な小屋も、粉々に吹き飛んでしまった。特に、機械らしき残骸もない。ということは、ここには砲撃装置など、存在しない。


やはりあのビームは本当に、彼らの放った「魔術」だったというのか?


非科学的だが、状況判断からすると、これが最も合理的な解釈だ。


「なるほど……分かった。てっきりここに連盟軍が潜んでおり、我々を狙い撃ったのではないかと疑っていたが、どうやら違うらしい。」


私は、エンリケ殿に述べた。


「いや、分かればいい。」


そういうと、エンリケ殿は立ち上がる。


「では、今度は我々が尋ねる番だ。貴殿らは一体、何者だ?どこから来た?」


見るからに派手な刺繍の施された服とマントを身につけたこの男は、私に尋ねてきた。


「我々は、宇宙から来た。ついさっき、この星に降り立ったばかりだ。」

「宇宙……?星……?星とは、あの夜空に輝く、あれか?」


凄まじい魔術を持ってはいるが、やはりこの世界の構造を知らないようだ。私は持っていたタブレットを取り出し、彼らにこの世界の構造、そして我々のことを話し始めた。


◇◇◇◇◇


……アードルフ殿はさっき、魔術を信じられないと言った。

だが、私はアードルフ殿の話す話の方が、とても信じられない。

それを、手に持った色彩豊かな絵を次々に映し出す不思議な魔術の板を使って、我々に示してくれる。


この地上は丸い。大きな球体の上に、我々は立っている。

そしてその球は「星」と呼ばれ、漆黒の闇の中に浮かんでいるのだという。

そして、太陽の周りを回るこの「地球(アース)」と呼ぶ人の住む星は、全部で800以上もある。と、アードルフ殿は話す。

そして今、王都の空に浮かぶあの灰色の「船」に乗って、彼らは我々の住む「星」に来たのだと言うのだ。

ここにいる5人の魔術師、そして様子を見にやってきた数人の兵士達は、アードルフ殿の話に聞き入る。特にその話にのめり込んだのが、バレンシアだった。


「あ、あの……それじゃあ私達のような魔術師が、その宇宙というところにはたくさんいるんです?」

「いや、魔術というものが存在する星はあまり聞いたことはない。少なからずあるとは聞いてるが、私自身、魔術というものの存在を信じていなかったので、調べたことすらない。」

「そ、そうですか……」


壁に向かって話すだけの魔術師が、珍しく人に尋ねている。そういえばバレンシアのやつ、不思議なもの、珍しいものが大好きだったな。彼女がここまで魔術を高められたのは、この好奇心ゆえだと聞く。だから、この荒唐無稽とも言える宇宙とやらの話に、すっかりのめり込んでしまったようだ。


「だが、何のために貴殿らはその遠い星からやってきたというのか?」

「我々の目的は、あなた方との同盟、および交易関係の樹立だ。」

「同盟に交易?何ゆえ、そんなことを……」

「それは、この宇宙には……」


アードルフ殿がなにか言いかけた時、彼の服の奥からピーピーと音がする。


「ちょっと失礼。」


服から小さな黒い板を取り出し、耳に当てる。そしてなにやらぶつぶつと話し出すアードルフ殿。


「アードルフだ。どうした?……うん……何!?本当か!」


なんだ?この男、まるで誰かと話しているようなそぶりで独り言を言っている。バレンシアの癖でもうつったのか?


「……ちょっと待て、こちらで確認する。映像を、私のスマホに転送してくれ。」


そして、黒い板を耳から離し、それを見るアードルフ殿。

何やら、驚いた様子でその板を見つめている。が、それを私に向ける。


「上空の駆逐艦より緊急連絡だ。こんな飛翔物が今、この城塞都市に向かっているらしい。これが何だか、分かるか?」


私は、その板を見て驚く。

なんだ、これは……どういうことだ、まさかこんなものが王都に向かっているのか?


ガルグイユに、灰色の空飛ぶ船に続き、さらに厄介な魔獣が現れた。


その板に映っていたのは、我々の知る最大の魔獣、ディアブロスの姿だった。

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