表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

#2 駆逐艦2130号艦

「なんでしょうか、あの狼煙は?」

「わからんな……だが、争い事の合図なのは間違いないだろう。古今東西一万光年、狼煙というものはほぼ、争い事を知らせる手段として使われることが多い。今回も、その可能性が高いだろう。もし地上での戦闘行為を確認した場合は、我々は防衛規範に基づき戦闘停止行動をとる。」

「はっ!承知しました!」


艦長の判断により、我が艦は地上に向けて降下している。今も見える3本の狼煙。赤茶色の煙が2本、黒煙が1本。

あの色は、何らかのメッセージを示しているようだ。それの意味するところは不明だが、艦長の言うとおり、戦闘を知らせるものであることはほぼ間違いないだろう。


私の名は、アードルフ・フォン ・シュタウヘンベルグ。地球(アース)097遠征艦隊の駆逐艦2130号艦の副長を務める。階級は少佐。歳は27。

つい先ほど、新たに発見された未知惑星の大気圏内に入ったところだ。

現在、高度1000メートル。地上から上がる狼煙を視認し、我々はその現場に急行していた。


狼煙は一箇所、つまり、あの砦の視界範囲である20キロ範囲内に、なんらかの軍勢がいると思われる。

そしてその狼煙の向こう側には、城壁に囲まれた都市が見える。その軍勢はおそらく、あれを狙っているのだろうと推測される。


ところで、この星は初期調査の結果、文化レベル2の星、つまり農耕文化の星だと分かっている。まだ工業革命は起きておらず、原始的な田畑、剣や槍、弓矢を持った古代の甲冑を身につけた兵士の姿が確認されている。地上の移動手段は徒歩と馬のみ。船も近海のみで、大海原に出られるほどの大型船はまだ存在しない。


ところで、狼煙が上がっているわりには地上に軍勢の姿が見えない。あの城塞都市を陥とすほどの大軍でも進撃しているのかと思ったが、いくら見回してもそんなものはまったく見当たらない。

おかしいな……まさかさっきの狼煙は、単なる通信手段なのか?だが、狼煙の上がっている場所には小さな砦がぽつんとあるだけ。それより向こうには狼煙が上がっている様子はない。ということは、他の都市への通信に使われているものではないことは間違いない。


ではあの狼煙は一体、何の知らせだ?


我々はさらに地上に向けて降下を続ける。高度400になったところで、異変が起きる。


「高エネルギー反応!城塞都市付近!」

「なんだと!?どういうことだ!」

「わかりません!高エネルギーさらに増大!エネルギー波、集束していきます!」


高エネルギー観測員が叫ぶ。窓の外を見ると、地上付近に青白い光が光るのが見えた。


「なんだ、あれは!?」


どう見ても、あれは高エネルギー砲の放つ光だ。やがてその光は徐々に輝度が増していき、突如、ビームが放たれる。


それは地上すれすれを通過し、そして大爆発を起こす。何かに着弾したようだ。


「こ、高エネルギー波の弾着を確認!何かに命中したようです!」

「なんだと!?ではあれはやはり……」

「間違いありません!スペクトル分析の結果、1万度以上の高熱源体!どう見てもあれは、高エネルギー砲から放たれたビームと推測されます!」

「威力は!?」

「哨戒機に搭載される中型のエネルギー砲並かと……」

「なんだと……?友軍機の発進情報は!?」

「この地域にいるのは、我が艦だけです!この星の大気圏内には、現在先発隊の10隻のみ!他の友軍艦がこの周辺にいないことは、データリンクで確認済みです!」

「まさか……連盟の奴らが、もうここを嗅ぎつけて、地上付近から我々に威嚇攻撃をかけてきたというのか!?」


この報告に、艦長は愕然としている。帽子を抱えて、目の前のモニターを眺めている。

この時私は、艦長とは違うことを考えていた。

もしかしたら、この星にはすでに連盟が駐留していて、我々は知らずに侵入してしまったのではないか?

いや、それならばなぜ、この星周辺の宙域に連盟艦隊が展開していないのか?我々の星、地球(アース)097はすでに先発隊3000隻を派遣、この宙域に展開済みだ。もし連盟が先に見つけたのならば、連盟艦隊と遭遇するはずだ。

私は、信号長に向かって叫ぶ。


「他の艦より緊急発進した味方の哨戒機かもしれない。識別信号の確認、急げ!」

「地上付近で識別信号、確認出来ず!味方機ではない模様!」

「なんだと……と言うことはやはり、連盟か!?」

「それが……連盟識別コードも確認されません。あるいは、この星の兵器ということはないですか?」

「いや、上空での調査では、剣と弓、そして槍を構える兵士の姿ばかりだと聞いている。攻城戦兵器の存在もまだ確認されていないこの星で、ビーム兵器だけがあるというのはおかしいだろう。常識的に考えて、ここは連盟軍の存在を疑うべきだ。」


と私は言ったものの、レーダーにもセンサー類にもかからない。もしも連盟軍の哨戒機がいるのならば、周辺に連盟側の駆逐艦もいるはずだ。

だが、ビーム発射地点もその周囲にも、重力子の反応がない。連盟軍が潜んでいる痕跡がまったく見当たらない。ビームまで放っておきながらこの静けさ、いくらなんでも不可解だ。

まさか連盟の奴ら、すでにあの城塞都市に入り込んでいるのか?そういえばあのビームの狙いは明らかに地上付近だった。もしかしてあの狼煙は、連盟の侵攻を周囲に知らせるために放たれた救援信号ではないか?その狼煙めがけて、あの城塞都市に入り込んだ連盟軍が威嚇射撃をした。そう考えればこの状況、合点がいく。


「副長、意見具申!」

「なんだ、アードルフ少佐。」

「城塞都市の上空または地上に、連盟軍の兵器がいる可能性が高いと思われます。警戒しつつ、あの城塞都市に接近すべきかと。」

「どういうことだ?」

「先ほどのビームは、明らかに地上付近を狙っていました。城塞都市を占拠した連盟軍が、他の都市に救援を求める者を威嚇した可能性があります。あの狼煙も、連盟軍の占拠を周囲に知らせるために使用されたのかもしれません。そう考えればこの状況、説明がつきます。」

「うむ……確かにな。だが副長よ、今の時代、連盟といえど軍事占領などするものか?それは地元住人の反感を買い、自分自身の首を絞めるような行為だぞ?」


艦長の言うことはもっともだが、目の前の状況を合理的に解釈すると、そうとしか考えられない。


「いずれにせよ、状況確認が必要だな。よし、高度200まで下げる!両舷前進最微速!あの城塞都市に接近する!」

「前進最微速、ヨーソロー!」


この艦は高度200まで下げ、慎重に都市への接近を試みることになった。


と、その時だ。


「再び、高エネルギー反応!城塞都市の城壁付近!」

「なんだと!?レーダーは!」

「感なし!駆逐艦、哨戒機、その他飛翔物、確認出来ず!」


どういうことだ?やはり城壁の上にビーム砲が備えられているのか?

私はハッとする。艦長に向かって叫ぶ。


「艦長!戦闘態勢に移行を!」

「あ、ああ……そうだった。対空戦闘用意!哨戒機隊は発進準備!」

「対空戦闘用意!」


警報が鳴り響く。観測員からの報告が飛ぶ。


「高エネルギービーム、きます!エネルギー波、集束中!」

「バリア展開!」

「バリア、間に合いません!セーフティロック解除がまだです!」


しまった。哨戒機発進指示前に、こちらを先に指示すべきだった。艦長が叫ぶ。


「回避運動!面舵いっぱい!最大戦速!」

「おーもかーじ、いっぱーい!」


艦左側のスラスターが目一杯吹かされる。同時に、メインエンジンも全開にされた。艦橋内が、ガタガタと揺れる。

と、その直後に、青白いビームの筋が飛んでくる。


「艦左側面、直撃来ます!」

「総員、衝撃に備え!」


バリバリと音を立てて、艦の左側面をビームがかすめる。艦橋の床がビリビリと揺れる。


「……艦内、被害状況を確認!」

「ビームの一部、左舷(ひだりげん)側シールドに被弾!」

「ダメージコントロール!艦内、火災は起きていないか!?」

「今のところ警報なし!艦内気密、および熱センサーに異常なし!」

「念のため、消化班の派遣要請!」

「了解、消化班の出動を要請します!」


外を見ると、あの城塞都市にさしかかろうとしていた。


「艦長!本艦を停止させて下さい!」

「なんだと!?そんなことをすれば、もしあの都市に連盟軍がいたら、この艦が狙い撃ちに……」

「なればこそです!都市上空にこの艦が居座れば、奴らがこの艦を攻撃した際に、落下する艦でにより自らにも被害が出ます!そういう状況にすれば、奴らは我々を撃てません!」

「分かった、両舷停止!城塞都市上空で緊急停止!念のため、バリアも展開!」


後退用のスラスターが吹かされる。艦は急減速する。

そして我が艦は、あの城塞都市の直上で停止した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ