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#10 魔術実験

「な、なに!?なんなの、ここは!?」


魔獣を前にしても動じないカルメラさんが、驚愕の表情で駆逐艦の窓の外を眺めている。

その窓の下には、灰色の岩肌が広がっている。


「戦艦デアフリンガーより入電!2番ドックへの入港許可、了承!直ちに入港せよ!以上です!」

「2番ドックより、誘導ビーコン捕捉!ドックまで600!」

「両舷停止!」

「両舷、停止!」

「400前!」

「両舷減速!赤20!」

「両舷減速、赤20!ヨーソロー!」

「200前!」


ここは戦艦デアフリンガーの真上。小惑星を削っただけの無骨な船体が、眼下に広がっている。正面には、この戦艦の艦橋が見える。


戦艦デアフリンガー。全長4300メートル、収容艦艇数37隻、駆逐艦と同じ直径10メートル級高エネルギー砲を25門、そして100メートル級の大型砲が2門搭載されている、比較的大型の戦艦だ。

目の前に見えている艦橋の真下の岩の奥には、街が作られている。400メートル四方、高さ150メートルにくり抜かれた空間に作られた街で、ここには軍民合わせて2万人が暮らす。その街に、補給のためドックに繋留された駆逐艦から、大勢の乗員が訪れる。


我々は、あの艦橋の真横のドックに向かって航行中だ。司令部付きでもない我が駆逐艦は、艦橋から離れたドックへ入港し、艦内鉄道で移動するのが普通だ。が、今回は要人を乗せている。だから特別に、艦橋真横のドックへの入港許可が下りた。


「繋留ロックまで、あと20……10……接続!」


ガシャーンという金属音とともに、ドックへの接続が完了する。


「前後ロック、接続確認!艦固定よし!」

「機関停止!連絡通路との接続用意!」


魔術師の5名と婚約者1名は、まるでヤモリのように窓にへばりついて外を眺めている。彼らには予め大型船に行くとは話していたが、まさかこれほどまでに大きな船に来ることになるとは予想だにしていなかったようだ。

いや、彼らから見ればこの戦艦は、もはや船ではない。ごつごつとしたむき出しの岩肌、その上から灰色のステルス塗装を塗っただけの船体は、まるで王都のそばにある荒地のようだ。その岩肌のところどころに、砲台と見張り台が点在している。まさに漆黒の闇に浮かぶ要塞だ。


「艦長のハルトヴェッヘだ。戦艦デアフリンガーより、本艦乗員への乗艦許可が下りた。現時刻をもって、戦艦への移乗を許可する。なお、本艦乗員へはこれより6日間、戦艦デアフリンガーへの滞在許可が出ている。出港は6日後の艦隊標準時2100(ふたひとまるまる)、各員には、艦内ホテルへの宿泊許可も降りている。6日後、帰艦遅れのないよう十分留意されたし。以上。」


艦内放送にて、艦長が2130号艦乗員に向け、戦艦への乗艦許可を告げる。これを受けて、艦橋内の乗員も皆、立ち上がり、各々が動き始める。


「あ~っ!疲れたぜ!おい、どこにいくよ?」

「ああ、俺は映画見にいくんだ。」

「はあ?男一人で映画か?」

「なんだよ、悪いか。」

「ったく、しょうがねえな。俺が付き合ってやるよ。」


艦橋のオペレーター同士が会話している。私の元には、ぞろそろと魔術師たちが集まってくる。


「おい、アードルフ。これからどこに向かえばいいんだ?」


そのリーダーであるエンリケが、私に尋ねる。


「ああ、まずは艦を降りる。この先の通路を歩くと、戦艦デアフリンガーの艦橋の入り口があるんだ。そこにエレベーターがあるから、街に降りる。」

「降りるって……あの下に、街があるのか?」

「ああ、標準サイズの街がある。2万人が住む街だ。」

「はぁ!?2万人!?おい、そんなに大きな街なのか!?」

「いや、狭い場所に無理やり詰め込んだような街だ。まあ、行けばわかる。」


怪訝な顔で私についてくる、エンリケ以下5人の魔術師とパトリシアさん。そのあとを、ローゼリンデ中尉も伴う。


「ねえ、あの岩の化け物の中に入るの!?」

「ああ、戦艦のことね。大丈夫だよ、ノエリアならきっと気にいるって!」

「そ、そうなの……?まるで岩場に作られた監獄のようなところだけど……」


見た目は不気味な岩場のようなところだから、不審に思っても致し方ない。なにせ戦艦というのは、実用重視だ。砲台にドック、そして監視塔といった実用上必要な部分以外には、ほとんど力を入れていない宇宙船である。

もっとも、戦艦も今や補給くらいにしか使われない。25門の砲台、そして大型砲の2門は不要だという声もある。実際、この数十年ほどに建造された戦艦には大型砲などない。その分、ドックを増やしてくれた方がマシだとまで言われている。

実際、戦艦が戦闘に参加することはほとんどない。艦隊戦となれば、主に駆逐艦が主役だ。大型の戦艦は動きが鈍く、格好の的となるだけだ。このため、戦闘中は司令部として後方に控えているのが常だ。


その昔は、巡洋艦というものもあった。地球(アース)097も何隻か保有していた時代があったが、全長が1000~2000メートルほどで、その名の通り駆逐艦と戦艦の中間サイズの戦闘艦だ。だが、100年ほど前から徐々に消え始め、今ではこの宇宙にはほとんど存在しない。

だから現在では、駆逐艦が戦闘の中心であり、戦艦はその後方支援を行うだけの船となった。


現在の戦闘は、1万隻の駆逐艦が横一線に並んで、射程ギリギリの30万キロから互いに撃ち合うロングレンジ戦法が主流だ。


まれに戦艦が前面に出ることがあるが、優勢時の最終局面での追撃戦か、劣勢時において撤退支援のいずれかしか出番はない。基本的に大きくて動きの遅い戦艦は、足手まといだ。

そんなわけで現在の戦艦は、ほぼ駆逐艦の補給や修理、そして中にある街で駆逐艦乗員の慰労、いや狭い艦内に閉じ込められた乗員の「憂さ晴らし」のための施設と成り下がっている。

そんな憂さ晴らしの場所に今、我々は向かっている。


艦橋の入り口付近に着く。そこには6本のエレベーターがあり、200メートル下にある街へとつながっている。

そのエレベーターで降りると、ホテルのロビーへと出る。ここは戦艦デアフリンガーの中にあるホテルの最上階。ここでまず、各自の宿泊部屋へと向かう。


「ではまず、ここで宿泊する部屋に向かう。受付で手続きを行ったのちに、部屋に荷物を置いてもらう。その後すぐにこのロビーへと戻り、次の場所へと向かうことになっている。」


私はそう彼らに予定を告げると、受付の方へ向かう。が、そこでセサル殿の婚約者、パトリシアさんが口を開く。


「あ、あの……」

「どうしました?」

「ええと、その……私、ここに身一つで来てしまったので、家にも連絡しておらず……」

「ああ、大丈夫ですよ。大気圏離脱前に、あなたの家、グラシアン男爵家への連絡は済ませてます。」

「そ、そうですか、よかった……あ、でも私、これ以外に着るものがなくて……」

「だーいじょうぶよ!街で買えばいいよ、私が選んであげる!」

「は、はあ……」


ローゼリンデ中尉が、不安げなパトリシアさんに語りかける。


「では、衣服の件はローゼリンデ中尉に任せる。では、行くぞ。」


そういえば私は、パトリシアさんと初めて会話したな。彼女は駆逐艦にいる6時間の間ずっと黙っていた。そんなに私が苦手なのだろうか?

ところで、彼女はセサル殿の婚約者だという。親同士が決めた結婚相手のようだが、セサル殿とは仲がいいらしい。というか、セサルがべったりと言ったほうがいいか。


「後のことはさておいて、まずは僕らの部屋に行こう、パトリシア。」

「はい、セサル様。」

「……でさ、その部屋って、どうやって行くの?」


このホテルの仕組みなどはさっぱりな魔術師達を引き連れて、我々は受付に向かう。そこで皆の鍵を受け取り、私とローゼリンデ中尉の2人がかりで各々を部屋に案内することとなった。


「うわぁ……なにここ!?こんな綺麗な部屋に泊まってもいいの?」

「そぉ?ごく普通のホテルの部屋だよ?」

「いや、すごく綺麗だよ。ベッドもふかふかで、お風呂まであるよ!こんな部屋、見たことない!」


ノエリアさんはベッドの上でぴょんぴょんと跳ねながら、感激している。まあ、どう見てもビジネスホテルという雰囲気の部屋だが、この星の人々からすればこれでも豪華に見えるのだろう。

で、再び全員を連れてロビーに戻り、今度は街へと向かう。この街のど真ん中を通り抜けて、その向こうにある射撃訓練場へと彼らを案内するためだ。


そこで、彼らの「実験」を行う。


我々は、街に降りるエレベーターへと向かった。


「ちょ、ちょっと!なによこれ!?」


そのエレベーターの脇はガラス張りの外壁となっており、そこから街が見下ろせる。

このホテルのロビーのあるここは、この街の最上階、高さ150メートルの場所。上には岩むき出しの天井にたくさんの照明、そして窓を見下ろすと、4層構造の街が見える。

地上には車用の道路がある。が、2層目より上は歩道のみの床が全部で3層。各層には4階建ほどの建物が立ち並んでおり、その中に居住用と店舗用の建物が入り混じっている。

ここには軍民合わせて2万人が住む船、その大半が、この街にいる。400メートル四方の限られた空間に、無理やり押し込んで作った人工都市だ。

その街を、6人の来客者達は上から見下ろしている。

が、いつまでもここにいるわけにはいかない。予定の時間まで、あまり間がない。


「すまないが、あまり時間がない。私についてきてもらえるか?街は、後でゆっくりと案内しよう。」

「あ……ああ、すまない。では魔術師諸君よ、行くぞ。」


エンリケの呼びかけに応じて、魔術師とパトリシアさんはエレベーターの方に向かって歩く。私とローゼリンデ中尉は彼らを引き連れ、エレベーターへと乗り込む。ガラス張りのエレベーターに乗り込み、窓の外を流れる景色を眺めながら、この街の地上へと下りて行った。


◇◇◇◇◇


もう、大抵のことは驚かない。


こいつらのやることは、もはや我々の理解を超えている。そんなことはすでに、分かっている。


そう思い込んでいたから、あの馬鹿でかい戦艦を見せられたときも、私は平静さを保っていた。


だが、そんな私でも、この街の光景には驚きを隠せなかった。無理やり押し込んだ街だとは言っていたが、まるで積み上げられた棚のように整然とした街が、いく層にも重なっている。

その棚の一つ一つに、大きな建物がある。それも、ガラスをふんだんに使った建物ばかりだ。どうしてこんなにたくさんのガラスを使っているんだ?

そのガラス張りの建物の一番下に、人々が群がっているところがある。


「おい、あの人だかりはなんだ?」


私はアードルフに尋ねる。


「ああ、あれは店だ。あそこは確か、ファーストフードの店だったな。」

「ふぁ、ファーストフード?なんだそれは?」

「……まあいい、この用事が済めば案内する。口であれこれ言うより、見れば分かる。」


このアードルフという男は、どうも寡黙で、しかもぶっきらぼうだ。あまり我々に肝心なことを説明してくれない。しかしアードルフの言う通り、口で教えられたところで我々には多分、理解できないだろう。見るのが一番早い。

そして、ものすごい速さで下るエレベーターで地上に降りる。上には、この街の巨大な3層の棚が見える。そして、目の前には馬車が走って……いや、よく見るとここの馬車には、馬いないな。

馬のない馬車が、いくつもひっきりなしに走っている。そのうちの一台が、我々の前に止まる。


「さ、乗ってくれ。」


この大きくて黒い馬なしの馬車の扉が開く。前の席にはアードルフとローゼリンデが、そして後ろに我々6人が乗り込んだ。

我々を乗せて静かに動き出すこの馬車。乗り心地は悪くない。全く揺れもなく、快適だ。

が、そうだ。我々は一体、どこに向かっているのか?そういえばアードルフのやつ、行き先を教えてはくれていない。


「おい、アードルフよ、これからどこに行くのだ?」

「ああ、街の向こう側だ。そこにある射撃場に向かう。」

「射撃場?なんだそれは?」

「銃や中型砲の砲撃訓練などを行う場所だ。見れば分かる。」


相変わらず同じ言い回しだ。見れば分かるとしか言えないのか、この男は……だが、右も左も、いや、上も下も分からない街、とにかく今は、アードルフに従って行くしかない。

それにしても、ここはなんと繁華な街だ。王都など問題ではないほど、人と物が溢れているのがここからでも分かる。ここがあの真っ暗な星空の闇の中に浮かぶ無骨な岩の只中にあることを忘れてしまうほどだ。

だが、この馬車はそんな街を通り抜けてしまう。その街外れにある小ぎれいな洞窟のようなところをくぐる。


「着いた。全員、ここで降りる。」


先ほどの繁華な場所とはうって変わって、ずいぶんと殺風景な場所にたどり着いた。土と岩肌に囲まれただけの、だだっ広い場所だ。


「お待ちしておりました、アードルフ少佐殿。こちらが、魔術師のお方ですか?」

「そうだ。魔術師5名に、付き添いが1名だ。」

「そうですか。では改めまして……ようこそ皆様、射撃訓練場へ。私は地球(アース)097の技術武官、ロルフ大尉であります。今日は皆様の魔術について、調べさせていただきます。」


ああ、そうか。ここで魔術を放てということか。それでわざわざこんな殺風景な場所に、我らを案内したのだな。


「では、早速だが実験を始めよう。エンリケ殿、一番手をお願いできるか?」

「ああ、(うけたまわ)った。」


私は杖を持ち、前に進む。目の前には土と岩壁だけの場所に、ところどころに何か台座のようなものが置かれている。

私は杖を立て、呪文を唱える。


「……我が炎の精霊よ……我が前に、万物を焼き払う紅蓮の炎を具現し、醜悪なる悪魔を昇華せよ!出でよ、紅炎光槍(クリムゾン ライトランス)!」


だが、私の杖の先には、何も生じない。不思議なことに、魔力を全く感じない。ただ私の叫び声だけが、この広い洞窟のような場所にこだまする。


「……おい、なんてことだ……私の魔術が、使えないだと……?」


私は愕然とした。これまで私は、人生のほとんどを、この魔術鍛錬のために注いできた。なのに、この宇宙では、私は魔術が使えない。


アードルフが言っていた。他の星に住む魔術の使い手で、宇宙に出た途端、魔術が放てなくなる者がいる、と。私も、その一人だったということか?

私はカルメラの肩を叩いて、すごすごとその後ろに引き下がる。我が魔術師団の2番手であるカルメラに、全てを託す。

だが、私同様にカルメラ、セサル、そしてバレンシアも魔術が使えない。最後に、ノエリアが残った。


「ええ~っ!?私の魔術、どこに飛んでくかわかんないよ!?」

「大丈夫だ。多分お前も我々と同様、魔術が撃てないだろう。」

「そ、そうなのかな。なら、いいけど……」


制御できないゆえに、あまり魔術を使いたがらないノエリアが最後に魔術を試すことになった。恐る恐る、杖を前に差し出すノエリア。


「じゃ、じゃあ、いくわね……我が雷神の精霊よ……我が前に、空を切り裂く(いかずち)を顕現し、邪悪なる者を灰塵と化せ!出でよ、橙黄雷電槍(アムヴァーサンダーランス)!」


どうせ皆と同じように不発に終わるだろう。私はそう思って見ていた。

だが、様子が違う。

ノエリアの杖の先が、光り始める。琥珀色の輪が現れ、徐々に杖先に集まっていく。


「おい、ロルフ大尉!」

「大丈夫です!計測してます!」


次第に一点に集まっていく杖先の光。と同時に、輝きを増していく。

いや、ちょっとまて。ノエリアの魔術は、どこに飛んでいくのか分からないんだぞ?こんな逃げ場のないところで放たれたら、どこに飛んでいくのか、分かったものじゃないぞ。

私が危険を察した瞬間、ノエリアの魔術は放たれてしまった。

ガガーンという音とともに、ノエリアの魔術はこの射撃場の端に置かれた支柱のようなものに放たれる。その支柱に当たったノエリアの魔術は、音を立てて大爆発を起こす。

粉塵と爆風が、我々に襲いかかる。放った本人も、その風で吹き飛ばされる。


「っつー!な、なんなのよ、もう!」


魔術を放った本人が、自分の魔術の引き起こした結果に悪態をついている。我々も砂まみれになってしまった。


「な、なんですか、今のは!?」

「あれが魔術だ。」

「あれがですか!?まるで、雷のようでしたが……」

「そうだ、彼女は雷の魔術の使い手だ。」

「ということは、この魔術の正体は電気……ですかね。しかし、なんという威力なのでしょうか……」


驚く2人とは裏腹に、放った本人は土まみれになりながら騒いでいる。


「ゴホッゴホッ……ちょ、ちょっと!魔術が使えないんじゃなかったの!?なんで私だけ使えるのよ!」


私も驚いた。確かに、ノエリアのやつは魔力が多い。我々魔術師団で唯一、へたばったところを見たことがない。が、まさかこいつだけが宇宙でも魔術を使えるとは……一体、どういうことなんだ?


「……うーん、そう言われてもな、私には分からん。ロルフ大尉、どうなんだ!?」

「結果を分析して見ないと、なんとも。とにかく、いいデータは取れました。」

「測定機器の一つが吹き飛んでしまったようだが?」

「いいですよ、この結果に比べたら、安いものです。」


アードルフとロルフという男に尋ねたが、たいした答えは得られなかった。にしても、あちこちに立てられていたあの柱のようなものは、我々の魔力を測るものだったのか。結果として、ノエリアの魔力だけが調べられたことになる。もっともその一つを、ノエリアは破壊してしまったが。


「エンリケ殿、最後にあの、ホリゾンなんとかという合成魔術を試して欲しい。」

「はぁ?おい、5人中4人が魔術を放てなかったんだぞ!?そんな状況で空淡蒼爆炎(ホリゾンブルーエクスプロージョン)が放てるわけがないだろう!」

「いや、1人は放てたわけだし、可能性がある限り試したい。」


アードルフは真剣なようだ。だが、私には成功する気がしない。さっきから、私自身の体に魔力を感じないのだ。こんな状態で果たして、あの大魔術が撃てるのか?

だが、私も何も成せずに引き下がるのはしゃくだ。ノエリアだけは魔術が使える、ということは、多少威力が弱くても、何かが放てるのではないのか?

そう考えた私は、王国の上級魔術師の威信をかけて、この一撃に賭けることにした。


「ではみんな、集まってくれ。やるだけのことは、やってみよう。」

「ええ~っ!?まだやるの!?」

「何言ってるの、あんたまだピンピンしてるじゃない。」

「でも、口の中に砂が入って……」

「……私も、口の中に砂が入った……ノエリアのせいだ……」

「まあまあ、あとで水浴びさせてもらえばいいじゃない。みなさん、エンリケの元に集まりましょう!」


こういうまとめ役はカルメラの役目だ。5人は集まり、私にカルメラ、ノエリア、セサル、そしてバレンシアの5人が杖を合わせる。

私はその杖を前に向けて、あの大魔術の呪文を詠唱する。


「……我、ならびに我に従う魔術師の力に契りし精霊たちよ……我の前に集い、あらゆるものを焼き尽くす蒼き業火を涌現し、彼の邪悪なる者を昇華せよ!出でよ!空淡蒼爆炎(ホリゾンブルーエクスプロージョン)!」


正直、何も起こらないか、いつもより弱い光しか現れないと思っていた。

が、そこに現れたのは、いつも通りのあの青白い光の輪だった。

大きい。てっきりもっと小さい魔力しか得られないと思っていたが、地上と変わらず、みなぎる魔力。

その青白い光の輪は徐々に集まり、そして明るさを増していく。

撃てる、私はそう、確信した。

そして次の瞬間、私の杖先からあの青白い光の筋が放たれた。


先ほどのノエリアの魔術など、比べ物にならないほどの大魔術が放たれた。

その光はまっすぐに、この射撃場の反対側へと向かう。

そして光が端の壁に達すると、大爆発を起こした。

先ほどよりも大きな粉塵と風が、我々に襲いかかる。

が、その時、下からガラスの壁のようなものが飛び出てくる。それが、あの猛烈な風を受け止める。

そしてしばらくすると風がおさまり、ガラスの壁も降りる。


「なによ、こんな仕掛けがあるんなら、私の時にも使ってくれればよかったのに!」

「いや、ノエリアさんの魔術は近すぎた。あれではとても間に合わない。今回の魔術のように、きっちりと狙い通り当たってくれれば防げたはずだ。」

「ううっ……」


抗議するノエリアだが、かえってこいつの当たらない魔術を批判されてしまった。それを聞いて、杖を抱えたまま凹んでいるノエリア。

だが、この合成魔術は成功した。しかしこの中で魔術を使えるのは、ノエリアだけだ。

どういうことだ?まさか、ノエリアだけの魔力であの空淡蒼爆炎(ホリゾンブルーエクスプロージョン)が放たれたというのか!?


「それでは少佐殿、データを分析いたします。何か結果がわかったら、またお知らせしますね。」

「ああ、頼んだ。」

「それから、シャワー室ならこの施設にあります。みなさん、そのままで帰るのはしのびないでしょう。是非お使いください。」

「分かった。使わせてもらおう。だが、服はどうするんだ?」

「……しょうがないですね。ホテルに戻るか、街で買うかして着替えてください。」

「仕方ないな、そうしよう。」


というとアードルフはそのロルフという男と敬礼を交わした。


私は、宇宙では魔術を使うことができない。

だが、ノエリアだけは魔術を使うことができる。

そして、なぜか合成魔術である空淡蒼爆炎(ホリゾンブルーエクスプロージョン)だけは、いつも通り放つことができた……

この意味が解明される日は、果たして来るのだろうか?

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