探し人
強引な亜紀に付き従っているのは別に僕に主体性がなく、流されやすい性格だからなんて事は決してない。ないったらない。吸血鬼の被害者を捜すなんてどうやってやるのか興味があったからだ。それからもし亜紀が吸血鬼の被害者を探している途中で吸血鬼の正体―僕につながる物を発見してしまう可能性もあるからだ。
亜紀がどのように吸血鬼の被害者を捜すつもりなのかはわからない。でもその方法が僕の正体の発覚につながるようでは面白くない。それにもし美香と亜紀が遭遇してしまったら問題だ。
「被害者を捜すってどうやって?そもそもいるかどうかもわからないんだよ」
「探し方は簡単よ。片っ端から声をかけてみるの」
本当に簡単な方法だった。僕はついてきたことを少し後悔した。こんな方法じゃ、僕の正体が発覚する可能性はとことん低いだろう。
「それじゃ、僕ら不審者みたいじゃないか」
「はたからみたらみたいじゃなくて、不審者そのものよ。まあ、いいのよ。自分たちがまともだって事を信じてさえいれば、ちゃんと私たちはまともよ」
「それじゃなんのフォローにもなっていないって。自分が異常であると思っている異常者はいないよ」
僕の至極最もな主張に面倒くさそうに亜紀は答えた。
「そんなに人からどう思われているのか気になるなら警察なりハンターなりをなのればいいじゃない」
「警察って身分を詐称してばれたら捕まってしまうよ」
「じゃあ、ハンターをなのればいいんじゃない?」
「あのね、ハンターなんて誰も信じていない都市伝説を主張したらそれもそれで頭のおかしい人扱いされてしまうよ」
ハンターというのは吸血鬼の出現と同時に騒がれ出した都市伝説だ。吸血鬼専門の賞金首だとか、反吸血鬼を掲げる宗教団体だとか様々な噂が流れている。しかし実際僕も遭遇したことはない。
「あら、どうしていないといいきれるの?」
「別にいないといいきっているわけではないさ。ただ単純に一般的にはそんな都市伝説誰も信じていないっていうはなしだよ」
「そういうものなのね」
亜紀はふうんと頷くととりあえずは納得してくれたようだ。そして簡単に切り替えて僕に向かって提案してきた。
「じゃあ、警察もハンターも名乗らずに正々堂々いきましょう」
「だからそれじゃ不審者だと思われてしまうって」
「本当のことをいえばいいじゃない」
「本当の事って?」
「私たちは大学生なのよ。せっかくのその身分を生かさないわけにはいかないでしょう。吸血鬼と人間の共存可能性をさぐるためにアンケート調査をしていますって言えば、よほどおかしな質問をしない限り怪しまれないんじゃないかしら」
「あ、あのすいません。東京○○大学の学生なのですが、アンケートの調査にご協力いただいてもよろしいですか」
僕らが声を掛けたときの反応はてんでばらばらだった。
「見てわからない?いそがしんだよ」
面倒くさそうに断る人もいれば
「えー、吸血鬼か、怖いよね。最近ここら辺でも被害増えているし。私は知り合いとかにも被害会った人いないけどさ、やっぱりなんか怖いよね」
訳もわからぬ不安を共有してがっている人もいれば
「吸血鬼なんて物はいません。それは心の病です。僕テレビで見たんですけど最近の子供たちは技術の発達で生き物の死から離れてしまったがために、アニメや漫画で見た吸血鬼という存在にあこがれストレスの発散として障害行為を行っているとか」
自分自身ですらも理解していない他人の考えを押しつける人もいれば
「吸血鬼?すっごい興味あるんだよね。ねえね、吸血鬼の人に直接取材とかするの?するんだったら私にも調査の結果教えてよ。ネットじゃ調べられることも限られてさ」
興味本位でアンケートの結果に強く関心をひかれている人もいた。
「ねえ、やっぱり無理があったんだってば」
「おかしいわね」
「おかしくないよ。最初から無理があったんだって」
「お願い。最後に一人だけ」
「本当に最後の一人だよ」
僕は忘れていたのだ。自分が宝くじに選ばれるレベルで不運なことを。
最後に、と亜紀が声を掛けた人物は誰であろう、僕が昨日であった、吸血鬼の本当の被害者である、美香だったのだ。