被害者捜し
「おはよう。今日は今のところはいい日ね」
「おはよう、亜紀。いい日ってどういうこと?」
隣の席に座った亜紀が声を掛けてきた。亜紀は本当に機嫌が良さそうだ。にっこりとほほえみ、僕の顔をのぞき混みながらながら言う。
「吸血鬼の事件、被害者が昨夜出なかったでしょう?」
「ああ、そういえばそうだったね」
「ええ、だからいい日よ」
決めつけるように亜紀は言った。しかし憂鬱そうでもあった。
「そう決めつけるのは早いんじゃない?」
とりあえず反論しなければならない。彼女もおそらく反論されることを望んでいる。なにせ彼女の話には明らかな矛盾があるのだから。本当に会話のキャッチボールというやつは難しい。会話というものは情報伝達の手段であると同時にわかりきったものを確認するためにの手段でもあるのだ。そして今現在彼女が僕に望んでいるのは後者なのだろう。
「あら、どうして?」
「それは、まあ被害者が見つかってないだけという可能性もあるからだよ」
「そうね。その可能性もあるわ」
亜紀は嬉しそうに頷いた。長い髪が揺れる。普段クールに見える亜紀がそんな風に感情をあらわにするのを見るとギャップを感じてなんだかいつもよりかわいく感じる。
「ところで、あなた。今日の授業は今まで休んだことはないわよね」
「ああ、まあそうだね。突然話を変えてどうしたの?」
「いいえ、話は全然変わっていないわ。私はさっきの続きの話をしているのよ」
「続き?」
「ええ」
亜紀は爛々と目を輝かせた。
「被害者を探すのよ」
その瞳の輝きが憎しみからなのか、喜びからなのか。僕には少しよくわからなかった。ただ面倒な事に巻き込まれつつあることだけはわかった。
「さあ、授業をサボって探しにいきましょう」
亜紀は僕の手をとり、笑った。