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彼女の話
チャイムの音が鳴るたびにもしかして警察なのではないかと戦々恐々としたのはもはや昔のことである。今やチャイムの音を聞いても不安に感じることはなくなった。連続通り魔事件の犯人としてしおらしく振る舞うべきなのかもしれない。ただ僕にはわからなくなってきていた。このまま通り魔を続けた方がよいのか世界のためにも通り魔として捕まってしまった方がよいのか。個人的な感情としては捕まりたくない。しかし世間のために捕まった方がよいことは私にだってわかっている。そもそも世界とは僕一人の意思でどうにもならないものだ。僕がいつの間にか吸血鬼になっていたように私は私自身の物語を自分で選ぶことはきっとできない。
だから僕は警察が来た時はその時はその時だと開き直ることに決めていた。チャイムが鳴った時も一抹の不安を抱えながらも無視したりしなかったのはきっとあきらめの感情が僕の中にあったからだ。