明日の話
いまでも色彩、匂い、感情を昨日のように思い出せる記憶がある。それは僕の記憶力の問題ではなく、その記憶があまりにも鮮烈だったからだ。
綺麗な女の人がいた。綺麗というのは陳腐な表現だが僕は彼女にそれ以上に当てはまる言葉を知らなかった。安い蛍光灯の光を浴びてもなおきらきら光る冬の空に輝く星のような金色の髪、海のような色をした神秘的な青い瞳、高名な芸術家が想像を駆使しても思いつかないような芸術的な美しさが彼女にはあった。彼女を綺麗と言わずになにを綺麗というのだろう。それ故に後ろに広がっている光景が彼を飾り立てるものとして不適切に見えた。
後ろにはたくさんの人の死体があった。当時の僕と同じくらいの小学生の死体がたくさんあった。苦悶と恐怖の表情を浮かべた死体が何十もあった。彼女はたったままこちらをみて表情を緩めて何かを言った。それは非常に魅惑的な笑みであった。蠱惑的な声であった。
しかし僕には彼の言葉の意味がわからなかった。僕はそれをとても残念だと思った。綺麗な彼女の言葉を逃さず聞き届けたかったから。僕は首をかしげて彼女に言葉の意味がわからないことを伝えた。しかし彼女はそれを意に介さずゆっくりと僕に近づいてきた。
それから―