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レイ・アルマーズ は大罪を犯す

 朝起きたら、私は頭が割れそうなくらい痛い頭痛が襲われていた。

 楕円形の部屋には空っぽのワインビンが15本近く転がっていた。


「また、飲みすぎてしまったわ……………」


 吐き気と共に後悔の念に駆られる。


「すいませんでした。また来ます」


 いつも部屋の掃除をしてくる侍女が入った途端に、気まずい状況に出くわしたかのように急いで出て行った。


「確かに、いつもの倍くらいは飲んではいるけど、そんなに驚くことかしら? 二日酔いの頭痛が酷いから薬をもらわないといけませんわね」


 言葉は完全に元にも出っている。その代わりに、じんじんと激しく痛む頭を抱える。私は嫌なことがあったり、ストレスが溜まったりすると時々こうしてお酒を大量に飲む癖がある。これはお父様も知ってのことだわ。


 今日は別に私に仕事がある日じゃないしね。そもそも、完全なお飾り姫である私に出来るような仕事がある日の方がかなり稀なのだけど。薬をお願いしたら、仕事もないことだし、また二度寝でもしようかしら。


 それにしてもなんでそんなに慌てて出て行ったのかしら。いつものことよね。

 部屋を見渡して、私は変わったものがないか確認する。

 ワインビンがかなり大量に転がっているのだっていつもと同じ。

 部屋のあちこちにゲロが飛び散っているのも………いつもと同じ。

 服を着てなくて全裸なのもはいつもと同じ。

 隣に裸の男の人がいるのもいつもと同じ…………


「い、いつもと違う。あ、そう言えば昨日…………彼が来ていたわね。そっか。部屋に若い裸の男女がいれば、気を使って部屋には入ってこないわよね…………彼女は口固いし、お願いすれば、言いふらしたりしないから問題ないわね。問題は…………私、彼とやったのかしら? ダメ。彼が部屋に来た当たりのことから記憶がほとんどないわ」


 酒を大量に飲んだ次の日は前日の記憶なんていつもほとんど飛んでいるのよね。

 そもそも私は処女な訳だし。今でもそうなのか確認する方法なんてあるかもしれないけど、侍女たちには変な想像をさせてしまいそうだし聞けないわ。ただ、初めてを捧げてしまったとなれば、彼に聖剣に選ばれて王になってもらわないととても困る。


「あっちの下品な勇者の方が選ばれることなんてまず無いとは思うけど、下半身事情には詳しそうだったからね」


 このことが露見するようなことになれば、私もとっても不味い展開になるわね。私は変態の汚名を着せられる展開になる。最悪、国家反逆罪で処刑。


「そうだ…………起きて。貴方、お前、勇者………ゼロ」


 流石に起こすときに勇者では反応しないだろうし、言い直した。そもそもゼロも偽名で本名ではないらしいけど。

 眠りが深いのかゼロは気持ち良さそうに眠っている。一国の姫であるこの私がこんなに危機感を感じているというのに、人の気も知らないで。呑気な男ね。なんかイラついて来たわね。


「起きろ、レイ」


 思いっきり顔をビンタ。バチンと音が部屋に響く。


「…………痛い…………なんでお姫さんが…………」


 だめだ。完全にまだ寝ぼけている。こっちも頭痛を必死に我慢していると言うのに。ゼロが呑気なのがなんとなく許せなかっただから、もう一発ビンタした。


「…………痛い」


「目は覚めたかしら?」


「…………なんでお姫さんは裸なんだよ。てか、スゲェ頭が痛い。全然、脳のギアが入らんわ」


 やっと目が覚めたのか私のことを見てからそう言った。ゼロも見た感じ完全に二日酔いの症状が出ている。怪しいわね。


「お互い様よ。貴方だって、裸よ。それと頭痛いのは二日酔いね。調子乗って飲みすぎるから悪いのよ」


「…………」


 ゼロは目の前で恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、無言で下半身を布団で隠した。


「…………もしかして、何も覚えていないの?」


「ああ。確か、この部屋に来て…………」


「それから?」


「なんかくだらない話をして……………」


 必死に思い出しているようで、いつもよりも応答が鈍い。


「それから?」


「なんか色々あった気がするんだが? 思い出せそうで、思い出せない」


「使えないわね。じゃあ、最後に単刀直入に聞くけど、私達はセックスした?」


「す、するわけない……………だろ。大体、何を根拠に……………」


 本来、彼はとても聡明な男。だから眠気が覚めて、頭が回って来て、私の言いたいことと現在置かれてい

る私たちの状況の理解で来たらしい。


「一々、言葉にするのは私の心臓を抉るような気分だけど。裸の男女がベッドの上で目を覚ました。これだ

けでも根拠はかなり大有りだと思うけれど? その上、二人にははっきりと否定できないけどそのようなことをしたような気がする。否定できない。これってぶっちゃけアウトよね」


「誰かに見られたか?」


「まず初めに、証拠隠滅を図ろうとするところが救いようもないクズね。私も同じことを考えたけども」


「なら、こうしないか? 今からお姫さんは一人で街に行く。そして、強姦に襲われ始めてを散らす。そこに通りかかった真面目な騎士が助けて恋に落ちるとかシチュエーション的には最高じゃないか?」


「最低すぎるわね。一度、死ねば。この後に及んでまだそんなことを考えている訳? そもそも貴方は応援するとか言っていた相手を寝取ったのよ。それでも結ぼうとするなんてはっきり言て、正気の沙汰ではないわね。倫理コードはどうなってんのよ。こう言うのは何だけどもキチガイよ」


「そう言われると何も言えないわな。それよりも今は今後のことを考えるべきだと思うのだが……………いや、考えるまでもなく一番はさっさと僕がこの部屋から出ていくことだな」


「そうね。こんな風景をエドになんて見られたら……」


 と、そんな話をしていた矢先。話題の人物が扉から顔を出した。

 絶句。魔が悪いにもほどがあるでしょ。


「姫様。ゼロが朝から見当たらないのですが、こちらに訪れて…………ゼロ。貴様、何をしているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 鬼のような形相でエドが長剣を抜刀して、ゼロに斬りかかってきた。

 目には暗黒のオーラみたいなのが宿って光見えない。闇堕ちした騎士みたいになっているわ。我を忘れている。


 とっさにゼロはベッドから立ち上がり、私にもう一枚の毛布を投げた。剣を抜刀した騎士を相手にしては随分と余裕ある行動とは思うけど、そこら辺の紳士的な行動はエドも見習うべきだとは思うわね。それを体に巻いて、私もエドの剣が当たらないような部屋の隅に逃げる。エドに殺されたとあっては私も絶対に成仏できない。不名誉すぎて、死んでも死にきれないわ。


「ゼロ。お前は確かに口悪いし、性格悪いし、説明しないし、私が出会って来た連中の中で一番最低な男だったが、聡明で、ぶっきらぼうに見えても人をきちんと見ていて外見ではなく中身で人を判断する。口には出さないけども、実は尊敬していたのに。それがまさか、姫様に夜這いを仕掛けるなど。貴様、言語道断。死ね」


「セリフが長い。少しはセリフを推敲しろ」


 エドはキレると周りが見えなくなる典型的なタイプ。

 質が悪いことに暴走状態だと性能がぐんと上がる。この状態だと、無能じゃない。馬鹿みたいに剣を振り回しているだけだし…………なんでこんなに綺麗に切断できているのよ。まさか、一つの可能性が頭を過ぎった。

 改めて、動きを観察するとその推測は的を得ている。


「ゼロ。剣に触れちゃダメ。エドは錬を使っているわ」


「そんなこと言われても、こいつキレると性格変わるのは知っていたが、こんなに強くなるのかよ。普通にこの狭い部屋だと避けるのも厳しいんだけど」


 軽口を叩いているうちはゼロもまだ平気かもしれないけど、錬をこの世界に来たばかりのゼロはきっと正確には理解していない。

 あれを受ければ、無防備な素人は無事では済まない。最悪の場合だと、一撃で即死が十分にありえてしまうわ。この状況を作ったのは私も少なからず責任があるし、私のせいで死なれては寝目覚めが悪い。

 私なら、暴走状態だろうとエドくらい楽勝で倒せる。才能が違うのよ。エドは凡才に劣る。

 でも、私は超天才。


「ゼロ。3秒後に入れ替わって」


「勝目があるんだな……………了解。任せるぞ、レイ」


 心の中で数を数える。3、2、1。

 

 良きぴったりに、タイミングを合わせて来たゼロと入れ替わる。エドから猛攻を受ける圧倒的にゼロからしたら不利な状況で、完璧にカウントに合わせるなんて見事なもんよね。


「手を煩わせないで欲しいものね」


 腹の溝を狙った攻撃。手に錬を纏い、ピンポイントで狙う。こう見えても、万が一のために多少の護身術は習っているわ。ましてや、他の騎士ならともかくいくらカッとなってやっと多少の錬を使えるエドなんかに負けるものですか。


 勿論。クリーンヒット。エドはそのまま気を失った。


「…………やりすぎちゃった」


「本当に、助かったよ。命拾いした」


 しぶといと言うか、器用な男ね。あれだけの剣幕で斬りかかって来たエドの攻撃をこの狭い部屋で切り傷の一つすら受けてないで完璧にかわすなんて。


「ほらよ」


 投げ渡して来たのは私が下の部屋に住んで居る侍女のエミュリカを呼ぶために使っている鈴だ。ちゃっかり拾っていたらしい。


「これで男物の服と女物の服を持ってくるように頼んでくれよ。仲が良くて口が堅くて、信頼出来る人物なんだろ?」


「人を便利屋みたいに扱わないでもらいたいのだけど。私、お姫様よ。でも、確かに、こんなボロボロの服はもう着れないわね」


 エドが派手に暴れ回ったおかげで、昨日の夜に着ていた服は切り刻まれてボロボロ。侍女たちが服を持て来てくれるから部屋に服のスットックは置いていない。

 昨日みたいに窓から乗り出し、ベルを鳴らそうとすると、ゼロが止めた。


「お姫さん。ちょっと待て。それは僕がやるよ」


「さっきは名前で呼んだのに。なんでまた元に戻るのよ、ゼロさん」


「別にもうレイと呼んでも構わないがこのタイミングで呼び方を変えると完全にできちゃった感じだろ。だから、呼び名だけでも前と同じくした方が良いと思ったのだが?」


「そうね、超ド級の変態勇者」


「それの呼び名は初耳だけど。いいから、それをよこせ。今は夜と違い、庭にもたくさんの人がいるんだぞ。その格好でお前が窓から外に出たら変態だろ」


「それもそうね。お任せするわ」


 確かに、シーツで身体を覆った姿を城内に披露するのは流石に不味い。お父様の耳にも入ってしまう可能性がある。

 素直にゼロにベル渡し、ゼロが窓から乗り出してベルを鳴らした。

 すると、すぐにエミュリカがやって来た。


「お薬を二人分とお水をお持ちしたのですが…………他になにか御用ですか?」


「私の服と………彼の服を持ってきて。あと、部屋もこの有様だから本宮にある私の部屋に戻ろうと思うわ。お父様には内密にここの処理を頼めるかしら?」


「畏まりました。これは余計なことかもしれませんが、レイ様の部屋から上半身裸の男が顔を出せば…………これは蛇足でしたね。それでは」


 有能な侍女はそう言って出て行った。

 

間抜けにも、私とゼロは目が合った。


……………………………言うが遅いよ。きっとゼロもそう思っただろう。


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