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市谷 零と姫

 問答無用で異世界に連れてこられてから5日が過ぎようとしていた。


 王様の話だと、僕が異世界に来た日から10日後に大悪魔ベリアルが攻めてくるらしいからちょうど、今日が日にち的に折り返し地点となっている。

 

 大悪魔の襲来。それに僕を暗殺しようとたくらむ連中までもいる始末。考えれば、馬鹿らしくなるほどのクソ展開だが、幸いなことに徐々に異世界の生活にも慣れて来た。何と言っても、城内での顔見知りの人が増えて来たのが大きい。知らない人と話すのは何と言っても、どうしても気を使う。僕は誰にも信じてもらえないけど、人見知りだからだ。


 街の女の子たちのおかげで、聖剣についても気になる部分の文献調査が終了し、昨日からは聖剣の機能を色々と試してみてはいるものの、現状ではお世辞にも使いこなせているとは言えないレベルだ。

 

 だが、別にそんなのは基本的にはどうでもいい。僕としてはあくまで戦闘も修行もメインではない。バトル系主人公になんぞ、死んでもなる気はない。僕の本職は恋のキューピットだ。ギャルゲーに出てくる主人公とヒロインの好感度を教える友達ポジションを希望している。


 このままバトル一直線にならないよう、物語の帳尻合わせも兼ねて僕はとある人物の元を訪ねることにした。勿論、あの面倒くさい騎士は置いてきた。今、隣にいようものならぐちぐちと意味のない非論理的な説教をぐちぐちと言ってきているだろう。別に耳を貸す気なんて微塵もないけども。時間の大切さを理解していないからな。厄介なことは厄介だ。

 

 目的地は王宮から離れたところにある侍女たちが暮らす北東側の30メートルの高さのろうそくのような建物だ。

 男子禁制の場所なので、こっそりとお忍びで行かないといけない。無論、隠し通路については地図作りの段階や、夜の空いた時間などに十分に調査している。きっと面倒くさいあの愚かな騎士は城内に隠し通路なんて微塵も知らないだろう。そもそも、少しも存在の有無についてを考えたことすらないだろう。


 目的の部屋に着き、ちゃんとノックしてから部屋に入る。返事など聞かない。却下されようとも入らなくてはならない。これからの展開を見越して少しでも話がしたい。

 部屋はお世辞にも広いとは言えないし、塔の形状仕方ないがバームクーヘンみたいな形だ。四畳半信者の僕としては、円形はどうも好きにはなれん。


「あら? 夜這いですか勇者候補様。衛兵を呼びますわよ」


「今更、そんなつれないこと言うなよ。二日も一緒に夜を過ごした仲じゃないか」


 白いシルクのネグリジュ姿の黒髪の乙女が素朴な木製の椅子に腰を掛けていた。

 お目当てであるこの人物はこの展開で言わなくても分るだろう。彼女がこの国のお姫さんであるレイ・アルマーズ様だ。

 実は昨日も会って話しているけど。その時はお姫さんモードじゃなかったからな。街にいそうな地味だけど美人な女の子だった。


「何のことかしら? 貴方とは儀式の日に会ったきりではなくて?」


「昨日はおさげにしていたよな。僕としての好みは今見たく髪を縛らないで伸ばしている現在の方が好きけ

ど。服は前みたいな素朴な感じの方が似合うと思うぞ」


「…………私が街の娘に混ざっていたことに気がついていたの?」


 お姫さんは怪訝そうな声で聞いて来た。ただ、分からなくもない。昨日から見た感じでは誰もお姫さんの変装には気が付いている様子はなかった。だから、一度しか公式上であったことのない僕に見抜かれたのが心外だったのだろう。外見のイメージが強すぎる分、それを少し隠せば案外気が付かれないものだろう。


「お姫さんの無能の騎士は本当に気が付いていなかったけどな。長い間の付き合いだろうに。あいつ本当に、鈍感系主人公だよな。バックログなし、セーブなしだと、あいつを主人公にしたのはかなり難易度高かったわ。叶うなら、やり直したい。ぶっちゃけ、もう選ばない」


「…………本当に私とエドを結びつけるのですか?」


「僕はつまらない嘘は言わない」


「…………そうですか。頑張ってください」


「完全に他人事か。道のりはかなり厳しそうだな。騎士がお姫さんを好きなこと知っているだろ。そこんところはどう思っているんだよ?」


「私は幼い頃から勇者と結ばれるために様々な教育を受けてきました。なので、恋慕など安い感情は私にはありません」


 美少女ゲームではよく見る典型的なお嬢様タイプ。この手のキャラは基本的に猫を被っているパターンが多い。それに、見るからに顔はそんなこと言っていない。恐らく、勇者と結婚なんて御免だが、しないといけないなら仕方ないからする程度だろう。推測だけど。


「あっそ。つまらない嘘をつくな」


「……………妖怪め。人の心を覗くのが趣味なの?」


 はっとお姫さんは口を隠した。今まで、お利口さんだったお姫さんからとんでもない暴言が飛び出した。これには流石の僕も驚いた。


「マジかよ」


「うるさい。死ね……………あれ? 何で、思っていることがそのまま口に出るのよ」


「僕に言われても困る。と言うか、予想は出来ていたけども、口に出さないだけで心の中の言葉使い悪いな。本当にお姫さんかよ」


「お姫様ですけど何か? 私だってね。好きでお姫様やっている訳じゃないの。王家の人間に生まれたから仕方なくやっているだけ。別に、化粧にも服にも。そもそも。顔にも興味なんて微塵もないわ。お父様や侍女たちがうるさいからやっているだけで。生まれるなら、どこかの田舎貴族が良かったわ。そうすれば、自由に街に出て好き放題遊んで暮らせるのに」


「結局、金持ちにはなりたいのかよ」


 発想がニートすぎる。一癖ぐらいはあるとおもっていたが、これは強すぎる。鍋に入れたら間違いなく味が変わる。えらく癖が強い。


「ねぇ、聞いてんの?」


「聞いているよ。ただ、あまりにも急に変貌したから少し。いや、かなり引いていただけだ。安心しろ」


「安心できない。明日どうしようかしら。このままお父様と話したら、絶対に叱られてしまうわ。年寄りだから、本当にひと眠りできるくらい説教が長いのよ。聞く方の身にもなれって感じよ。なんかイライラするわ。あんたも少し付き合いなさい」


 そう言って、お姫さんは党の窓を開けて、チリンとベルを数回鳴らした。


 長くなりそうなのでベッドに腰を下ろした。部屋に椅子が1つしかなく、それをお姫さんが使っていたから仕方なく。別にやましいことなど考えていない。女子の部屋に緊張したりなんてしない。僕だって、いい大人だ。


「人を呼ぶなよ。お姫さんの騎士にバレたら面倒くさいんだぞ」


「心配性ね。チキン。バレていないと勘違いしているようだけど、夜なんて昼間と比べても断然に静かなの

だし、特にこの塔内は構造上とても良く音が響くのよ。流石に、侍女たちも貴方だと分からなくとも誰か来客が来ていることくらい無能ではないのだし、察しているわ。だから、私を犯しにでも来たのなら一応、止めておくことを勧めておくわ。そう言っても、男子の下半身の獣は抑えられないわよね。無駄なことを言ってしまったわ。チキンな勇者さん」


「……………もっと早く言えよ」


「そしたら、もっと早々に犯そうとしたかしら?」


「矛盾してんぞ。大体、お姫さんなんかここで犯しても僕にはミトコンドリアほどもメリットは存在しない」


「野外プレイが好みかしら? この鬼畜変態勇者」


「本性の癖が酷い。マジで相手するのが面倒くせぇな」


 と、言いつつも本当はこっちの方が思春期真っ盛りの女子みたいで話しやすい。単純に慣れていると言った方が正しいかもしれないけど。顔の関係で、女子と話す機会の方が断然、多い。


「セックス?」


「難聴が酷い」


 変態お姫さんと会話していると、こんな時間だと言うのに扉を誰かがノックした。

 心臓が飛び出るかと思うくらいビビった。

 だが、あくまで態度は冷静に。ビビっているなんて思われたくはない。

 どうぞとお姫さんが言うと、若い女の人が高そうな銘柄のワインとグラス二つと奇妙なおつまみをトレーに載せて持ってきた。若い女の人は僕を見ると、何も言わず一礼して部屋から出て行った。


「何をビビっているのよ。彼女、私の友達だから面倒になりそうなことは言わないわ。ほら、飲みなさい」


 普通に未成年なんだぞ思ったが、異世界に来てまで律儀に愛国心の欠片もない僕が日本の法律を守る必要もないだろうと、グラスを受け取り、酒を一口だけ口にした。

そして、すぐに吐いた。


「トマトジュースじゃないのよ」


「…………まっずい」


 酸味がきつく、炭酸も強い。のどが焼けるかと思った。酒には年齢的に詳しくないけど、アルコール濃度が高いやつだ。


「まだ酒のおいしさが分からないの? 子供ね」


「見た目は完全に同い年なんだが?」


「失礼ね。私はもう18歳よ。立派な大人よ」


「あんまり歳変わらないじゃないかよ」


 僕の方が年下だけど、それは内緒。僕に対して、姉ぶるのは一人でいい。


「そういうところが子供よね。酒なんて大してどれも美味しくなんかないのよ。でも、この酒飲むことによって酔う感じがいいのよ。普段から、猫被って優等生を演じないといけないからストレスが超絶溜まるのよ。だから、こうしてストレスを解消しているの」


「なんとなく事情はお察しするが、酒不味いは爆弾発言だよな。ネットで炎上するぞ」


「何を言ってんの。意味が分からないね。それでね。頑張って小さい頃から努力して、心でどう思おうと模範解答が出るように訓練したのに…………貴方と話していたせいで出来なくなっちゃたじゃない。どうしてくれる訳?」

 

 お姫さんは涙目。子供から理不尽な八つ当たりを受けている気分だ。


「仮にだ。出来きていたことが出来なくなったのが僕のせいだとしよう。なら、原因は僕にきっと心でいつも罪悪感ないしは気にしていたことを当てられ、軽いパニック状態になっているだけだ。少し前にとある野球選手がいた。彼はとても独特なフォームが売りだった。教科書とはかけ離れた僕からすれば、効率とは無縁だったが戦績は誰よりも良かった。それがある日だ。実の息子になんであんなに人とは違うフォームなの? 普通にやった方がもっと凄くなれるんじゃないのかと。誰もが思っていたことを直接聞いた。その時、彼は答えられなかった。それから彼は一気に戦績が下がったと言う。つまり、そういうことだろう…………聞いてないな。て、酒をもう飲まない方が良くないか。顔が赤くなってトマトみたいになってんぞ。お姫さんやい」


「そう。さっきからお姫さん。お姫さん。お姫さんと呼ぶけどね。それ名前じゃありませんからね。馬鹿なの。たかが、2文字も覚えられない? チキン野郎」


「…………今更そこかよ。てか、チキン野郎ってそんなに罵倒の万能用語じゃないぞ」


「それに貴方は随分と良い度胸していたわよね。何がゼロよ。嘘をつくならもっとまともな嘘なかったの? センスの欠片も感じないわ。ダサいわ」


「まさか、5日も経過してそこを言われるとは予想外だよ。皆、慣れたのかと思っていたよ。それに僕が中二病みたいな恥ずかしい名前を名乗ることになったのはお姫さんの責任でもあるんだからな」


 酔っ払いウザいな。大人は何で酒なんて飲むんだよ。


「まだ、お姫さんって言った。馬鹿にしてんの?」


「そもそも、あんただって僕の名前一回もここまで呼んでないからな。あと、人の話を聞け。お互いがそれぞれ言いたいことを言ったら会話にならないだろ」


「そうね。レイって呼んでくれたら聞いてあげないこともないわ」


「その発言に話を聞いてもらえていたことに確信が持てたからいらないわ」


「呼びなさいよ。何が不満な訳? もしかして、DT?」


「最後のは、この件とは関係皆無だよな。馬鹿にしてんのか? それなら戦争しても構わないのだが?」


「あんた、出会って直ぐの初対面の相手のことヤリチンとか言いながらやりまくっている訳? 人呼びますよ、ド変態」


「僕は童貞です。これで満足かよ」


「おかわり」


 素敵な笑顔でお姫さんは言ってきた。どっちが鬼畜だよって話だわ。反射的に、


「…………お前は鬼かぁぁぁぁぁぁぁぁァ」


 叫んでいたら喉が酷く乾き、その場にあった酒を不味くても良いから口にした。相変わらず、美味しさは

分からないけど疲れてきたせいか、二度目、吹き出しはしなかった。


「それでそこの勇者、名前なんて言うの? もしかして、レイとか…………そんな偶然ないわよね。結構、変わった名前よ…………もしかして、図星なの? あ、たからゼロなのね。そのままじゃない。センスの欠片も感じないわね」


「…………咄嗟に考えたんだから仕方ないだろ。正直、僕も変わった名前だと思ってこれまでの人生を生きてきたから、被るなんて全く思っていなかったよ。てか、センスないないうるさい」


 どうやら本当に来ない方が良かったらし。僕もきっと慣れない戦闘訓練なんてしていたおかげで、選択肢を大幅に読み間違えてしまった。僕もまだまだ未熟だ。

 それしか飲むものがないからとなれない酒を僕もなんだかんだトータルではかなりの量を飲んでいた。お姫さんはワインのビンが空になるととすぐに侍女に持ってこさせるから、無くならないはでかなりの無限悪循環ではあった。

 部屋に来てから1時間くらいで既に半分くらいは酔っぱらっていた。

 目の前のお姫さんは僕なんか比じゃないくらい飲んでいたけど。後半はタコみたいに顔が真っ赤だし。


「それでね。あ、そうだ。これおつまみ。勇者君、酒は全然、飲んでないけどあげるわよ。私って、心超絶広いからさ。お姫様だしね」


「…………いらないわ」


 おつまみとして出てきたのは、カブトムシの幼虫みたいなイモムシを油で炒めて香辛料で味を付けたような独特の料理。

 そう、実はこの国では昆虫のは豊富な栄養があり、高級食材と呼ばれている。初めは騎士の嫌がらせか冗談かと思ったが、やはりそうらしい。あの阿呆な騎士が何度も勧めてくるのを全力でかわし、ほとんどパンオンリーな炭水化物オンリーな食生活を送ってきた。

 ヒロインは酒をラッパ飲みしながら、美味しそうに昆虫をフォークで食べている。

 正直、こんなお姫さん(おんな)を美少女ゲームのヒロインに据えようものならきっとギャルゲー製作会社は一日でユーザーによって燃やされるだろう。少なくとも今の絵画だけは最悪なこと間違いない。

 ここから先の出来事は夢であったと後々は思うようにしている。そうでないと、恥ずかしくて死んでしまう。

 断ったが、ここ最近はパンしか食べてしなったのでスパイスのいい香りが鼻腔を刺激し、餓死するのではないかと思うくらい急に腹が減ってきた。それが少しなら食べてもいいと思わせてしまった。


「はぁ。全く、ノリが悪いわね。そんなのでは持てないわよ。童貞勇者さん」


「余計なお世話だ、変態王女」


「変態ですって。この超絶純潔美少女の私に向かって。今の発言は万死に値するわ。腹が立ったし、無理やりでも食べさせてやるわ」


「やって見ろよ。ほら、あーん」


 僕は口を開けて挑発する。何度も言うがこの時の僕は阿呆であった。


「やっぱり無理やり食べさせてやるとか言って、お姫さんが殿方の口に食べ物を運ぶような下品な真似は出

来ないわな。僕が悪かったって」


「…………口を開けなさい。私みたいな経験豊富な超絶美少女はもうワンランク上だからね。私、大人だし。女神だし」


 そう言って、口に半分イモムシを含んだ状況で、ベッドに腰を掛けてきた僕の方にやってきて、口と口を合わせた。しかも、こちらにイモムシを渡そうとベロまで出してきて、結果として僕はディープキスをした見たくなった。が、そんなこと些細なことだとそこを深くは考えなかった。


「大丈夫。超絶大人の私がだから可能な芸当だから。まぁ、DTには刺激が強すぎて。無理でしょうけどね」


「馬鹿なことを言うな。僕ならもっと凄く出来るわ」


 イモムシを手で取り、口写しでイモムシをお姫さんに渡しながら、ベッドに押し倒した。


「…………やるわね」


 照れるシーンであるはずが、お姫さんは良いパンチ食らったボクサーのような表情をしている。


 それから、この無駄な過激にイモムシを食べさせてあげる勝負が延々と続き、やがてイモムシは全く関係なくなってただひたすらHなことをしていただけだった。


 側から見ていれば、ただのバカップルのイチャイチャだが、本人たちはそんなことをしている自覚は微塵もない。それどころか狂った頭を総動員して、相手に勝つことだけ必死に考えて行動していた。あとから思えば、変な薬でも入っていたのかもしれない。


ほんと、酒って怖い。

 

 


 

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