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高校生の私が中学生になった理由(わけ)  作者: 一色 舞
第一章 私の決意と君の強さ
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 ころんと自室のベッドの上に寝転がり、ぼんやり天井を見つめる。少し汚れてるから、大掃除は頑張らないといけないかな……なんて、どうでもいいことが思い浮かぶ。


「皆勤賞、狙ってたのになぁ……」


 こぼれた愚痴は、一年生のときから狙っていた皆勤賞。

 昼間にお母さんと一緒に病院へ行ってきた。今まで一度も学校を休んだことはなかったのに、病院に行くからと無理やり休みにさせられてしまった。

 病院っていうだけで疲れちゃうのに、検査だからその倍は疲れる。また検査結果が出たら聞きに行かないといけなくて、それもちょっと嫌だななんて思って。


 とはいえ、土曜日は病院が休みで、学校帰りでは遅くなってしまい無理だったのだから仕方がない。


 ピロンと音がして、スマホがメッセージの通知を知らせる。


「んんっ?」


 枕の横に置いていたスマホを手に取って、表示された文字を見る。相手は部活終わりの恭介からで、今から帰るという内容だった。

 私が文字を入力していくと、すぐに既読の文字が付く。


 ▼ 検査は大丈夫だったのか?

 ▽ うん。結果が出るのに、ちょっと時間がかかるみたい。検査自体は問題なかったよ~!

 ▼ ならよかった。ぱくチョコ買ってってやるよ! 好きだろ?

 ▽ 駄目!

 ▼ なんで?

 ▽ ニキビができちゃうから、今は制限してるの!


 このままぱくチョコを食べ過ぎれば、またニキビができてしまう。杏にもらって食べたぱくチョコ以降は、チョコレート系のお菓子を口にしてはいない。


「いや、本当はすっっごーく食べたいんだけどね」


 検査結果が出て問題なかったら、お祝いと称していっぱい食べちゃおう。しかし美容のためには堪えないといけないこともある。とりあえず、今は耐えるときだ。

 お風呂に入ったらパックもして、夜更かしもしないで早く寝よう。


 ピロンと鳴ったスマホを見ると、恭介の(笑)というメッセージを受信していた。


「まったく、こっちは真剣なのに! 恭介だって、美容にはこだわってると思うんだけどなぁ」


 柔らかな黒髪はきちんと揃えられていて、指通りもいい。肌も綺麗だし、服のセンスだってある。ただまあ、実はそれを高校デビューともいうのだけど。

 もやもやしながらスマホを眺め、階下から聞こえる「お風呂に入っちゃいなさーい」というお母さんの声。検査で疲れただろうから、早くお風呂に入って早く寝なさいということだろう。


「すぐ入る~!」


 部屋着と下着を用意して、私はお風呂場へ向かう。病院に行ったりするのは疲れたけど、結果が出て安心できるのが一番いいからね。



 結局、倒れた日以外に痺れはこなかった。

 だから私は特に気にもせず、毎日学校に行って部活をして、楽しく過ごしていく――のだろう。




 ◇ ◇ ◇



「おやつ、おっはよ~!」

「休むなんて珍しいからビックリしちゃったよ。部活で倒れたって聞いたけど、大丈夫なの?」

「でも、元気そうだからよかった!」


 登校すると、私が休むなんて珍しいとみんなが口々に心配そうに声をかけてくる。


「おはよう。検査はしたけど、大丈夫だと思うよ!」

「よかった~!」

「おやつに何かあったら、旦那が悲しむからね。今日なんて、教室の前まで来てたでしょう? 森君!」


 一学年下のはずなのに、クラスのほとんどが恭介の存在を知っている。登校時や昼休み、帰りにちょこちょこ顔を出すから。すっかり溶け込んでしまっている。

 自分のクラスとはうまくやっているのか心配になるけれど、恭介のことだから上手くやってるのだろう……なんて、気楽に考える。


「そういえば、一限の英語って予習してきた? 今日、うちらの列当てられるよ!」

「えっ!? 何それ知らない……!」


 急いで英語の教科書を開きながら、教えてくれた美香に場所はどこだと問いかける。あははと笑いながら指を差された場所を確認して、自分が当たるであろう場所を見て――うわ、一番の長文だ!

 ぎりぎりと唇を噛みしめながら、「どうして誰も教えてくれなかったの~」とついつい涙目になる。

 いつも教えてくれる杏をチラ見すると、「忘れてたー」と手を合わせられる。あああ、もう今からやっても私の英語力じゃ授業が始まるまでに間に合うかどうか……。


「杏、ちょっと見せてー!」

「ごめん予習しない派だからー」

「そうだった!」


 頭の出来がいいから、杏は基本的にすべてを授業中だけですますんだった。ぐぬぬと唸りながら、私は仕方なく教科書に目を落とす。

 わからない単語を辞書で引きながら、文法は杏に教えてもらう。


「これ以上英語の出来がわるくなったら、進学できないよ……!」

「旦那と同じ学年っていうのも、楽しいかもよ?」

「やだよ!!」


 それだけは断固拒否だよ!!

 恭介はしっかりしていて、一瞬どっちが年上だったか忘れてしまうことだってあるのに。せめて年齢と学年くらいは上のままでいさせてほしい。


 朝のホームルームが始まる前に半分ほど訳すことができたので、きっとギリギリ当てられてもセーフだろう。

 美香と一緒にほっとしながら、授業開始のチャイムを聞いた。



 先生がくるまでならばいいかと、ぽちぽちスマホをいじる。

 見ると恭介からメッセージがきていて、今日は部活が早く終わりそうという連絡だった。いつも一緒に帰っているので、こういうときは、どこかに寄り道をするのが定番パターン。


「アイス……いや、でもニキビが……でもでもアイスなら大丈夫かな?」


 チョコを食べなければいいから、帰りにアイスを食べようと返事をする。


「なあに、デートの約束? いいなぁ~」


 前の席に座っていた美香が振り返り、口元を手で抑えながら私に問いかける。表情はにやにやしていて、間違いなく私を


「美香! 勝手に聞かないでよっ!!」

「おやつの独り言が大きいんだって。みんな聞こえてたよ?」


 やめてーと言えば、美香は笑いながら「ね?」とクラス中に問いかける。すぐに笑いが起こったので、間違いなくみんなに私の残念な独り言が聞こえていたらしい。

 今日は朝からいいことがないね……。


 いつもなら来るなと思うのに、こういうときは先生よ早く来いと思ってしまう。我ながら調子がいい。なんて考えてると、十分ほど遅れて先生がやってきた。

 時間に厳しいくせに、めずらしい。


「授業を始める前に、菓子」

「はい?」


 え、私?

 名前を呼ばれて、いったい何だろうと首を傾げる。すると先生が、「帰り支度をして職員室へ」と告げた。


「……? 何かありました?」

「話は担任に聞いてくれ、私も内容は聞いてないんだ」

「はい」


 わけがわからないけれど、先生も知らないのならば仕方がない。スクールバックに教科書をしまって、「お先にー!」と言いながら教室を横切る。

 途中で杏から「何かあったの?」と聞かれるけれど、「わからない」とだけ返す。


「わかったら連絡するよ」

「ん。アイスは私が明日付き合ってあげるよ」

「ああもう、杏まで聞いてたの!?」


 杏の席は教室の入り口近くなので、窓に近い私とは結構離れているはずなのに。にっと笑う杏に「ありがとー」と返して、ついでに授業のノートを見せてもらう約束をする。


 ちらりとスマホを見ると、お母さんからメッセージが入っていた。何かあったらしいことだけは理解できたので、私はそのまま教室を後にする。

 私の後ろの席以降、当たる順番がずれるから悲鳴をあげていたけれど……それはもちろん、聞かなかったことにした。

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