表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生の私が中学生になった理由(わけ)  作者: 一色 舞
第五章 最後の告白
PR
24/27

1

「きょうすけっ!」


 名前を呼んでから、ハッとする。

 ――体が、動かない。


「……?」


 あれ?

 神社にいたはずなのに、いったいどういうことだとクエスチョンマークが浮かぶ。


「ここ、病院だ」


 ぼうっとした視界に写る、白の天井。

 私の腕に繋がっているのは点滴で、とてもじゃないけれど、今しがた神社でユキちゃんを保護して恭介にすべて打ち明けたとは思えなかった。


 ……もしかして、長い夢でも見てたのかな?

 なんて考えが脳裏をよぎる。

 だって、普通に考えて人間が過去に行けるわけがない。


「私の体は、変わらず病気だね」


 あれ?

 再び、私はクエスチョンマークが浮かぶ。


 記憶に間違いがないのであれば、私は退院して自宅療養に入ったはずだ。それが病院のベッドで寝ているということは、かなり病状が悪化してしまったということだろうか?

 長い間眠っていたのであれば、過去にいくという壮大な夢を見たことも納得できなくもない。


 ……今は、夜中だよね。

 首をゆっくり動かすと、外が暗いということがわかる。しんと静かな病院内に、聞こえるのは私の息遣いと寝息だけ。


「……ん?」


 寝息?


「あれ? 足の方がちょっと重い?」


 私は体が自由になるのを待ってから、ゆっくりと体を起こす。その際、目に入った時計で今が深夜の二時だということが確認できた。

 ……面会時間外なのに。


「どうしてここにいるのかな、恭介」


 そう、私の足に重みを与え、規則正しい寝息を立てていたのは……恭介だ。

 私が何度も別れようとして、でもそれに頑なとして頷かなかった大好きな人。今の恭介の顔を見るのは、久しぶりだ。

 私は体を前に倒しながら、突っ伏して寝てしまっている恭介の髪を撫でる。

 さらさらの黒髪は短くなっていて、高校デビューしている恭介だと思わず笑ってしまう。今さっきまでのやぼったい恭介が、ここまで大変身するなんて、きっと誰も考えていなかっただろうなぁ。

 私は恭介が実は格好いいってことは知ってたけど、高校からいきなりイメチェンするとは思ってなかったからね。


 おかげで、恭介がモテ始めるから私は気が気じゃなかったけれど。


「……起こそうかな」


 こんなところで寝ていたら体が痛くなりそうだし、何より疲れが取れない。この部屋に仮眠用のベッドはないけれど、ソファの方が幾分かましだろう。


「恭介、起きて」

「…………」

「おきて~」


 肩をゆすってみると、よっぽど疲れていたのかぴくりともしない。


「ずっと付き添ってくれてたんだろうなぁ」


 思わず、頬が緩んでしまう。

 誰かに恋をするのは楽しいけれど、誰かに一途に想われることはこの上なく幸せで、贅沢だ。


「というか、付き合わない未来にもできなかったし」


 本当、恭介には敵わない。

 私は寝ている顔を眺めながらも、そのほっぺたをむにっと掴む。さすがにこれならば起きるだろうと思えば案の定、恭介が「うぅん」と声をあげる。


 眠そうに目を擦って、ぐっと伸びをしようとした恭介が――制止した。そしてその首だけが、まるでギギギと音が鳴りそうなほどゆっくりとこちらに向けられた。

 瞬きすら忘れてしまっているらしい恭介に、私は思わず笑ってしまう。


「おはよう?」

「…………」


 夜中だけれど朝の挨拶をすると、恭介はこくりと頷いた。


「えっと……面会時間外なのに、付いててくれたんだよね? その、ありがとう」


 いまいち事情が呑み込めないけれど、恭介が私のために時間を割いてくれたのは確かだ。素直にお礼を告げると、恭介の目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。

 突然のことにびっくりして、けれどそれよりも……私のこの状況が、ひどく心配をかけてしまったのだろうということがすぐに想像できた。


 なんて声をかければいい? そう考えている間に、恭介が口を開いた。


「……神社でユキを拾ったとき、一緒にいたひまりは、おやつじゃなくてひまりだったんだな」

「え……?」


 ドクンと、私の心臓が音を立てる。

 ドッドッドッと、かつてないほどに悲鳴をあげている気がする。だって、恭介の言った言葉を理解するのに――理解するのに。


「恭介……?」


 なんでそのことを知ってるのと、言葉にしたいのに上手く声にならない。

 ああ、でも待って。

 恭介がそれを知ってる――覚えているということはつまり。


「私のこと……っ!」

「うん」


 恭介の手が伸びてきて、私の頬を包み込む。


「全部、ユキを保護したときひまりに聞いた。もう余命がないってことも」

「……ならっ」

「別れない」

「!」


 私が何を言おうとしているかなんて、簡単にわかる。そう言うように、くしゃりと笑う恭介。


「お前がいなくなったって、おばさんがうちに駆け込んできたんだ」

「!」

「散歩か何かで、そこまで大袈裟にしなくても……って思ったけどさ。おばさんの様子が尋常じゃなくて、そのとき、ひまりは俺が考えてるよりもずっとずっと深刻な状況にあるんだって思った」


 我が家と森家が総出で私を捜してくれたらしい。

 そういえば神社で動けなくなって、そのまま過去の世界に行ってしまったんだった。……ということは、恭介か誰かが神社で倒れていた私を見つけてくれたってことだよね?


 ……うわ、かなり相手の心臓に負担をかけてしまったんじゃないだろうか。

 嫌な汗が背中を伝い、恭介を見ると目の奥は笑っていない。


「杏先輩も、探すの手伝ってくれたんだぞ。あと、捜してるときに通りかかった陸上部の顧問の先生」

「え、そんなに?」

「そうだよ! みんな、ひまりのことが大事だから協力してくれたんだぞ」


 ぺちんと、私の額に弱いデコピン。


「全然痛くないよ……!」

「ばかひまり」

「皆に謝ります」

「よろしい」


 サイドテーブルに置いてあったスマホを手に取り、しかし今が夜中だった。スマホの時計はもう二時半を指していて、さすがに連絡するには遅すぎる。

 ……先生は明日電話するとして、杏だったらまだ起きてるかな?


 どうしようか悩みながらも、メッセージアプリを起動してポチポチと文字を入力していく。


「ええと、ご心配おかけしました、起きたよ! っと」

「杏先輩ならまだ起きてるだろ。俺はちょっと看護師さん呼んでくるから、ひまりはベッドから動くなよ」

「え、あ……うん」


 ナースコールがあるから大丈夫、そう言おうとしたけれど――それより先に恭介が病室から出て行ってしまった。

 冷静に見えて、実は内心かなり焦っていたのだろうということがわかってしまった。


「どれだけ迷惑かけちゃったんだろう、私」


 頭を抱え込んで、ベッドに沈み込もうとしたところで――今度は私のスマホが鳴った。

 画面を見ると、杏から着信。メッセージは一瞬で既読になり、早く電話に出ろと言わんばかりにコール音がしんとした室内に響く。


「……杏」


 画面をタップして、テレビ電話を起動する。

 すると、すぐに焦った様子の案が映る。髪はしっとりしていて、直前までお風呂に入っていたことがわかる。もしかして、私がメッセージを送ったから慌てて上がったのかもしれない。


「おやつ! ああよかった、本当におやつだ!! 目が覚めたんだね、ほっとしたよー」

「ごめん、杏も捜してくれたって恭介に聞いたんだ。心配もかけちゃって……」

「いいよ。言いにくいことなんていっぱいあるんだからさ。私は、おやつが無事ってだけでよかったよ」


 画面の向こうで杏が髪を拭きながら、「でも」と言葉を区切る。


「旦那のことは、覚悟しておいた方がいいかもねー」

「え、恭介? もうデコピンされたんだけど……」

「デコピン!! 可愛いねー」


 杏が、「そっかそっかー」とにやにやしている。


「おやつを見つけるまでは泣きそうだったんだよね、ずっと。でもさ、神社でおやつを見つけたって言ってから……なんだかふっきれた感じだったから」

「!」


 私はぱちりと、目を瞬いた。

 神社……? ということは、私が戻ってきたときに恭介の記憶に変化があったってことなのかもしれない。


「別れたいって、言ったんだって? でもね、私の一生を賭けてもいいよ。おやつと森君は、絶対に別れない」


 そう言った杏の声が、耳から離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ