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ドーンと大きな音を上げて、花火が空に花を咲かす。
「おー、結構規模がでかいんだな」
「綺麗だねぇ」
山の途中にある広場、大きな石に腰かけて夜空を見る。……恭介と見るのはこれが二度目の花火だけど、何回見てもいいものだと思う。
「花火ってさ、打ち上げるのが結構大変だって知ってたか?」
「あ! それって先週テレビでやってたやつだ」
「なんだ、見てたのかぁ」
残念。
そう言いながら、恭介は岩の上に寝転がって空を見る。
「最近の花火は遠隔でスイッチ押せばいいらしいもんね。昔は結構大変だったみたいだけど……」
「それでも作ったり設置はかなり大変みたいだけどな。火薬の量も多いし」
技術は日々進歩していくんだなぁ。
私が今ここにいるのも、もしかして技術の進歩なんだろうか。なんて、思ってしまう。さすがにタイムマシンを作れるほど技術の進歩はしてないもんね。
……というか、タイムマシンは技術力でどうにかなるものなんだろうか? わからないね。
そんなどうでもいいことを考えていると、ドドンドンドンと大きな音が夜空に響く。そしてすぐに、大輪が花を咲かす。
「おー、花火連打!」
「すっげぇ! ここまで降り注いできそうだな」
「火種が振ってきたら、大変だよー」
火傷どころじゃないよと笑いながら、私はスマホを取り出して写真を撮る。操作をミスって、カシャシャシャと連写してしまう。まるでコマ撮りアニメみたいだ。
……しかし、ぶれる。
自分で撮った写真を見て、少しへこむ。もしかして手ぶれ補正がない? そんなことを思って確認するがちゃんと手ぶれがオンになっている。
ひょこりと私のスマホを覗いてきた恭介が、見た瞬間噴き出した。
「おやつ、写真撮るの下手だな……!」
「ちくしょう……」
「ほら、俺が撮ってやるよ」
そう言って、恭介が私の手からスマホを奪ってパシャリと花火を撮る。寝転がって撮るから、座ったままの私からはどんな写真が撮れているのかわからない……。
寝ころんだら服が汚れそうだと思ったけど……まぁ、いっか。私の恭介の横に寝ころんで、花火に向けてかざしているスマホの画面をのぞき込む。
スマホ越しに綺麗な花火が見えて、「おおぉぉ……」と関心してしまう。
カシャカシャと何枚か写真を撮るのを見て、私は感心する。
「すごく綺麗に撮れてる! びっくり、恭介にこんな才能があったなんて!!」
画面に収まる花火は少しのブレもなくて、うっとり見つめてしまう。
すると恭介が笑って、「違う」と声をあげる。褒めているというのに、いったい何が違うというのだろうか。首を傾げて恭介を見ると、にやりと笑われた。
「俺に才能っていうより、おやつが写真撮るの下手すぎるっていう才能だろ」
「えぇぇ?」
まさか私に才能がないと言うなんて!
そうかなぁ……花火が難しいんじゃないかな……?
「ほかの写真は綺麗に撮れてるんだよ、ちょっと貸して――」
「まだ撮るから、それは今度でいいよ」
「えー」
写真を見せようとして、恭介からスマホをもらおうとしたけど拒否される。私のスマホなのに。そのままカシャカシャと写真を撮って、「ほら」と私に見せてくれる。
拡大して撮ったものや、引きから撮ったもの。いろいろなパターンで撮るので、見ていて飽きない。
じっとスマホばかり見る私に、恭介が笑う。
「撮るのもいいけど、ちゃんと見ようよー」
「それもそうだな」
スマホは後でいいと考えて、ごろんと寝転がった岩の上から花火を見る。結構時間が経ったから、もう少しで終わりかもしれない。
瞬きをするのも忘れるように見入る恭介を横目で見て、やっぱり来ることにしてよかったと思う。
夏は一瞬で過ぎちゃうけど、想い出は一生残るんだもんね。
「へへ……」
「なんだよおやつ、いきなり笑って……」
「うぅん。写真は撮ったけど、ずっと忘れないでいられるといいなって」
「記憶力的に厳しいんじゃないか?」
おやつ、そんなに成績よくないだろ? と、恭介がにやりと笑う。
く、それを言われると確かに言い返せない。私のテストの点数は知られているので、こういうときは恭介の方が有利だ。
「でも」
「?」
「俺はずっと覚えてる。おやつと違って、記憶力には自身もあるしな」
「一言余計だよ!」
なんだかせっかくいい雰囲気だったのに、最後の最後で台無しだ! そう声をあげようとして、ハッとする。
いい雰囲気になったら駄目なんだった!!
「ああもう、恭介め……!」
「なんだよ?」
「なんでもないよ。すぐ流されてしまう自分にがっかりしてただけ」
やっぱり恭介といるのは落ち着くし、楽しい。だからついつい喋りすぎてしまうんだ。ぷくっと頬を膨らませて、夜空を見上げて――ひときわ大きな、音。
きっともう終わりなんだろう。
次々と打ち上げられる花火が咲いては消えてを繰り返す、何十も打ち上げられた花火から、目が離せない。キラキラ輝くその景色に、胸が高鳴る。
「すごいね、恭介……!」
「ああ。虫よけがあってよかったよ」
「……うん」
ははっと笑う恭介に、私も一緒に笑う。
花火はその後すぐに終わって、けれど私は余韻を楽しみたくてしばらく無言で空を見つめた。
◇ ◇ ◇
温泉に入って疲れを取り、みんなが寝静まったのを確認して私は部屋を抜け出した。
どうにも落ち着かなくて……自販機でジュースでも買おうかと。コンビニがあればいいんだけど、あいにく車がないといけない距離。
それにほら……おばけがでたりしたらこわいからね。
「全敗かぁ……」
薄暗い廊下を歩いて、自販機の明かりまでやってきた。
何を飲もうか迷いつつ、これまでの作戦を思い出す。もちろん、恭介と付き合わない未来のための作戦だ。
オレンジジュース買い、すぐ横のベンチに座る。
蒸し暑い夜に、冷たい飲み物が私の喉を潤してくれてほっと息をつく。そのままスマホを見ると、時間は深夜二時。
「あ、さっき撮った写真でも見ようっと」
確か、前も恭介が私からスマホを奪って写真を撮ってくれたんだったと思い出す。あのときは、疲れ果てて寝てしまったから今みたいに抜け出したりはしなかったけれど。
「結局、そのときの写真……見返さなかったな」
大好きな恭介との想い出にドキドキしていたから、それだけで胸がいっぱいだった。なので今回は、写真をじっくり見るいい機会かもしれない。……記憶力も私はないようですしね!
画面をスワイプさせながら、新しい写真を見る。夜空に花火が映えて、すごく綺麗だ。
「人間の視覚は、写真とは違って見えるんだっけ……」
写真で見るより、実際の視覚で見た方が臨場感があってよく見える。
だから、実際に見たときと写真で見たときの見え方に差異がある。以前、何かの本で読んだだけだから詳細は知らないけれど……でも。
「そんなことない、綺麗だよ」
宝物になったよ。
「ほんと、きれ――え?」
そろそろ終わりかな? そう思いスワイプした画面に写っていたのは――私と花火。覗き込むような私の顔と、花火。
「え、いつ撮ったの?」
次の写真を見ると、私が撮ったぶれぶれの花火写真。
……ということは、こが最初の一枚なんだ。
途端に、顔が赤くなったことを自覚する。こんなの、反則だ。
「どうして、前のときは写真を見なかったんだろう」
なんとなく撮ったのかもしれない、なんて思わない。
だってこの写真、私にピントが合ってるから。本当、恭介には敵わない。
「……うれしい」
私の口から、小さく言葉がこぼれたのだった。