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高校生の私が中学生になった理由(わけ)  作者: 一色 舞
第三章 幸せとは?
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6

 夏休みも終わりに近づいて、私は三年生ということもあり部活へはほとんどいかなくなって――は、いなかった。走るのが楽しいので、部活が休みでも学校へ行って自主練をした。

 安村先生に「お前は走りすぎだ! もう少し遊べ!」と言われてしまうほどには。


 そんな充実した毎日は、次第に恭介と遊ぶ日数を削っていく。

 けれど、そんな時間はお母さんによって終止符を打たれた。ちょうど私が部活から帰ってきたタイミングで、リビングに入ると弾んだ楽しそうなその声。


 そしてお母さんは、容赦なく爆弾を落とすのだ。


「旅行に行くことにしたからね、ひまり。明後日から一泊二日で恭介君家と一緒に」

「え、聞いてないよ!?」

「あら、今言ったわよ」


 あははと笑いながらそう告げたお母さんは、「旅行の支度しておいてね」と言って買い物に出かけてしまった。旅行の必需品を、恭介のおばさんと一緒に買いにいくんだろう。


「旅行かぁ……」


 汚れた練習着を洗濯機へ入れ、自分の部屋へ行きスマホを充電器に差す。きっと恭介は旅行のことを知ってるだろうなと思いつつ、さてどうしたものかと考えを巡らせる。

 温泉旅行をした記憶は、もちろんある。その中の思い出に、重要なイベントがあったこともちゃんと覚えている。


「たしか、恭介と二人で花火を見たんだった」


 あれはすごく綺麗で、ずっと見ていたいとすら思えるようなものだった。

 でも、そう考えるとあの花火はやばい。絶対に回避しなければいけないイベントだ。森の中、二人きりで花火を見たのだ。

 あのときはドキドキして、嬉しい思い出だけれど――今となってはどうだろうか。


「絶対あれで私と恭介の距離が近づいたんだよ……!」


 どうしよう。

 そう思いながら、いっそ部活に行きたいからお留守番を名乗ってみようか。と思ったけれど、親孝行をすると決めたばかりだからそれはできない。


「……人生って、難しい」


 私は仕方なく、旅行の準備に手をつけ始めた。


 持っていくものは、着替えに、充電器に、日焼け止めに、化粧品に……ヘアアイロンも必要だ。一泊の旅行だというのにどんどん荷物が増え、何か減らすべきかと考える。

 こういうとき、男はいいなと思う。恭介の荷物なんて、確か着替えオンリーだったはずだ。仕方なく大きな鞄と小さな鞄の二つに分けることにした。




 ◇ ◇ ◇



「やー、いい天気でよかったわね!」

「本当にねぇ。恭介ったら、楽しみで昨夜あんまり眠れなかったのよぉ」

「あら、うちのひまりもなのよ~」


「…………」


 母親二人が車の前で雑談しながら、お父さんたちが車へ荷物を積み込んでいく。大きなワゴン車をレンタカーして、一台で温泉に行く計画だったらしい。

 父親二人が運転席と助手席、母親たちが真ん中のシートで、最後部は自然に私と恭介になってしまった。ある意味気を利かせられてるような感じもするけれど、余計なお世話だ。


 車に乗り込むとすぐ、恭介がコンビニの袋を取り出した。


「チョコもってきたぞ、おやつ」

「ありがと」


 恭介が「好きだろ?」と、私にたくさんのお菓子が入った袋を見せてくれる。告げた通りに、チョコレート、クッキー、ポテトチップス……「多いっ!」と思わず突っ込みを入れてしまった私は悪くない。

 若いとはいえ、さすがにこれを全部食べたらニキビが再発できてしまうだろう。


「だっておやつ、好きだろ?」

「そりゃ好きだけどね。旅館に着いたら美味しいご飯も出るんだろうし、そんなに食べれないよ」「あー、それは確かに」


 それに。


「あんまりチョコとか食べちゃうと、ニキビとかできやすくなっちゃうし!」


 それはよくない。


「なんだよ、そんなこと気にしてんのか? 全然できてないじゃん」

「今はそうだけど! あんまりいっぱい食べるとできちゃうんだよ、油断したら一瞬だよ!」

「大袈裟だなぁ、おやつは」


 高校生になってぱくチョコを食べ過ぎてニキビに悩まされていますからね!

 極力取らないにこしたことはない……はずだ。でもまあ、今は中学生だからちょっとくらい食べても大丈夫かな? 恭介の持っているチョコを手に取りパクリと食べる。


「おいひぃ~」

「あっさり食べてるじゃんか……」

「モグモグ」


 少しなら大丈夫、うん、少しなら。

 お菓子を食べて、ジュースを飲んで、目的地まで寝てしまうことにした。




 ◇ ◇ ◇



「あらあら、寝ちゃってるのね」

「まったくだらしないわねぇ……。ごめんね、恭介君」

「いえいえ……」


「……?」


 ふいに、人の話し声で意識が浮上した。

 ぱちりと目を瞬かせると、私を覗き込む恭介の顔。「起きたか?」そう言いながら、私の頭をポンとその手が撫でる。

 周囲を見ると、私の膝には恭介のジャケット。お母さんたちはすでに車から降りていて、旅館い着いたのだということがわかった。


「熟睡だったな」

「ごめん……」

「いや、いいけど。立てるか?」


 ぐっと背伸びをしてから、私は頷く。

 そういえば前のときも車の中は寝ていたんだったと思い出す。寝てしまうことにしなくても、もしかしたら私は寝てしまったのかもしれない。

 恭介と一緒に車を降りて、旅館へと入る。駅から離れている場所にあるので、静かな場所だ。観光とかはせず、ゆっくり温泉につかろうというのが今日のコンセプトらしい。


「母さんたちはすぐ温泉だってさ」

「一日中温泉に入ってそうだねぇ」


 恭介の言葉に笑いながら、部屋へ行って荷物を置く。お母さんたちはさっそく温泉に行って、お父さんたちは畳の上で昼寝をはじめてしまった。


「お茶入れるね。温泉饅頭食べる!」

「言うと思った……」


 部屋に備え付けられていたお茶とお菓子。旅館にきたら、まずはお菓子のチェックでしょう! それから、売店に美味しいお菓子が売っていないかチェック。

 夜に部屋で食べたり、お土産にしたり、帰りの車で食べたりね。


 私と恭介のお茶を入れて、お饅頭にかぶりつく。


「美味しい~!」


 なんだか食べてばかりのような気もするけれど、これは仕方ない。とはいえ、一人一個しかないからそんなにお腹が膨れるわけじゃない。

 のんびり食べていた恭介がテレビをつけると、ちょうど地域のニュースが流れて花火大会の話題が始まった。


「……!」


 そうだ、前回もテレビで花火大会のことを知ったんだった。恭介が、山の中で見るのっていいなとか笑って、私を誘うんだ。


「山の中で見るのっていいな、花火」

「……うん、そうだね。でも、虫が多そうで嫌だな」


 前はすぐ笑顔でいいよ! と返事をしたんだけど、今回はちょっとごねてみた。恭介はどう反応するだろうと様子を窺いながら。


「おやつ、花火好きだろ?」

「普通だよ」

「ふうん? まあ、虫よけ持ってきたから大丈夫だろ」

「え?」


 恭介が鞄から虫よけスプレーと取り出し、にっと笑う。

 準備がいいなと苦笑しつつ、でも……ずっと温泉に入る旅行でどこかに出かける予定なんてなかったのに。どうして虫よけスプレーなんてもってるんだろう?


 ――もしかして。


 たまたまテレビが話題にしていただけで、花火大会が近くで会って、山の中から見ることができるのを知っていた? そんな考えが、私の脳裏をよぎる。


「……きょうすけ」

「ん? なんだ、おやつ」

「うぅん、ありがと」

「? おう」


 私は花火大会へ行くことにした。

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