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高校生の私が中学生になった理由(わけ)  作者: 一色 舞
第三章 幸せとは?
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4

 私が過去に来てからも時は進み、夏休みに突入した。

 毎日暑いのにはまいってしまうけれど、家でじっとしているわけにもいかない。なんといっても、私には達成しなければならない使命があるのだから。

 というわけで、今日のお題はこれです!


「私の作戦その三、恭介以外の彼氏を作る! もしくは男子と仲良くする!!」


 今日は映画を見ようと、クラスメートと待ち合わせをしている。少し早めについたけれど、私がくるよりも早く相手がきているのを見つける。


 クラスメイトの、丹羽(にわ)君だ。


「おー、おやつ! 早いな」

「いやいや、丹羽君こそ早くない? まだ待ち合わせまで十分以上あるのに……」

「早く着いちまったんだよ」

「そっか」


 私が一緒に映画を見るのは、恭介ではない。

 考えた作戦は、私に彼氏ができれば恭介もあきらめてくれるんじゃないだろうか……というものだ。効果があるかはわからないけれど、私がほかの人と付き合えば恭介と付き合う未来は必然的に回避できるはずだ。

 ……利用するようで、丹羽君には申し訳ないけれど。


 あ、ちなみにお付き合いはしていない。

 今日はただのデート初日。

 思えば、恭介以外の男の子と二人きりで出かけるのは初めてだ。


「おやつの見たい映画って、なんだ?」


 丹羽君に言葉に、そういえばデートの口実を探して思わず映画を見たいと誘っただけなので何の映画を見るかまでは考えていなかった。

 どうしても見たい映画があるけど、杏も誰も都合がつかないから一緒に行こうと誘ったのだ。それなのに、特に見たい映画がないでは怪しさしかない。

 いけないな、どうしよう。


「え? あ、あーっと、あれ!」


 私は咄嗟に見えた映画のポスターを指さす。

 そしてポスターをちゃんと見て、早まった! と脳内で大反省。私が指さしたのは、アニメ映画だった。

 国民的アニメなので、一応まったく知らない内容ではない。……まぁ、初デートで見るラインナップではないよねと心の中で苦笑する。

 丹羽君も半笑いになっているから、アニメ映画を見るとは考えていなかったんだろう。

 だってこれじゃあ、ロマンチックのかけらもない。


 さて、丹羽君――とは。

 クラスメートであることと、もう一つ接点がある。

 それは彼も陸上部であるということだ。私と同じで、走ることが大好きな人種。大会にも参加していて、副部長もしている頼りになる存在だ。


 今思うと、よく私の誘いにオーケーしてくれたな……。

 そんなことを考えつつ、私たちは映画のチケットを購入した。


「ポップコーンと飲み物だな。ペアセットだとお得っぽいから、それでいいか?」

「うん。あ、ポップコーンにバターかけて!」

「おう」


 丹羽君のことを男の子として意識をしたことはないけれど、思ったより順調だ。混んでいる売店に並びながら、たわいもない話や部活の話題で盛り上がる。


「そういや……もうすぐ大会だけど、なんでおやつは出ないんだ? やっすんが涙目になってた」

「あー……」


 そういえば夏に大会があった。

 私はずっと拒否の意思を貫き通したので、ほかの子が選手として出ることになった。応援に行くかも決めていないので、曖昧な笑顔を返す。


 もしかして、丹羽君は顧問に私を気にかけるように言われてたのかもしれない。


「春は大会に出たいって、張り切ってたじゃねぇか」

「うん、そうだねぇ……」

「理由は言えないのか? てか、誰か知ってるやつはいるのか?」


 丹羽君の問いかけに、私は首を振る。

 私が未来から来たことを知る人間は一人もいないし、走れなくなる自分が大会に出ても仕方がないから走らないと言うわけにもいかないし。


「なんだよ、走るのが嫌いになったのか?」

「大好きだよ!」


 あきれたような言葉を聞いて、私は反射的に声をあげる。丹羽君が驚いて目を見開くが、すぐに「よかった」と言って笑う。

 ……ああ、心配をかけてしまった。


 恭介にあきらめてもらうためのデート相手に選んでしまったのに、これじゃあ罪悪感しか残らない。


「っと、前に進んだな」

「……ッ!」


 列が進んで、丹羽君が私の手を取り前に進む。のだけれど――私は思わず、嫌悪でその手を振り払ってしまった。

 普通に話すだけならまったく問題ないのに、どうしてか嫌だった。思わず自分の手を見て、触れたリアルな感触を思い出し眉が下がる。


「あ、わりぃ……」

「いや、その……私こそごめん」


 すぐ、丹羽君が謝ってくる。

 同じように謝りながらも、私は自分の反応にひどく驚いた。


 ――私が、恭介にあきらめてもらうために丹羽君を利用してるのに。

 酷い奴だ、私。


 その後のデートは、とてもじゃないがデートと呼べるものにはならなかった。


 恭介とはいつも手を繋いでたんだけどな。

 そう思って、少し考えて、やっぱりこの作戦はよくないからすっぱりやめることにした。




 ◇ ◇ ◇



 アニメを見て、お昼ご飯を食べて、デートも言えないこの催しは終わりを告げた。心の中で丹羽君にごめんなさいと呟きながら帰宅する。


 家が見えてくると、門の前に恭介が立っているのに気付く。


「……?」


 いったい何をしているのだろうと思っていると、私に気付いた恭介が大きく手を振ってこちらを見てくる。


「おかえり」

「ただいま」

「……なんか今日のおやつ、可愛い」

「そう?」


 デートだしと、可愛いスカートをはいていた。普段は走ることが多いから、私は滅多にスカートをはかない。だから今の姿は、結構レアだったりする。

 さらりと褒めてくれる恭介に少しドキドキしながら、「どうかしたの?」と問いかける。


「……いやさ、さっきおばさんがうちに来たときに聞いたんだけど」

「お母さんが?」


 なんだろう?

 何か恭介が聞きたがるようなネタを、お母さんが持っていただろうか。うちのお母さんは恭介のおばさんと仲がいいため、頻繁に互いの家を行き来することが多い。お茶したりね。

 ゴミ捨てのときにばったり会うと最低でも三十分は戻ってこなくなるから、たまに呼びにいったりするほどだ。


「おやつ、陸上部の大会でないのか?」

「!」


 なんかデジャブを感じるな。

 恭介には大会にでないことを言っていなかったけど、そういえば私は大会に出たいと普段から言っていたから、未来からくる前の私が「夏の大会に出るんだ!」と言ったのだろう。

 うん、そう言った記憶はちゃんとある。


 お母さんには、いつも大会のスケジュールとかを話してた。

 今年の夏の大会は、ほかの子を強化したいから私は出ないんだーと軽い報告をしていたのだ。


「うん。ほら、ほかの子とか、後輩とかにも大会の経験を積んでほしいしね」

「…………俺、おやつの応援に行く予定だったんだけど」


 拗ねた口調で、恭介が告げる。


「それにさ、もうおやつたち三年は引退じゃん。最後の大会だから、絶対負けないって……言ってたのに」

「あー、まぁ、別に高校でも陸上を続けるわけじゃないしさ」


 まだ進路は未定! そう告げると、恭介は「えっ」と動揺した様子をみせる。そのまま「熱でもあるのか?」なんて聞いてくる始末。

 確かに私から陸上を取ったら何も残らないかもしれないけど、その言い方は酷いよ!


 拗ねるように頬を膨らませると、恭介が笑う。


「なら、なおさら走れよ」

「え?」


 予想していなかった言葉を聞いて、私は首を傾げる。


「だって、陸上を続けないならほかの子に出場枠を譲った方がいいじゃん?」

「俺が見たいんだよ。おやつの走ってるとこ、好きだからさ」

「!」


 だから走れと、恭介が言う。


「それにさ」

「うん?」

「最後なら、それこそ後悔しないように全力で走ればいいじゃん。俺はおやつに走ってほしいし、そんな理由で譲る必要はないと思う」


 まっすぐ私を見て、恭介が少し照れて頬を染める。

 きっと自分らしくないことを言ってるとか、思ってるんだろうなぁ。ガシガシと頭をかきながら、「出ろ」と恭介が叫ぶ。


 不思議だ。

 恭介にそう言われると、大会に出てもいいと思ってしまう。

 未来の私はもう走ることが叶わないけど、今の私なら走ることができるんだ。


「……走って、いいのかなぁ。走りたいなぁ」

「おやつ……」


 気付けば、私の口が勝手に言葉をはき出した。

 そんな私を見て驚きつつも、恭介が優しく頭を撫でてくれる。


 ――丹羽君みたいな嫌悪感は、微塵もなかった。

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