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高校生の私が中学生になった理由(わけ)  作者: 一色 舞
第三章 幸せとは?
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3

 私の計画は、うまくいかない。

 そんな思いがぐるぐる脳内を巡るけれど、止めるわけにはいかない。次はどうしようか考えていると、リビングから部屋にいる私を呼ぶお母さんの声。

 何か用事かな。そんな風に考えながら、私は部屋のドアから顔だけ出して下に声を投げる。


「なあにー?」


 私が部屋から返事をすると、「ちょっとお使い頼まれて~」と、機嫌のよさそうな返事がくる。


「はいはい……」


 部屋を出てリビングに行こうとすると、玄関前の廊下にいるお母さんが目に入る。その手にはたくさんトウモロコシがあって、田舎から大量に送られてきたんだということがわかった。

 ……ご近所さんへのおすそ分け要員かな?

 うちのご近所づきあいは割と良好で、お土産を買ったり送ったりということも多い。今回のように、田舎から大量の野菜が送られてきた場合は言わずもがな。


 トウモロコシを入れたビニールを私に差し出して、「恭介君の家に持って行ってちょうだい」と告げられた。


 ここで恭介の家かぁ……なんて、心の中でため息をつく。

 でもまぁ、お使いならば仕方がない。私は笑顔でトウモロコシを受け取り、美味しそうだななんて考える。


「わかった、行ってきます」

「お願いね~」


 お母さんに見送られながら、隣にある恭介の家へと行く。

 病気になってから、親孝行はしたいからお母さんのお願い事には基本ノーと言わないことに一人で決めた。もうすぐ最大の親不孝をしてしまうのだから、これくらいは……と思う。

 高校生、もとい中学生の私にできることなんて、たかが知れているのだ。何かを買ってプレゼント……というのは金銭的に無理だから、主にお手伝いで頑張っている。


 親孝行をしたいと思ったときには、すでに手遅れ。なんてことをよく聞くから、こうして機会に恵まれた私はきっと幸運なんだろ。




 ◇ ◇ ◇



 恭介の家のチャイムを押すと、めずらしくおばさんではなく恭介が出てきた。と思ったら奥のリビングからおばさんもひょっこり顔を出して、「あら、ひまりちゃん」と笑う。


「こんにちはー、あれ? ユキちゃんは?」

「ユキ?」

「あ……っと、なんでもない、勘違い」


 恭介の家で飼っている、二人で拾った猫のユキちゃん。いつも私が遊びにくると真っ先にお迎えに来てくれていたから、どうしていないんだろうと思ってしまった。

 でも、それも当たり前で。


 ユキちゃんを拾ったのは、中三の冬だから……今年の冬だ。

 今はまだ生まれてもいないか、ちょうど生まれたくらいかもしれないと考える。


「誰だよ、ユキって」

「え? ええと、なんか夢に小さい猫がでてきて、それがユキちゃんっていう名前だったんだよね。夢の中でいっぱい遊んだから、なんか現実にもいるような気がしちゃって」

「ふぅん……?」


 夢にユキちゃんが出てきたことはあるので、完全に嘘をついているわけでは……ない。

 猫の夢は楽しそうだなと、犬より猫派の恭介が告げる。それには私も完全に同意なので、「うらやましいだろう」と自慢しておいた。


「あらあら、すごい立派なトウモロコシじゃない!」

「お母さんからです。今年も田舎からたくさんもらっちゃって」

「いつもありがとうね、お母さんにもよろしく言っておいて。そうだ、蒸かすから一緒に食べましょう」


 トウモロコシを受け取って、おばさんが「あがっていって」と私に勧めてくる。


「え、でも……」

「上がってけよ、おやつ」

「うーうん」


 少し悩みつつも、恭介が「早く」と言うのでしぶしぶお邪魔することにした。リビングにあがると、おばさんが冷たい麦茶を用意してくれる。


「すぐに用意するから、待ってて」

「ありがとうございます」

「いいのよ、いつももらっちゃって……。ひまりちゃん家のトウモロコシは、美味しくて大好きなの」


 おばさんの言葉に、恭介も頷く。

 ふふっと笑いながら、おばさんは「すぐできるから」と告げる。


「…………」

「おやつ?」

「あ、うぅん。恭介ゲームしてたのかと思って」

「そりゃするだろ。やるか?」

「うん!」


 リビングの大きいテレビに、繋がったゲーム機。にっと笑った恭介がゲーム画面に切り替える。発売したばかりのスポーツ対戦するテニスソフトを起動。

 あ、これすっごく懐かしい! 確かに数年前はまって、毎日のように恭介とプレーしていたことを思い出す。……ここ最近、恭介とちょっとよそよそしかったからここに来たのも久しぶりだ。


 このテニスゲームは得意だったから、楽しみ。

 恭介にだって圧勝しちゃうもんねと思いながら、コントローラーを握りしめる。ようし、こい! そう思い画面を見ると、サーブをする恭介の操作するキャラクター。


「ようし――って、うわスカッた!」


 私の操作するキャラクターがラケットでボールを打ち返そうとしたけれど、空振りに終わった。うそ、今までこんなミスはしたことなかったのに!

 ぎりっと唇を噛みしめながら、もう一回。今度はちゃんと当たったけれど、ラケットの端に当たってしまいアウト。


「うっそー、こんなに難しかったっけ?」

「てかおやつ……下手になってね?」

「……むぅ。おかしいな……」


 得意だったはずなのに。そう思い、はたと気付く。


 そうか、私がこのゲームが得意だったのは二年前で、今じゃない。

 つまり未来からきた私には、このゲームにブランクがあった。毎日のように恭介と対戦していた今の私は、いないのだ。


「……うぅ、すぐに勝つ!」

「いや、無理だろ。俺、おやつがきてない日もやってたし」

「くっそうー! すぐにコツを掴んでみせる!」


 パコンとテニスボールをラリーする音だけがリビングに響く。なんとか五ゲーム目で恭介から勝ちを拾ってほっと一息ついた。

 やったーとソファに沈み込むようにして、にへらと笑う。負けた恭介は悔しそうにしつつも、どこか嬉しそうだ。


「ほらほら、いつまでもゲームしてないの。トウモロコシが蒸けたわよ~」

「わ、ありがとうございます!」

「美味そうだな」


 熱々のトウモロコシをクーラーの効いた部屋で食べるっていうのは至福の瞬間だよね……。うっとりしながら、綺麗なトウモロコシの大きい粒を見つめる。

 一口食べるとぎゅっと濃縮された甘味が口の中いっぱいに広がって、止まらなくなる。


「今年のもいいお味ねぇ」

「甘くて美味いな」

「へへ、喜んでもらえてよかったです」


 三人でトウモロコシをかじりながら、麦茶を飲んで一息つく。

 そして私は、ハッとする。恭介と距離を置きたかったのに、またもや縮んでいる結果になってしまった! 白熱したテニスバトルは確かに楽しかったけど、そうじゃない……!


 恭介の家にこない……というのがいいかもしれないけれど、お母さんにお使いを頼まれたら断れないからあまり現実的ではない。

 おばさんの誘いを断るのも申し訳ないし……。うぅーんと悩みながらも、私は一つの可能性を見出した。


 そうか、そうすれば恭介はきっと私をあきらめてくれるはずだ……!

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