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高校生の私が中学生になった理由(わけ)  作者: 一色 舞
第三章 幸せとは?
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2

 クラスで孤立してしまったらしい恭介と、私はまた一緒に登校し始めた。

 本当にこれで恭介がぼっち回避できるんだろうか……と、疑いながら。



「おっす、恭介! 今日はおやつ先輩と一緒じゃねぇか、よかったな!」

「おはよう! 森君ちゃんとおやつ先輩と仲良くしないと駄目だよぉ。ここ最近一人だったから、心配だったんだ~!」


「……なんで?」


 私と登校をし始めると、ここ数日ぼっちだったのが嘘のようにみんなが恭介に声をかけた。私にもあいさつをしてくれているから、私とセット時に限る……みたいなものなんだろうか。


「お、恭介おはよ! やっとおやつ先輩と仲直りしたのか、よかったな!」

「おはよー」


 昨日クラスを覗いたときは、あいさつも返さずぼーっとしていたのに、今は普通に笑いながら挨拶を返している。めっちゃ元気で、ご機嫌だ。

 ――昨日みた恭介が、嘘みたいだよ。

 私と一緒に登下校できることが、そんなに嬉しいんだ……。若干もやっとしたけれど、その事実は純粋に嬉しくて。

 恭介の将来のために一緒に登校しない作戦はやめることにした。


「恭介と私ってさぁ……なんかセット扱いされてない?」


 こう、なんていうか……ファーストフードのハンバーガーとポテトみたいな。どっちかが欠けたらおいしくないというか、味気ないような関係。

 私がそう告げると、「そうかなぁ」なんて気のない返事をする。すぐに考え込むそぶりを見せて、ひらめいたと言わんばかりに表情を輝かせた。


「あぁ、でもそれだったら……おやつはどっちかっていうと塩?」

「塩?」


 どっから出てきたんだ。

 私はハンバーガーとポテトの話をしてたのに。

 塩なんて単なる調味料で、めっちゃ安いじゃないか。それに、どうせなら塩より砂糖かシロップの方が私好みなのに。

 そう言ってみると、「そうじゃない」と恭介からダメ出しをされる。


「なんていうか、おやつは絶対ないといけないからハンバーガーっていうよりポテトの塩?」

「あ、そういう……?」


 つまり恭介がポテトということか。

 ポテトは単品でも食べられるけど、確かに塩がないと美味しくない。


「でもそうしたら、メインのハンバーガーがなくなっちゃうじゃん。それだと寂しいよ」

「うーん……」


 恭介は悩みながら、「でもなぁ」と呟く。

 私がハンバーガーポジションだとしっくりこないのか! そう思ってしまうけれど、私も自分が主役であるとは思っていない。

 むしろ、高校生になって活躍しだした恭介の方がハンバーガーっぽいんじゃないだろうか?


「よし、決めた」

「ん?」

「恭介がハンバーガーで、私がポテト! 決定!」

「どこからその発想が出てきたんだおやつ……。俺はハンバーガーっぽくないぞ?」


 苦笑しながら長めの前髪に触れて、「ダサいからさ」と呟いた。

 ……確かに、恭介はダサい。というか、面倒臭がりで、だらしないと言った方がいいだろうか? 高校からは見違えるけれど、のんびり過ごすのが性に会っていると言っていたことを思い出す。

 部屋着だってださいジャージだし、コンビニ程度ならそのまま出かけているのをよく見かける。私が恭介の誕生日にお洒落なカーディガンをプレゼントしたりしたときは、嬉しそうに着てはくれるけど。

自分からは、絶対に買ったりしないんだよね。


 ――ハッ!


 そして私は気付く、これって――恭介との距離を縮めてる!!

 付き合わない未来のために登下校を別々にしたのに、こんなくだらない話題で超絶盛り上がってしまった!! 私としたことが、なんたる不覚か!!

 しかし無言で登校するわけにもいかないし、一緒に登校するのであればこの距離感になってしまうのは仕方がない……はずだ。


 これはもう、作戦その二に移るしかない……よね。


 それは、恭介のことを――名前ではなく苗字で呼ぶこと! そう、つまり森!!

 あ、でも名前を呼び捨てにしてきたし……森? でも苗字の呼び捨てって微妙じゃない? 森君、森さん……でも恭介は後輩だから、やっぱり森君かな?


「……黙り込んでどうしたんだよ、おやつ。何か考え事か?」

「あ、森君」

「は?」


 私が思わず森君と呼んでしまうと、恭介はひどく驚いた表情を私に見せた。そしておそらく無意識だろう――咄嗟にあがった、ひどく不機嫌な恭介の声。

 若干ドスの聞いた声は、うっかり震えあがってしまいそうで。


 まずった、と思った。


「なんでいきなり苗字呼びなんだよ……」

「えっと、いや……その」

「…………」


 まずったなぁ……。

 名前で呼ばず苗字で呼べば、ちょっと距離ができると思った。いや、いきなり苗字で呼んじゃった私も悪いけど。

 かといって、今日から名字で呼ぶねと告げて快諾してもらえるとも思えない。

 ちらっと恭介を見ると、ひどく不機嫌オーラを発している。今さっきまでは全開の笑顔だったのに。


 ……恭介って、不機嫌になったり怒ったりすることが皆無なんだよね。

 だから、こうなったときは本当に嫌だったときっていうこと。今までに一回だけ、この恭介を見たことがある。そのときは三日間謝り続けてやっと許してもらったほどだ。


「ごめん……」

「別に、謝ってほしいわけじゃないけど……」

「うん。その、なんていうかさ、もう子供じゃないんだから、恭介って呼んでいいものかーみたいに考えちゃって」

「なんだそれ?」


 私の告げた言葉に、恭介が首を傾げる。


「いやだってほら、恭介ーって名前で呼ぶ年上の女が近くにいたりしたら、恭介を好きな子がいたら可哀相かなとか……」

「そんなこと考えてたのか? くだらない……」


 くだらなくなんて、ないんだけどなぁ。

 私の言葉に拗ねるようにして、恭介が立ち止まる。まっすぐ、私から目をそらさずに見つめてくる。

 そして少しの沈黙のあと、口を開く。


「おやつは、俺を森って呼ぶつもりなのか?」

「うん。駄目かな……?」


 まっすぐ私を見る恭介は、少し考えるようにしてから――くるっと私に背を向けた。


「えっ!? ちょっと、きょう――森君、どこ行くの! 学校遅刻しちゃうよ!」


 長時間寄り道できるほど早く家を出てはいないよ! 私はそう声をあげるけれど、恭介はどうやら拗ねてしまったらしく……私の声に耳を傾けようとしない。


「森君ってば……!」


 必死で名前を呼ぶけれど、恭介はまったく振り向いてくれない。それほどまでに名字で呼ばれるのが嫌だったなんて、思ってもみなかった。


 ――でも、このまま距離が離れたら……私たちの未来は変わるんじゃない?

 これは今世紀最大のチャンスなんだと、自分に言い聞かせる。そして、恭介を追いかけようとしていた自分の足を止めて、家の方向へ歩く恭介の背中を見つめる。


「……きっと、これでいいんだ」


 私の作戦が、うまくいっている証拠だ。

 自分にそう言い聞かせ、恭介に背を向けて私は学校に行こうとして――再びハッとした。


 間違いなく、このままだと学校をさぼりそうだ……!

 さすがにそれは駄目だ、絶対。私と仲違いするのはいいけれど、その結果で恭介が不登校になってしまうのは大変よろしくない。

 恭介の幸せがいろんな意味で失われてしまう可能性が高い。


「――恭介!」

「おやつ」


 名前を呼んだらいとも簡単に振り向いて見せるから、思わず呆れてしまう。


「もう、赤ちゃんみたいだよ……」


 このまま恭介が学校を休んだらいけないので、森君呼びは泣く泣くあきらめることにした。

 さて、次はどうしようかな……。

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