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高校生の私が中学生になった理由(わけ)  作者: 一色 舞
第三章 幸せとは?
12/27

1

 恭介の幸せのために、私たちは付き合わない方がいい。

 そう結論付けた私は、さっそくそれを実現してみることにした。


 安村先生の、相手と話し合え……というのももっともだけど、過去の恭介とは付き合ってすらいないので話し合う余地はない。

 ……もし未来にもどれたら、そのときはきちんと向かい合うのもいいかもしれないけれど。


 洗面所で顔を洗い、着替え、朝食を済ませる。

 私と恭介は、中学校はもちろんだけど、高校も一緒。なので、毎日登下校が一緒だった。帰りは別々のときも多いけど、朝はよっぽどのことがない限り一緒。


「作戦その一、恭介と一緒に登下校しない!」


 ここが絶対に仲良くなるポイントだったと思うんだよね。

 こうすれば、私たちがもっと親密になることはない……はずだ。そうすれば、恭介の目も自然とほかの女の子にいって、私じゃない子を好きになると思うんだよね。


「……」


 ちょっと、もやっとする。

 でも、仕方ない。私は自分の幸せよりもっともっと恭介に幸せになってほしいんだから。


 玄関のドアに手をかけて、「いってきます」と告げると、きょとんとした表情のお母さんが顔を覗かせた。


「なぁに、ひまり。今日はやけに早いじゃない……恭介くん、まだ準備できてないと思うわよ?」

「……いいの、先に行くから」

「あらやだ、何? 喧嘩でもしたの?」


 私と恭介が一緒に登校することは、両親も把握している。なんて珍しいんだと驚いて、「仲直りしないと駄目よ?」なんて……お母さんの中では喧嘩したことになっているらしい。

 それほどまでに、私と恭介は仲がよかったからね。

 私は苦笑して、「別に喧嘩したわけじゃないから」と言う。


「え、そうなの? じゃあ、どうして?」

「どうしてって……別に、もう小さい子じゃないんだし学校くらい一人で行けるっていうか……」

「…………」


 実行することは決めていたけれれど、体のいい理由までは考えてなかった。失敗したと心の中でため息をついて、あははと笑う。

 するとお母さんは、私とは対照的ににんまりとした笑みを見せる。


「なになにひまり、アンタもしかして恭介くんのこと意識しちゃってるの~? 最近の子は早いわねぇ」

「なっ、別にそんなんじゃないし!!」

「照れなくったっていいわよ! お母さんも恭介くんなら歓迎よ!」

「違うってば! もう! いってきます!!」


 私は家を飛び出すようにして、学校へ向かった。

 もちろん恭介はまだ出てきていないから、一人で。……とはいっても、何も言わずに行くのはよくないよね。

 メッセージアプリを開いて、これからは一人で登校するねとだけ書いて送信する。すぐに既読が付いたけど、私はそれを読みたくなくてスマホを鞄にしまった。


 うん、これで大丈夫。

 私と恭介の仲がこれ以上縮まることはない。

 そう思って安堵していたんだけど――まったく予期せぬ方向に、しかも最悪なパターンとして進んでいってしまうことなんて……このときの私は知る由もなかった。




 ◇ ◇ ◇



「ひまり、今日も一人で行くの? 恭介くん、ここ最近とっても寂しそうだけど」

「もう子供じゃないんだから……! そうだって、言ったじゃない」


 朝、家を出ようとするとお母さんが私を引き留める。

 恭介と一緒に登校しないようになってから、三日目。順調だと思っていたけれど、お母さんがひどく心配そうにこちらを見てくる。


 そりゃあ、私だって気にならないわけではない。

 だから放課後は、毎日ラストまで部活に出て走ってる。そのときだけは、何も考えず無心でいることができるからね。


「……それに恭介だって、ずっと私と一緒だと彼女もできないでしょ? そういうの、嫌なの」

「恭介くんに彼女って、なに言ってんのよ。自分だって彼氏いないくせに。まずは自分に彼氏ができてから考えなさい」

「そ、それは関係ないでしょ!」


 未来ではとびきりの彼氏がいたから、いいんだよ!!

 余計なお世話ですと捨て台詞のように告げてから、私は「いってきます」と家を出た。やっぱりいつもより、ちょっと早い時間。恭介はもちろんいないから、一人。


「……ふむ」


 やっぱり、いつも一緒に登校してたから変な感じがする。

 でもきっと、すぐに慣れるだろうと考えるのをやめることにした。もやもやして、恭介のことを考えたら私が一番未練たらたらになっちゃいそう。




 やっと慣れてきた中学の教室に入り、私は自分の席に鞄を置いて息をつく。

 お母さんが登校のことでいろいろと言ってくるので、家にいてもあまり気が休まらない。私が悪者になっているような、そんな感じ。

 ……でも、実際に私は悪者みたいなものなのかもしれない。だって、恭介の気持ちを知っているのに、それを踏みにじろうとしてるんだから。


「おーやつー」

「あ、おはよう。どうかしたの、杏」


 私が教室につくと、杏がまっさきに声をかけてきた。サマーカーデガンに、長い髪をゆったりと編み込みしている姿は可愛らしい。


「おはよー」


 一直線で私のところまできて、あいさつの後に「んでー?」と首を傾げてきた。


「?」


 意味が分からなくて私も首を傾げると、杏が大きくため息をついた。いったい私が何をしたというのかと思ったけれど、杏は理由もなくこんなことをする子じゃない。

 私が何かやらかしてしまったらしいことはわかったけれど、過去へきたからは授業態度だって大人しく真面目だし、テストの成績だって……忘れている部分もあったけどそこそこ良好だ。


「……特に、何かやらかした記憶はないよ?」


 もしかして、過去に来る前に私がやらかしてた? その可能性ならあり得るけど、中学のときに何か大きなことをやらかした記憶はない。

 なんだかんだで、私たちは仲がいいからね。


「おやつの幼馴染の、森クンのことー」

「! 恭介がどうかしたの?」


 確かに、今の私に何かがあるとすれば恭介が関係している可能性はある。私の考えは恭介を中心に回っているし、今後もきっとそうだと思う。


 ――でも。


「別に、恭介とは何にもないよ?」


 だから、特に何か言われる理由は思い当たらない。

 こてんと首を傾げると、「それが問題になってるー」と、杏が告げる。


「うん?」

「森クン、おやつと一緒にいる時間もなくなって完全にぼっちっぽくなってるよー?」

「え、え、えぇっ!?」


 でも恭介は人当たりもよくて、見た目も爽やかで、勉強もできるし……ぼっちになる要素なんてあんまりないと思うんだけど――あ、そうか!!

 すっかりというか、うっかりしてた。


 私が想像している恭介は、高校時代の恭介だ。

 高校デビューをしたので、中学時代よりも数段上のイケメンに進化した。髪を切り、眼鏡をコンタクトにして、前を向き、弓道部にも入り……。

 比べて中学時代はあまりぱっとせず、静かに過ごすような男の子だった。


「あーそうか、失敗した」

「おやつは三年で、部活でも人気があるからね。結構それ関連の話題でクラスと馴染んでたけど……最近は森クンもぼーっとしてることが多いってー」


 間違いなくおやつが何かしたんでしょー? と、杏が問い詰めるような口調で聞いてくる。

 仕方がないので、私は一緒に登下校するのを止めたということを杏に伝えた。


「え、そんなことしちゃったの? 森クンかわいそー。なに、おやつは好きな子でもできたの? 誤解されたくなくて、一緒に帰らない……とかー?」

「別に、そういうんじゃないよ。ただ、幼馴染の私とばっかりいたら……その、恭介に彼女ができないんじゃないかって」

「おやつが彼女になればいいじゃんー?」


 お似合いだと思うよ?

 そう笑う杏に、苦笑を返す。


 私が中学を卒業するときに、付き合い始めるんです――とは、言えないけれど。

 でもとりあえず、私がすべきは杏への反論ではない。


「ちょ、ちょっと恭介見てくる!!」

「いってらっしゃーい」


 私は席を立ちあがって、教室を出て二年生の教室へ向かう。

 朝のホームルームまではまだ少し余裕があるから、そっと覗いて帰ってくるくらいはできるはずだ。私は恭介のクラスのドアから中を覗いて――いた。


 一番後ろの席に座って、一人でぼうっとしている。

 クラス事態はざわざわしていて賑やかだから、恭介がその輪に入っていっていないことがまるわかりだった。


「……本当の過去はどうだったかな」


 私が実際恭介と過ごしてきた中学時代を思いだしてみるけれど、いたって普通だったことを思い出す。文化祭も体育祭も、普通にクラスに溶け込んでたと思う。

 学校近くを歩いているときは、友達と挨拶だってしてた。


 ……じゃあ、恭介がぼっちになったのは私が一緒に登下校しなくなったから? まさかこんなところに影響が出るなんて思わなくて、信じられない気持ちでいっぱいだ。



 一緒に帰ろうと誘い、翌日の朝は恭介と一緒に登校してみることにした。

 これで恭介がぼっちじゃなくなったら、また登校をしなくすればいい……そう思いながら。

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