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――森恭介の日記より、抜粋。
隣の家に住む幼馴染のおやつが、なんだか変だ。
おやつとは、菓子ひまりのあだ名。
俺が小さなころから好きな相手なんだけど――なんだか最近、避けられているような気がする。
「最初に変だと思ったのは……そうだ、道を間違えたとき」
中学に登校するとき、なぜかおやつは反対方向へ歩こうとした。
慌てて「そっちじゃない」と止めると、ハッとした表情を作るおやつ。何か小さな声で呟いていたけど、残念ながらその声は俺に聞こえなかった。
聞きたいけど、どこか気落ちしているようなおやつに聞くことはしなかった。
そのまま学校へ向かい歩いていると、いつもと違ってやけにきょろきょろ辺りを見ていた。別に昨日と同じ風景で、変わったところなんて何もない。
何がそんなに珍しいんだろうと首を傾げていると、道の先にある駄菓子屋を指さして「まだある!」と嬉しそうに告げた。
……まだも何も、昨日も間違いなくそこにあったし、明日だって間違いなくそこにあるだろう。そもそもおやつは、週に何回かあの駄菓子屋でお菓子を買う。
なんであんなにテンションを上げてるのか……謎だ。
「どうしたんだよ、おやつ。なんか今日、ふわふわしてる」
「ふわふわ?」
「なんて言うか、浮かれてる感じ……」
「!」
俺が笑いながらそう告げると、おやつが気まずそうに視線をそらす。「私だって戸惑ってるんだよ」とかすかにおやつが呟いた言葉は、きっと無意識だっただろう。
でも、奇跡的に俺の耳はおやつの言葉を拾うことができた。
――何に、戸惑ってるんだ?
確かに挙動不審などころはあるから、戸惑っていることはわかる。でも、戸惑う理由がわからない。俺にも、おやつにも、この日常はいつもと同じだから。
俺の一歩前を歩くおやつは、なんていうか……そう、懐かしむように街を見ている気がする。前に、子供のころやってたゲームが出てきたときになつかしいー! と告げていたのと同じ表情だ。
なんで懐かしいんだろうか?
「うーん……」
「どうしたの、恭介」
「……いや、別に」
「へんなのー」
思わずうなって考えると、おやつが笑いながら俺を見る。
いやいやいやいや、お前の様子がなんかおかしかったから!! 思わずそう叫びたかったけれど、おやつ本人がそれを否定しているんだから仕方がない。
本人が言わないなら、探ってやろうと決める。
でも俺だって、まさかあんな真実を告げられることになるなんて――思ってもみなかったんだ。